- 2018.11.11
なぜ左巻きのカタツムリが存在するのか~細将貴さんインタビュー2
先週に引き続き、東京大学の特任助教、細将貴さんのインタビューです。
カタツムリの殻の多くが右巻きになっているのはなぜか。時々、左巻きのカタツムリもいるのはなぜか。左巻きのカタツムリは生きる上で不利なのに、なぜいなくならないのか。そんなことを研究している細先生。 今回はなぜセダカヘビが右巻きのカタツムリを上手に食べることができるのか、そんなお話を伺っていきます

セダカヘビには二つおおきな右巻きへの特殊化があって、ひとつは、下あごにある歯の数が左右で全然違うんですね。これは博物館にある標本を調べて最初に分かったことなんですが、右の葉の数が25~26本、左が17本くらいでだいぶ違うんです。これはカタツムリの中身を食べる食べ方と関係しています。カタツムリを食べるとき、どうやって食べるのかというと、まずカタツムリのやわらかいところにガブっとかみついて、下あごだけを殻の中に突っ込んで、中身をかきだして食べるんです。人の手と同じような感じで、右のあごをつっこんで、左のあごをつっこんでということを繰り返して中身をかきだしていくんですね。このとき、巻貝なので巻いていますよね。で、左のあごのほうを奥につっこんで、中身を引っ張ってくる。そして右のあごのほうはそんなに奥までつっこむことができないので、引っ張ってこられた肉をキープするような使い分けをしているようなんです。それで右巻きに特殊化しているんだなというふうに解釈することができるんですね。それがまず一点。これは形の問題ですね。
それから、次は行動の問題です。カタツムリに噛みつくときに、ヘビは頭をまっすぐにしたまま噛みつくことができなくて、頭を横に倒す必要があります。で、横に倒す向きが右か左かによって、ハンティングの成功率が全然変わってくるんですね。相手が右巻きの時に頭を左に傾けると、下あごがちょうど殻の口の方向にグッと入っていくんですね。でも、相手が左巻きの時には、下あごじゃなくて上あごが相手の殻の中に入ろうとするんですけれども、つっかえてしまいます。なので、左巻きのカタツムリを食べるときには、頭を右に傾ければうまくいくはずなんですけれども、このヘビは頭が悪いのかそれができなくて、左巻きのカタツムリはうまく食べることができないんです。落っことしちゃうということが実験でわかりました。なので、左巻きのカタツムリに対しては、セダカヘビは行動の上でうまく扱えないということと、形態の上でもうまく扱えるようにはなっていない。つまり、右巻きを食べることに特殊化しているということが言えるんですね。

~なるほど。では、このヘビが右に傾くことを覚えたら、左巻きのカタツムリも食べられるんですか?
そのはずなんですよね。でも、それができない。それがなぜかということもいま調べているところですね。
~細さんは、食べるところを観察してそれを見つけたんですか?
そうですね。これもやってみるまではわからなかったことだったので、意外だったんですが、先ほどお話したように、形が違う、歯の数が違うということを見つけたので、きっと右巻きに対応しているはずだと考えました。どういう仕組みで右巻きを食べる成功率が高いということになっているのかわからないけれども、これは見るしかないなと思って、西表島にいって、このヘビを捕まえてきて調べるということをしました。石垣島、西表島がこれまでの研究の舞台でしたが、ここ何年かは台湾にも足を延ばして、向こうで調査をしています。向こうにもセダカヘビの仲間が複数種類いて、ナメクジしか食べないとか、カタツムリを食べるのが得意だとか、いろんなバリエーションがありますし、台湾はすごく大きいです。九州の半分くらいある島なので、北のほうには左巻きのカタツムリが全然いない、南のほうには何種類もいるとか、場所によっていろいろ違いがあるんですね。場所ごとにヘビとカタツムリの関係がどうなっているのかとか、左巻きのカタツムリがどこで生まれて、どういうふうに広がっていったのかとか、そういった歴史がわかりやすいということで、今、研究をしているところです。
~カタツムリを見たときに、左巻きを見つけたらラッキーですか?
そうですね、本州のほうでも左巻きのカタツムリが多い場所というのもあって、世界的にみると結構珍しいことなんですね。セダカヘビがいるおかげで左巻きのカタツムリが進化したということは、西表島とか台湾とか、東南アジアのほうで左巻きのカタツムリが多いというのはわかるんですけれども、本州にはセダカヘビはいません。にもかかわらず、左巻きのカタツムリがいるんです。関東から東北にかけて、東北のほうに行くとむしろ多いかもしれないですね。少し森に入らないとみることができない、市街地にはあまりいないカタツムリなんですけれども、これがどうして進化できたのかっていうのは、相変わらず謎です。

~その本州のカタツムリは何に食べられちゃうんですか?
本州だと、マイマイカブリであったり、ゴミムシの仲間、ホタルの幼虫もきっと食べてますね。いろんなものが食べているはずなんですけれども、それらにしてみれば、上下ひっくり返せば右巻きも左巻きも同じなので、食べやすさ、捕えやすさには関係ないはずなんですね。もっと大きな動物、タヌキとか鳥からしても、左巻きになったからといって食べにくいとは考えにくいんですね。なので、左巻きを食べるのが下手な天敵、本州にはいないような気がして、解きにくい大きな謎が残ってしまいましたね。
細さんのお話、いかがだったでしょうか。来週も続きをお届けします!
【今週の番組内でのオンエア曲】
・Do You Really Want to Hurt Me / Culture Club
・カルペ・ディエム / THE CHARM PARK
カタツムリの殻の多くが右巻きになっているのはなぜか。時々、左巻きのカタツムリもいるのはなぜか。左巻きのカタツムリは生きる上で不利なのに、なぜいなくならないのか。そんなことを研究している細先生。 今回はなぜセダカヘビが右巻きのカタツムリを上手に食べることができるのか、そんなお話を伺っていきます

