プロジェクト概要

太古の昔より、森は動物や植物などたくさんの命を育み、田畑や海、川にたくさんのミネラルをもたらし、地域と暮らしを守ってきました。 東日本震災では津波でコンクリート堤防や松林がことごとく破壊される中、その森や、昔からその地方に根差す、深く地面深くに根を張った潜在自然植生の木々たちは、津波の勢いを和らげました。 関東大震災や阪神大震災では、大火により建物が燃える被害を食い止め、防災林として大きな役割を果たしました。 この「鎮守の森」をモデルとした森をできるだけ多くつくることは、災害の多いこの国に生きていく私たちが、後世に伝え残さなくてはならない貴重な知恵であり、自然と共生していく教訓でもあります。 番組「いのちの森〜voice of forest~」では、「鎮守の森のプロジェクト」が行う活動をはじめ、日本のみならず世界各地の森を守る活動を行う人や団体にスポットをあて、森の大切さについて考えていきます。

今週も引き続き、漫画『ゴールデンカムイ』のアイヌ語監修者、千葉大学 文学部教授 中川裕さんのお話です。
このゴールデンカムイという漫画、アイヌのかつての生活がとても詳細に描かれていることも、大きな魅力の一つなんですが、中でも本当に面白いのが「食べ物」をめぐる描写です。
ということで今日は、アイヌの「食」にまつわるお話です!


 アイヌの方では、昔は基本的に主食は鍋。日本だとご飯があって、そのおかずとして鍋がありますが、アイヌではご飯にあたるものは特にないので、鍋の具が主食なわけです。焼くというのは臨時的に野外で獲ったところでやるとか、囲炉裏で何かを串に刺して焼くというのがあるんだけれども、あまり普通の食べ方ではないです。なぜかというと、焼いて食べるには網が必要になりますが、あまりアイヌの社会では広がっていないんですね。そうすると串に刺して焼くことになりますが、串に刺して焼くと脂が下にたれますね。もったいないでしょう?鍋に入れておけば脂は全てその汁の中に入るわけですよ。
 それから野菜を食べるにも、肉を焼いちゃったらまた別に一品料理を作らなければいけない。鍋だったら全部一緒に入れちゃえばいいから、鍋の方が簡単な上に無駄がないんです。昔はアクすら取らずに混ぜちゃったそうです。食材から出てきた養分を全部逃さないんですね。
 また、獲った時にしか生では食べられないのだから、それ以外の時は保存食料にしたものを使うわけですよね。保存食料といっても、和人の場合には主に塩漬けにしたり、発酵させたりします。発酵させるにも塩が必要なので、要するに塩漬けなんだけれども、アイヌの場合は塩を使った保存法はほとんどやりません。いちばん基本的なのは乾燥です。肉でも魚でも全部まず干して干物にして、それから家の中の囲炉裏の上にぶら下げて燻製にするわけですよ。そうすると日持ちするので、獲物を獲った時でも、山菜を採った時でも、まず最初にやるのは乾燥させること。例えば、ウグイとかヤマメとか小魚を獲ってきたら串に刺す。串に何十本も刺して焚き火のところに立てておく。そうして焼いたものを囲炉裏の棚の上に上げておいて、そこで下からの煙で燻製にしてカラカラに干しておく。その場では食べません。おやつで子どもたちが食べることももちろんあるんだけれども、基本的には保存食にしておいて、燻製になっているものを折って鍋の中に入れて出汁にします。何も採れない時期、冬とか山菜が一切採れない時期にも食べられるように、採れる時に作っておくというのがいちばん重要な仕事なので、基本的に乾燥食料なわけですよ。だから鍋料理が基本なんですね。


〜漫画の中に出てくる「チタタプ(本来” プ”は小字)」もすごく衝撃的でした。
 漫画の中では、チタタプはリスやウサギ、獣類を調理するものだという印象がみんなに刷り込まれちゃったけど、それももちろんやりますが、基本的にチタタプは鮭です。細かく刻んで食べる料理で、ちょっとみんなが考えているのとは違います。鮭の肉は使わず、ヒズという頭の真ん中にある軟骨と白子を基本的に使います。細かく刻んで白子を混ぜて、ちょっと塩を入れて、あるいはギョウジャニンニク、ノビルのような野生のネギを刻んで入れるというのが基本ですね。そこに加えるとしたらヒレや尻尾を細かく刻んだものです。

〜鮭の身は入っていないんですね。
 寄生虫がいるから身を入れてはいけないんです。アイヌでは鮭の身は生では絶対に食べません。あとエラやヒレ、尻尾なんかも食べるために細かく刻むんです。細かく刻んであれば食べられるわけです。そのまんまで食べられない部分を食べるための工夫がチタタプなんですね。

〜漫画だとリスを刻むシーンがありますね。
 ああいうやり方もあります。動物によって生で肉を食べられるものと食べられないものがありますが、例えばシカは大して問題はないんですが、熊の肉は寄生虫がいるので、生では食べません。でも内臓と脳みそは生で食べるものなんです。あれには寄生虫がいないので。あれは生で食べないといけないものなんです。

〜中川先生は召し上がったことがあるのですか?
一通り全部食べました。おいしいですよ。ちょっと塩とかネギとか入れて味付けしないといけませんが、そういう味付けをすると僕は好みですね。味はタラの白子に近いと思います。


漫画『ゴールデンカムイ』のアイヌ語監修者、千葉大学 文学部教授 中川裕さんのお話、いかがだったでしょうか。来週も引き続き中川さんのインタビューをお届けします。

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アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」著者: 中川 裕 野田 サトル(集英社新書)
今週は、前回に引き続き、漫画『ゴールデンカムイ』のアイヌ語監修者、千葉大学 文学部教授 中川裕さんのお話です。
明治時代末期の北海道を舞台に、ヒロインのアシリパ(本来”リ”は小字)をはじめ、様々なアイヌの登場人物たちが活躍する冒険活劇・ゴールデンカムイ。
この作品は、アイヌの人たちの昔の暮らしが詳細に描かれているんですが、そんなアイヌの自然観、生命感を象徴するのが「カムイ」です。きょうはこの「カムイ」という存在について、さらに詳しく伺います!


