• 2015.07.19

コケのふしぎ2

 今週も引き続き、私たちの暮らす街の塀のスキマやアスファルトのすみで、ちょっと地味に生きている、あの植物・・・「コケ」のお話です。
東京大学の教授でもある、理学博士の樋口正信さんによれば、日本には1800種類のコケがいて、東京・皇居の中には130種類のコケが存在すると言います。
つまり、皇居はもちろん、日本各地の「森」の中にもあまり目立たず、ひっそりとコケのみなさんは生きているわけですね。
 というわけで、全国の森にいるコケたち、そして森とコケの関係について、コケ博士・樋口さんに伺いました。


-森にとってのコケの存在とはどういうものなんでしょうか?
 森の中のコケには、木の幹に生えるもの、倒木の上を好むもの、あるいは石の上にはえるものなど、種類ごとに好きな場所だとか環境があるわけなんですね。ですから、どんな森に行くかで種類が違ってきます。
 植物の分布というのは、温度がキーになります。ですから、南の方から北に行くと、常緑の広葉樹林から落葉広葉樹林、高山性の針葉樹林というふうにだんだん主要な樹種が変わっていくのですが、それにともなってコケの種類も変わっていきます。
 コケは光が完全に遮られてしまうと生きていけないので、常緑のシイやカシの林にはコケの種類は少ない。落葉広葉樹林も秋になると葉が落ちるので、それに覆われてやはりコケは生育できません。苔庭にあるモミジは庭師の方が落ち葉を掃いてコケを維持しているわけです。しかし、自然の林ではそういうことはないので、例えばブナ林とかミズナラ林にいくとコケはだいたい倒木、それから石の上、登山道や道路の脇の落ち葉がたまらない場所に生えています。ですから、コケが好きな環境は木漏れ日ですね。全く暗くても駄目だし、直射日光がガンガン当たってもよくない。ですので、だいたいコケの上には木漏れ日があたるようになっていると思います。森に行ったらぜひ上を見上げて観察してみてください。

 
-森にコケがあることで森にいいことってあるんですか?
 たとえば森のダムという言葉があるんですが、林の中でコケに覆われている場所とそうでない場所を比較すると、降った雨がその場に維持される時間に差があります。それから、コケは自分の体に水分を蓄え、それが蒸発するので、林の中湿度を保ち、他の生き物に適度な潤いを与えます。
 また、地面に落ちた種子は病気になったり、動物に食べられたりしてなかなか次の世代の森の木になれません。しかし、倒木の上のコケに種子が落ちると、虫にも食べられない、カビなどにも侵されないということで、無事に発芽して成長するということがわかっています。
 倒木の上にいくつかの種子が落ちて発芽し、成長していくと倒木はだんだん腐ってくずれていきますよね。そうすると結果的にちょうど一列に木が並ぶわけです。ですからまるで人の手で植えたようにきれいに一列になる。これを専門用語でいうと「倒木更新」といいます。
 いま注目されている研究分野のひとつに、対象の生物だけを見るのではなく、となりにいる生物との繋がり、相互作用、そういうものを観ていこうというものがあります。これまでは専門家が深くその生物について調べていくという方向があったのですが、いまはトータルに、森全体としてそこにいる生物がどういうふうに関わって生きているのかということを調べようということが注目され進められています。
-なんだか人間と同じですね。
そうですね。やはり一人では生きられないということですね。


-コケと森は、「一体」なんですね。そんな森の中のコケたちは、同じ場所にびっしりと生えている印象があります。あれはなぜですか?
いくつか理由があるのですが、ひとつは胞子が適当な環境に落ちると発芽して、とくに蘚類の場合には糸状の細胞がたくさんできるんです。これを原糸体とよんでいます。それが網の目状にひろがって、私たちが見ているコケの芽が出て、一斉に大きくなっていくんですね。ですから、同じステージで成長するので同じ大きさになるというのがまずひとつ。
 それから、コケは非常に構造がシンプルで、周りが乾いたらすぐにしおれてしまうのですが、長い時間光合成をするためには、その間は体の中に水分がないといけないわけです。ピシっと密生して生えていると自分の体だけではなくて、となりの個体と個体の間にも水を蓄えることができるということで、密生して水分の蒸発を防いでいるんですね。ですから出る杭は打たれるという言葉がありますが、おそらくその中で一本、二本が突出するとその部分は乾燥してしまって成長できないので、結局横並びになるんです。だいたい丸くなったりカーペット状になるといのは水分との関係だと思います。
 木は根から吸い上げた水分によって体が維持されていて、それが断ち切られると大きな体を支えられなくなってしまうわけですよね。コケの場合は体が単純なので、しおれても水を与えればまた元に戻って成長します。体が非常にシンプルだということは、いざというときの強さがあるのかもしれませんね。


国立科学博物館・陸上植物研究グループ長で理学博士の樋口正信さんの「コケ」たちの知られざる世界のお話いかがだったでしょうか。
『森のダム』『倒木更新』ということばは初めて聞きましたね。こんど森に行ったらぜひ見てみてください。
そして、コケたちは「木漏れ日が好き」というのも印象的ですね。みなさんも公園など身近な森に入って、コケを発見したら、上を見上げてみてください。葉っぱのスキマから
木漏れ日がさしているかもしれません。木漏れ日のキラキラ綺麗な場所を一番知っているのはコケたち、というわけなんですね。

来週も引き続き樋口正信さんのお話しをお届けします。
どうぞお楽しみに。


【今週の番組内でのオンエア曲】
・8cmのピンヒール / チャットモンチー
・What'cha Know About - (Featuring G. Love) / Donavon Frankenreiter

パーソナリティ

高橋万里恵
高橋万里恵

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