セダカヘビには二つおおきな右巻きへの特殊化があって、ひとつは、下あごにある歯の数が左右で全然違うんですね。これは博物館にある標本を調べて最初に分かったことなんですが、右の葉の数が25~26本、左が17本くらいでだいぶ違うんです。これはカタツムリの中身を食べる食べ方と関係しています。カタツムリを食べるとき、どうやって食べるのかというと、まずカタツムリのやわらかいところにガブっとかみついて、下あごだけを殻の中に突っ込んで、中身をかきだして食べるんです。人の手と同じような感じで、右のあごをつっこんで、左のあごをつっこんでということを繰り返して中身をかきだしていくんですね。このとき、巻貝なので巻いていますよね。で、左のあごのほうを奥につっこんで、中身を引っ張ってくる。そして右のあごのほうはそんなに奥までつっこむことができないので、引っ張ってこられた肉をキープするような使い分けをしているようなんです。それで右巻きに特殊化しているんだなというふうに解釈することができるんですね。それがまず一点。これは形の問題ですね。
それから、次は行動の問題です。カタツムリに噛みつくときに、ヘビは頭をまっすぐにしたまま噛みつくことができなくて、頭を横に倒す必要があります。で、横に倒す向きが右か左かによって、ハンティングの成功率が全然変わってくるんですね。相手が右巻きの時に頭を左に傾けると、下あごがちょうど殻の口の方向にグッと入っていくんですね。でも、相手が左巻きの時には、下あごじゃなくて上あごが相手の殻の中に入ろうとするんですけれども、つっかえてしまいます。なので、左巻きのカタツムリを食べるときには、頭を右に傾ければうまくいくはずなんですけれども、このヘビは頭が悪いのかそれができなくて、左巻きのカタツムリはうまく食べることができないんです。落っことしちゃうということが実験でわかりました。なので、左巻きのカタツムリに対しては、セダカヘビは行動の上でうまく扱えないということと、形態の上でもうまく扱えるようにはなっていない。つまり、右巻きを食べることに特殊化しているということが言えるんですね。

~なるほど。では、このヘビが右に傾くことを覚えたら、左巻きのカタツムリも食べられるんですか?
そのはずなんですよね。でも、それができない。それがなぜかということもいま調べているところですね。
~細さんは、食べるところを観察してそれを見つけたんですか?
そうですね。これもやってみるまではわからなかったことだったので、意外だったんですが、先ほどお話したように、形が違う、歯の数が違うということを見つけたので、きっと右巻きに対応しているはずだと考えました。どういう仕組みで右巻きを食べる成功率が高いということになっているのかわからないけれども、これは見るしかないなと思って、西表島にいって、このヘビを捕まえてきて調べるということをしました。石垣島、西表島がこれまでの研究の舞台でしたが、ここ何年かは台湾にも足を延ばして、向こうで調査をしています。向こうにもセダカヘビの仲間が複数種類いて、ナメクジしか食べないとか、カタツムリを食べるのが得意だとか、いろんなバリエーションがありますし、台湾はすごく大きいです。九州の半分くらいある島なので、北のほうには左巻きのカタツムリが全然いない、南のほうには何種類もいるとか、場所によっていろいろ違いがあるんですね。場所ごとにヘビとカタツムリの関係がどうなっているのかとか、左巻きのカタツムリがどこで生まれて、どういうふうに広がっていったのかとか、そういった歴史がわかりやすいということで、今、研究をしているところです。
~カタツムリを見たときに、左巻きを見つけたらラッキーですか?
そうですね、本州のほうでも左巻きのカタツムリが多い場所というのもあって、世界的にみると結構珍しいことなんですね。セダカヘビがいるおかげで左巻きのカタツムリが進化したということは、西表島とか台湾とか、東南アジアのほうで左巻きのカタツムリが多いというのはわかるんですけれども、本州にはセダカヘビはいません。にもかかわらず、左巻きのカタツムリがいるんです。関東から東北にかけて、東北のほうに行くとむしろ多いかもしれないですね。少し森に入らないとみることができない、市街地にはあまりいないカタツムリなんですけれども、これがどうして進化できたのかっていうのは、相変わらず謎です。

~その本州のカタツムリは何に食べられちゃうんですか?
本州だと、マイマイカブリであったり、ゴミムシの仲間、ホタルの幼虫もきっと食べてますね。いろんなものが食べているはずなんですけれども、それらにしてみれば、上下ひっくり返せば右巻きも左巻きも同じなので、食べやすさ、捕えやすさには関係ないはずなんですね。もっと大きな動物、タヌキとか鳥からしても、左巻きになったからといって食べにくいとは考えにくいんですね。なので、左巻きを食べるのが下手な天敵、本州にはいないような気がして、解きにくい大きな謎が残ってしまいましたね。
細さんのお話、いかがだったでしょうか。来週も続きをお届けします!
【今週の番組内でのオンエア曲】
・Do You Really Want to Hurt Me / Culture Club
・カルペ・ディエム / THE CHARM PARK