世界をフィールドに活動を続ける写真家・石川直樹さんのインタビューも、今回でラストとなります。世界各地の自然、その自然と人類の関わりなどをファインダーを通して伝えてきた石川さん。最後は、これまでの旅で特に印象的だった「森」について伺いました。


 森というと、日本だと屋久島を思い出しますが、屋久島の屋久杉よりも太い「カウリ」という木がニュージーランドの原生林にあります。そこはニュージーランドの北の島で、マオリという先住民が大切にしている原生林の森なのですが、いまでも思い出深いですね。マオリの森もあちこちに小川があり、豊かな森なんです。

〜写真を見ると奄美の森のようですね。日本の森とは違いますか?
 植生は少し似ているかもしれないですが、密度、広さや流れた時間でいうと、その森は深くて濃くて密な感じがしました。そこにある木でカヌーを作って、それで海に漕ぎ出していったポリネシアの人たちがいたんです。ですから森が海とすごくダイレクトに繋がっている聖地みたいな森でした。
 イースター島とニュージーとハワイをつなぐ広大な三角形をポリネシアン・トライアングルといいますが、ヨーロッパの三倍くらいもある大きな海域です。でも、ヨーロッパはたくさんの言語に分かれているのですが、ポリネシアン・トライアングルはポリネシア語でつながっています。海は隔てるものではなくつなげるもので、島々に同じ言葉を話す人が広大な地域に拡散したんですね。そこではカヌーが重要な役割を果たします。島から島へ渡るためには船が必要。船を作る森はいくつかありますが、その中でもニュージーランドの森はとても深くて、大きな木があり、そこからが全てではないですが、カヌーの故郷みたいな場所でもあるんですね。


〜ニュージーランドからイースター島なんてすごい距離ですね。
 そうです。ものすごい距離です。その間には島が点在しているのですが、島の岸辺から次の島は見えない。その中で海に漕ぎ出していった人たちがいるというのはすごいですね。隣の島が見えているなら行く気もしますが、それがわからない、地図もないのに漕ぎ出した人がいる。それは冒険心でしか無いと思いますね。GPSもないので、星を見て海を渡ったんです。その星の航海術を学生時代にフィールドワークしていたので、その興味から広がってニュージーランドの森に行ったりポリネシアに行ったりしました。

〜星の航海術は星だけを見るのですか?
 海図もコンパスも使わず、スターコンパスの技術を駆使したり、星が見えない時は雲の動き、海の色、匂い、鳥の動き、太陽などあらゆる自然現象を頼りに、自分の位置と行くべき方角を導き出す伝統的な航海術があのあたりの海域にはあったんです。当時の人達は感覚が僕たちと違うんですね。空間認識の方法も、僕たちは駅の看板があるからこういうところだと把握しますが、海の上に看板はないですから、五感を総動員して周りの状況を把握していたんです。それは今とは比べ物にならないほど鋭く、研ぎ澄まされていたのではないかと、そこかしこの島では感じました。

〜見えないけどあるかもしれない島に行く好奇心はどんなものだったのでしょうか。
 島の中で村同士の闘いがあって追い出されやむを得ず出た人もいれば、台風などの災害で食料がなくなり島を移らないければいけないなど、やむを得ない人もいたでしょうが、そこには冒険心も含まれていたと思います。あの大きな雲の下に島があるという伝説などをもとに、何人もが海に漕ぎ出し、島があるとわかったら情報を持って戻ってくる。それを繰り返して人類は拡散していったんだと思います。その過程で遭難した人はたくさんいますが、そうやって尺取り虫のように行っては戻り、行っては戻りしながら情報を共有して、ポリネシアの広大な海域に人類は拡散していったんでしょうね。
 私達は星空を見て美しいと思いますが、それ以上に昔の人達はそれを情報に変換していたんです。方角やいる位置を導き出せた。そういう技術は奇跡的なものだと思います。


〜今後はどんなところにいらっしゃるのですか?
 北海道の知床半島に毎月通っているのですが、そこにロシアの沿岸でアムール川の水が凍ってできた流氷が流れ着くんです。海は塩水だから凍らない。真水が凍って流れ着くわけですね。その流氷を知床で観ていたら、スタート地点が観たくなりましたので、スタート地点を見に行きます。

石川直樹さんのお話、いかがでしょうか。石川直樹写真集『この星の光の地図を写す』を始めとした石川さんの作品、そして写真展についてはオフィシャルサイトをぜひご覧ください。
http://www.straightree.com/

【今週の番組内でのオンエア曲】
・Baumkuchen (featuring ohashiTrio) / 大橋トリオ
・Don't Stop Believin' / Journey

今週も先週に引き続き世界をフィールドに活動を続ける写真家・石川直樹さんのインタビューです。
東京・新宿の東京オペラシティ アートギャラリーで開催中の写真展のお話をいろいろ伺ってきましたが、今回はユーコン川の川下りについて伺います!

