• 2016.09.04

小網代の森 1

今週は東京から電車でたった1時間半の場所にある、とっても豊かな森からのレポートをお届けします。
その森の名前は「小網代の森」。

首都圏にありながら、多様性あふれた森として大変注目されている場所なんです。場所は神奈川県・三浦半島。県道が走る、三浦半島の丘陵地帯、尾根からぐーっと、相模湾へ向けて西へ下っていくように 豊かな自然が続いています。
県道26号の「引橋」というバス停そば、西に延びる細い道を入ると、そこが森の入り口。この先は、夏の名残のセミしぐれ、ビックリするくらい涼しい自然のクーラー、そしてあふれる生きものたちの世界が広がっていました。
今回は、この森の保全を続けている、NPO法人小網代野外活動 調整会議の代表で、慶応大学名誉教授の岸由二さんが、ガイドして下さいました!

◆小網代の森
「小網代の森」といわれているこの場所は70ha、明治神宮の森くらいの広さです。でも実際にはデコボコしていますので、植物の生えている面積で言うと100ha以上あるかもしれません。これから谷を縦断してボードウォークを歩いていきますが、周りはずっと湿地帯なんです。だから、森だけじゃなくて、尾瀬のような広い湿地帯があって、森と湿地と川が流れていて、辺りには広い干潟があります。「流域」といいますが、雨の水が1200mくらいの小さな川に注ぐ、窪地から森から海までまるごと保全したんです。

こういう保全のいしかたは日本では極めて珍しく、関東地方でこういう地形が自然のまま残っているのはここだけです。2005年に国土交通省が守ったんです。その場所を神奈川県と三浦市が都市計画で特別保護地区に指定して、神奈川県が70億くらいの予算を投入してこの場所を買い上げ、散策路を整備して、2010年7月にオープンして、いまはどなたでも散策できます。1400mくらいあるんですが、源流の森から湿原をたどって、海までいけます。たとえば多摩川の源流から海まで行こうと思ったら3〜4日かかりますが、ここは川の始まりから海まで、早足なら30分、ゆっくり歩いても1時間から1時間半で自然の移り変わりがわかります。そこにたくさんいきものが集まっていて、支流が合流すると、生態系が変わって、また支流が合流するとまた変わって…景色が変わるのが手に取るように分かる。もちろん生物多様性のサンクチュアリみたいなところでもあります。
大きい蝶が飛んでいますが、あれは日本で一番大きいクラスのモンキアゲハです。ここには大型の蝶がいっぱいいるんです。ここにタマムシがいますね。この羽を集めて「玉虫の厨子」というのがつくられていますね。なかなか会えるものではありませんね。



小網代の森は2014年に 一般の人が散策できる森としてオープンしました。尾根から下り、相模湾まで続く道は、ウッドデッキのような木道が整備されていて、足元を気にせず森をめいっぱい感じられます。
それにしてもなぜ、こんな豊かな森が観光地・三浦半島に残っているのでしょう。森の散策の中で、岸先生はその謎も教えて下さいました。

◆森を創出する
そこにコナラという木が倒れています。小網代の森の管理はこういう大きな木が倒れても放っておくんです。この辺りは基本的には岩山なので、大きな木が根を伸ばせません。だからひっくり返るときに、「根返り」といって、一緒に土が巻き上げられます。そして雨でその土が流れます。その土と一緒に色んな栄養分が森から海へ行くわけです。それで干潟が支えられて、湿原が支えられます。だから、それが生態系の循環の一環になっているわけです。それにああいう大きな木が倒れると周りが明るくなって、そして次の世代が育ちます。
僕が小網代に入り始めて32年ですが、32年前はこの辺りは全部砂利で、笹が生えていて木なんかありませんでした。元々ここは1000年に渡って雑木林は薪をとるため、谷底は水田と畑だったと思います。そこを大開発するということで、1960年代に農家が土地を手放して企業が買いました。それから50年間ずっと放置されていたんです。それでどんどん笹が伸びて、谷底は全部笹になり、乾燥してホタルもいなくなり、蝶もいなくなり、トンボもいなくなり、川には魚もいない状態になってしまったんです。それをいまから10年くらい前に保全されて、土地も収用されて、県から我々が依頼されて、生き物がたくさん気持ちよく暮らせるように、こういう場所にしたんです。だから、これは原生林ではないし、昔の状態を復元したものでもありません。ここの生き物が持っていた潜在的な力をうまく使って、たくさんの生きもものがにぎやかに暮らしていて、なおかつ安全で魅力的な場所をつくっているんです。あと全体を整備するのに20年くらいかかりますが、文句無しに日本列島の都市周辺ではいちばんすごい自然になります。どういう植物を増やして、どういう植物を抑えるのが正しいのかということについては客観的な基準はありません。それは生態学者としての私のセンスを信頼してもらうということです。なるべく多様な動物や植物が暮らせるように環境を整えるということですね。


小網代は、かつてリゾート計画が立ち上がり、ゴルフ場など一大リゾート地にしようという計画があったそうで、そのため民家が建たず放置されることになったんだそうです。そうなふうに放置され、笹だらけになった土地の笹を刈り、森を育てた。つまりこの森は原生林ではなく、人の手で作りだした森ということなんですね。
岸先生によれば、小網代で保全の手が入っているのはまだ全体の10分の1程度。あと5年〜10年かけて、人の手によって、森をより豊かに育てていくのだそうです。

今回の散策の様子はポッドキャストでも詳しくお届けしていますので、こちらもぜひお聞きください!

【今週の番組内でのオンエア曲】
・Island In The Sun / Weezer
・Hello ! / YUKI

パーソナリティ

高橋万里恵
高橋万里恵

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