 カムイの本体は霊魂、魂なんです。肉体というのは人間のいるこの世界に来る時だけ必要なもの。人間と交流をするために霊魂の世界、つまりカムイの住む世界から魂がやってきて、人間と何らかの関わりを持とうとするわけです。この時にお土産として肉や毛皮を持ってやってきて、それを人間に与えるんですね。与えるときに、人間はカムイを殺さなければいけないわけですね。それが狩猟です。殺して肉と毛皮をありがたくいただいて、そのかわり人間のほうもカムイに対して、カムイの世界では手に入らないもの、例えばお酒とか米の団子とか、イナウという木を削ってふさふさっとしたものがあるんだけれども、こういう人間が作らないとこの世に存在できないようなものを、カムイにお土産として持たせて帰ってもらう。つまり物々交換ですね。交易と言ってもいいです。熊と人間はお互いに自分の持っているものを相手に与えて、交易をしていると。それが伝統的な考え方なんですね。だから狩猟というものをギブアンドテイク、ウィンウィンの関係と考えます。
 実際問題としては、要するに動物を殺して食っているわけだから、一方的なご都合主義的な考えじゃないかと思うかもしれませんが、じゃあわれわれは豚とか牛とか鶏を毎日食べているわけだけど、これはなぜ良いのか。倫理的に他の動物を殺して人間が食べても良いというのは何が保証しているのかというと、何だかよくわからないですよね。ほとんど日本人は何も考えていません。それは、なぜかといったら、自分が殺していると思っていないからですよ。自分たちが直接手を下していないから命を奪っているという感覚がないというだけの話です。狩猟民族は自分たちで狩りをして殺して、それによって生きているということを常に感じているので、なぜ自分たちがそれをして良いのかということを考えなくちゃいけないんです。そのひとつの答えとして交易という、お互いがギブアンドテイクなんだという考え方に達したわけです。何も考えていない我々より、こちらの方がちょっと洗練された考え方ですよね。


〜ゴールデンカムイを読んでいると、最初は狩りのシーンとかお肉にしているシーンに驚くのですが、どんどん変わってきますよね。ありがたく全ていただく精神とか、ウィンウィンの関係とか。それが読んでいるうちに当たり前に考えられるようになる感じがします。
 ゴールデンカムイにアシリパさんというアイヌの女の子のヒロインが出てきますが、小動物に限らず動物を見ると殺して食うヒロインというのは日本の漫画史上ほかに例がないんじゃないかと思います。その背景にある思想というのがそこかしこで語られているのですが、たとえば手負いのシカを杉元がとどめを刺すシーン。鹿に戦場での自分の姿が二重写しになっちゃって、どうしても引き金が弾けない。その時にアシリパが仕留めて、解体をして腹を裂きながら、杉元に向かって「手を入れてみろ」と言うわけです。真冬の話ですから「暖かい」と。その暖かさがお前に伝わってお前を温めた。だからシカが生きていた意味は消えたりしないと杉元に言うシーンがあるわけですね。大変名場面だと思うんだけれども、ああいう形で、人間は他者の命によって生かされているということを、アシリパ(本来”リ”は小字)がいろんな場面で言うんですね。それが当たり前のような感じにだんだんなってくるわけね。そこは凄いと思います。

〜ゴールデンカムイの漫画で多く登場するのは熊ですね。我々もこの番組で以前北海道を取材したのですが、熊というのは神様で、キムンカムイという名前がついていると知りました。やはりヒグマはアイヌの人々にとってすごく特別な存在なのでしょうか。
 北海道でただ「カムイ」といったら普通はクマを指すんですね。キムンカムイの「キムン」は「山の」という意味だから”山のカムイ”。熊はカムイの代名詞みたいなものですね。少なくとも地上にいる最も強い生物なわけだから、格が高いというか、偉いということになるわけですね。それと、私の個人的な考えですが、なぜクマは偉いことになっているかというと、ものすごいたくさんの肉を人間に届けてくれるということがあると思います。鹿と比べてはるかに肉の量が多いわけですね。クマは横に広がったような顔をしていますが、あれは大半が筋肉。骨は細長いんですよ。顔だけで相当量の肉が取れる。しかも、個人的な好みの問題もあるんだけれども、鹿よりも熊の方がうまい。ただ塩ゆでにしただけでも獣臭くないし、大変美味しく食べられるんです。おいしいなと思った時に、だからクマのカムイは偉いんだなと僕は思ったことがありましたね。

漫画『ゴールデンカムイ』のアイヌ語監修者、千葉大学 文学部教授 中川裕さんのお話、いかがだったでしょうか。来週も引き続き中川さんのインタビューをお届けします。

中川さんが新しく出された本「アイヌ文化で読み解く『ゴールデンカムイ』」(集英社新書)を10名の方にプレゼントします!このページのメッセージフォームからご応募ください。ご住所、お名前を忘れずに記入してくださいね!

アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」著者: 中川 裕 野田 サトル(集英社新書)

【今週のオンエア曲】
・OLE!OH! / 木村カエラ
・そのいのち / 中村佳穂
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高橋万里恵
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