 カナダのホワイトホースという小さな町からくだりはじめて、ユーコン川はアラスカへ入りベーリング海へ続いていくんですけど、僕はアラスカ国境直前のドーソンというところまで下りました。二十歳のときにも一度行っていて、去年の夏に20年ぶりにもう一度行ってみたんです。何度も繰り返していくものではないんですが、昔の記憶も薄れてしまうからもう一度行こうと思ったんです。
 一人でカヌーで川を下り、日が暮れると岸辺で野宿をして魚を釣ったりというのは、旅の本質、本島の旅がそこにある感じがあって、面白いんですよね。スケジュールを決められるわけではなく、地図とコンパスを観ながら毎日毎日。「魚釣れるかな?」とか、いろんなものごとを考え、本を読みながら…いい旅なんですよね。
 上流は緑の森の中ですが中流になると広大な風景になり、川の色も茶色になります。それは砂混じで茶色くなっていて、上澄みを取るときれいな水です。そうやって川と密接に付き合う旅もなかなかないので楽しいんです。
 気をつけるのはクマ。食料をテントに置いてはいけないので木にぶら下げたり、匂いのつくものはテントに入れないとかいろんなルールがあります。足跡もよく見るので気をつけないといけないんです。カヌーから岸辺の熊を見たりしますしね。クマの足跡があるところはクマのテリトリーだからテントを張るのはやめます。魚を釣って焼いて食べるときも、ちらかすとクマが来るから、きちんと川に流そうとか、一人で旅をしているけれども、それ以外の環境について思いを馳せることになりますよね。一人でいるけど自然の中にいるということを強く意識します。
 北極ではシロクマにも何度も会っていますが、面と向かうと震えますよ。足が震えて、言葉が出なくなります。そのときは向こうから2〜3mの距離まで近づいて来て、仲間がライフルを空に撃って逃しました。スノーモービルにのってグリーンランドでシロクマに会ったときは、エンジンを鳴らして逃げてもらいました。動物園ではない、檻のないところであうと怖いですね。


〜そんなユーコン川を下る旅では何をしている時間が楽しいですか?
 一日の始まりは朝焼けが見えたりして、漕ぎ出そうというときが不安もあるけど楽しいです。あとは川の上でのんびりしながら釣りしたり、本を読んだりという時間も楽しいですね。焚き火も楽しいし、全部楽しい。毎日ずっと川も流れ続けていて、森で山火事があればすごい煙と匂いがしたり、瀬が出てきて竿を突っ込むといつもつれない魚がつれたり。劇的に変化はしないが川は流れているというのをすごく感じますね。


石川直樹さんのお話、いかがだったでしょうか。インタビューの模様はポッドキャストでも詳しくご紹介していますので、こちらもぜひお聞きください!


石川直樹写真集『この星の光の地図を写す』リトルモア

【今週の番組内でのオンエア曲】
・MINT / Suchmos
・My Church / Maren Morris
今週も先週に引き続き世界をフィールドに活動を続ける写真家・石川直樹さんのインタビューです。
東京・新宿の東京オペラシティ アートギャラリーで写真展を開催中の石川さん。その写真には、いわゆる「世界の絶景」をおさめたものだけでなく、人と自然・人類の歴史など、独自のアプローチで撮られたものが多いのですが、今日はそんなお話をいろいろお届けします!


 人がなかなか行かない場所に行くということは、ガイドブックなんかもないですから、情報を得られるのは人類学の論文だったり、民俗学の論文だったりします。なので、意識しなくてもそこに接続していくのがあるんです。例えばパキスタンの山奥の情報はあまりないし、各地の小さなお祭りなんかも人類学や民俗学の視点がどうしても必要になってくるわけですね。

〜いろいろな場所の、何万年も前の私たちの祖先が描いた壁画を写真に収められていますね。
 旅をするというのは移動する事ですが、古代の人が直接描い壁画だったり、手の痕跡だったりを見ると時間をさかのぼる旅をしていくような感覚があって、今までの山登りとかとはまた違う、タイムマシンではないけれども、そういう旅をしているような感覚になりますよね。

〜動物も様々に描かれていますよね。
 おまじない的な意味合いもあるみたいで、動物を捕りたいという強い願いを込めて描かれた壁画だと言われていますね。

〜数々の壁画を見ている石川さんですが、一番印象に残っているのは?
 世界中に手の壁画があるんです。。ヨーロッパにも中央アジアにも北米にも南米にもオーストラリアにもあって、それがすごく不思議なんです。壁に手を置いて、口に顔料を含んで唾液と一緒に、インクジェットプリンターのように吹き付けていくんです。その壁画が世界中に残っているのですが、なぜ描かれたのかいまだに諸説あってわかっていなくて、それがいつも不思議に思っていますね。ネガティブハンドといって、写真のネガフィルムと同じで反転画像になっているんです。それが不思議。なぜなんだろうといつも思います。ほかにも本当にいろんなもの見ましたね。オーストラリアの壁画なんかはいまも描き続けられています。アボリジニの人たちは文字がないので、絵で歴史を伝えたりして、今もずっと受け継がれて描き続けられているんですよね。

〜今回の個展では秋田のなまはげなど、来訪神をテーマにした写真もありますが、写真家として仮面の神々たちをどんな存在だと思いますか?
 仮面がものすごく迫力あって、インパクトがありました。鹿児島の悪石島にボゼというものを見て、「日本もアジアなのか」という感覚に出会ってから、日本列島に点在する来訪神の仮面の行事を撮影していこうと思10年近くずっと撮影し続けていますね。仮面を使ってお祭りは北陸と東北と九州と沖縄があって、間にはない。やっぱり海の彼方からやってくる異質な他者を表しているらしくて、北と南に分かれていて面白いですね。特に南のはやっぱりアジアとのつながりがすごいあります。中国大陸もあるし、あるいはフィリピンやあっちの影響も見られるし、交差点になっている場所が鹿児島・沖縄の島々かなと思います。


『国東半島』石川直樹(青土社)

〜国東半島の写真集も出されていますが、国東半島はどういう土地なんですか?
 すごく不思議な場所でした。3年ぐらいずっと通っていたんですけれども、すごく古くからの行事だったり文化が残っている場所で、朝鮮半島の影響も混じっているし、仮面の行事、ケベスだったり修正鬼会(しゅじょうおにえ)だったり、昔からの特別な行事事がたくさん残っていて面白い場所でしたね。

〜修正鬼会とはどういったものなんですか?
 お坊さんが全身を縄で縛られているのですが、鬼の魔力を閉じ込めると言われています。お坊さんたちは夜通し集落を一軒一軒まわり、お祈りをしたりご馳走をもらったりお酒を飲ましてもらったりして、最後は本当にフラフラになって朝5時にお寺に戻ってくると、暴れて暴れて、トランス状態に入ってるんです。そして、みんなに押さえつけられて縄を解かれるとまた日常に戻るという不思議な行事ですよね。

写真家・石川直樹さんにお話いかがだったでしょうか。石川さんの個展「この星の光の地図を写す」は新宿の東京オペラシティ アートギャラリーで開催中。


同じタイトルの写真集も出版されています。ぜひチェックしてみてくださいね。

石川直樹写真集『この星の光の地図を写す』リトルモア

【今週の番組内でのオンエア曲】
・SNOW SOUND / ALEXANDROS
・Ain't Got You / Kevin Michael

「Shinrin-Yoku(森林浴): 心と体を癒す自然セラピー 」宮崎良文著(創元社)

番組にご出演いただいた宮崎良文先生の本「Shinrin-Yoku(森林浴): 心と体を癒す自然セラピー 」リスナープレゼントへの多数のご応募ありがとうございました!
当選されたのは

佐賀県 トウ様さん
栃木県 にっこりさん
滋賀県 滋賀のしがスカオさん
兵庫県 ウリカさん
東京都 はぎはぎさん

です!楽しみになっていてくださいね!
今週は、世界をフィールドに活動を続ける写真家 石川直樹さんをスタジオにお招きします。22歳で北極から南極まで人力で踏破、23歳で七大陸最高峰の登頂に成功し、その後も各地を縦横に旅して撮影を続け、人類学や民俗学などの視点を取り入れた独自のスタイルによる写真は、日常や世界を見つめ直す活動としても注目されています。いま東京・新宿の東京オペラシティ アートギャラリーで写真展を開催中ということで、この写真展でも公開されている世界で二番目に高い山・K2に挑戦されたときのエピソードをはじめ、様々なお話を伺いたいと思います。


〜東京オペラシティーで開催中の個展を拝見しました。氷河ですとか、森にきれいな水が注いでいるところですとか、美しさに圧倒されましたし、その土地の人々の生活もみえる素晴らしい写真でした。これは石川さんが写真家として活動してから最近までのものを集めたものですか?
 そうです。20歳の頃から41歳まで、20年分ぐらいの写真を一同に集めたものです。いままで70〜80カ国ぐらいの国に行きました。移動距離は、砂漠から森から乾いたところまで、高いところから低いところまでと、本当に今までいろんな場所歩いてきたなと、展示を構成していく中で思いましたね。


〜個展ではいろんな部屋に分かれて展示されていて、K2に挑戦したときの石川さんのテントも展示してありました。この山はエベレストよりも登るのが難しいと聞きました。
 世界でいちばん高い山はエベレスト、2番目がK2なのですが、登るのはエベレストの30倍ぐらい難しい。10人いたら3人ぐらいが死んでしまう、死亡率の高い危険な山でもあります。日本でもいちばん高い富士山より2番目の北岳のほうが険しく難しいですね。それと同じで、エベレストよりもK2のほうが独立峰のように切り立っていて、平らな場所がどのルートから行ってもほとんどない。落石や雪崩がすごく多くて、難易度の高い山です。


〜そんな山に登るのは怖くないのですか?
 もちろん怖いです。雪崩がすごく多いので、雪が締まる明け方や深夜出発しますが、それでも雪崩が来ます。ですから、非常に怖いですけれども、でも、怖いというのは新しい世界に出会っているということでもあるので、怖いけれども嬉しい。自分が全く知らない世界にいるんだという気持ちが、好奇心の方が怖さを上回っているので、いつも行っているのはかなと思います。
 K2に行ったのは下見を合わせて2回だけです。2015年の夏と、でも登頂できなかった。ロープを引っ張っていってルートを作っていくんですが、雪崩が3回ぐらい起きて、ロープが埋まってしまって、回収できないような状態だったり、そのまま装備を吹っ飛ばされたりして、これ以上続けるのは無理だなというところで、7300メートルで引き返してきたんです。なので今年の夏もう一度行こうと思っています。


〜変な質問なんですが、お手洗いはあるんですか?
 ヒマラヤのベースキャンプには小さなお手洗いを設置します。上の方だと水筒を持っていて水筒の中にします。

〜大きいほうは…
 簡易トイレというか、ビニール袋があるので、そこにして、臭いが取れて固まる薬を入れます。でも上のほうは寒いので、何もしなくてもすぐカチカチになります。でも小のほうは凍らせてしまうと、朝溶かさなければいけない。それはすごく惨めな作業になってしまうので絶対に凍らせないように、寝袋中に入れて、抱いて寝ます(笑)普段料理に使うガスボンベを使って溶かすというのはガスももったいないし、俺は一体何をやっているんだろうという気持ちになるので(笑)絶対に凍らせないです。

〜個展の写真には、シェルパの方だと思うんですが、大きいドラム缶を背負っている方がいて、靴がサンダルだったのですが、あの靴で登っちゃうんですか?
 パキスタンの村の人たちはゴムのサンダルみたいなもので標高5000メートルのベースキャンプまで来ます。ご飯も自分たちで小麦粉を練ってチャパティというものを作って野宿をしながら氷河を歩いてきましたね。

石川直樹さんのお話、いかがだったでしょうか。
石川さんの個展「この星の光の地図を写す」は新宿の東京オペラシティ アートギャラリーで3月24日まで開催中です。3月9日の午後3時半からは、石川さん本人によるトークイベントもあるということです。
http://www.operacity.jp/ag/exh217/

また、個展と同じ「この星の光の地図を写す」というタイトルで写真集も発売されています。表紙が2種類あります。ご興味のある方はぜひチェックしてみてください!

石川直樹写真集『この星の光の地図を写す』リトルモア

【今週の番組内でのオンエア曲】
・New Romantics / Taylor Swift
・The Mother We Share / Chvrches
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高橋万里恵
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