今週は、前回に引き続き、漫画『ゴールデンカムイ』のアイヌ語監修者、千葉大学 文学部教授 中川裕さんのお話です。
明治時代末期の北海道を舞台に、ヒロインのアシリパ(本来”リ”は小字)をはじめ、様々なアイヌの登場人物たちが活躍する冒険活劇・ゴールデンカムイ。
この作品は、アイヌの人たちの昔の暮らしが詳細に描かれているんですが、そんなアイヌの自然観、生命感を象徴するのが「カムイ」です。きょうはこの「カムイ」という存在について、さらに詳しく伺います!


 カムイの本体は霊魂、魂なんです。肉体というのは人間のいるこの世界に来る時だけ必要なもの。人間と交流をするために霊魂の世界、つまりカムイの住む世界から魂がやってきて、人間と何らかの関わりを持とうとするわけです。この時にお土産として肉や毛皮を持ってやってきて、それを人間に与えるんですね。与えるときに、人間はカムイを殺さなければいけないわけですね。それが狩猟です。殺して肉と毛皮をありがたくいただいて、そのかわり人間のほうもカムイに対して、カムイの世界では手に入らないもの、例えばお酒とか米の団子とか、イナウという木を削ってふさふさっとしたものがあるんだけれども、こういう人間が作らないとこの世に存在できないようなものを、カムイにお土産として持たせて帰ってもらう。つまり物々交換ですね。交易と言ってもいいです。熊と人間はお互いに自分の持っているものを相手に与えて、交易をしていると。それが伝統的な考え方なんですね。だから狩猟というものをギブアンドテイク、ウィンウィンの関係と考えます。
 実際問題としては、要するに動物を殺して食っているわけだから、一方的なご都合主義的な考えじゃないかと思うかもしれませんが、じゃあわれわれは豚とか牛とか鶏を毎日食べているわけだけど、これはなぜ良いのか。倫理的に他の動物を殺して人間が食べても良いというのは何が保証しているのかというと、何だかよくわからないですよね。ほとんど日本人は何も考えていません。それは、なぜかといったら、自分が殺していると思っていないからですよ。自分たちが直接手を下していないから命を奪っているという感覚がないというだけの話です。狩猟民族は自分たちで狩りをして殺して、それによって生きているということを常に感じているので、なぜ自分たちがそれをして良いのかということを考えなくちゃいけないんです。そのひとつの答えとして交易という、お互いがギブアンドテイクなんだという考え方に達したわけです。何も考えていない我々より、こちらの方がちょっと洗練された考え方ですよね。


〜ゴールデンカムイを読んでいると、最初は狩りのシーンとかお肉にしているシーンに驚くのですが、どんどん変わってきますよね。ありがたく全ていただく精神とか、ウィンウィンの関係とか。それが読んでいるうちに当たり前に考えられるようになる感じがします。
 ゴールデンカムイにアシリパさんというアイヌの女の子のヒロインが出てきますが、小動物に限らず動物を見ると殺して食うヒロインというのは日本の漫画史上ほかに例がないんじゃないかと思います。その背景にある思想というのがそこかしこで語られているのですが、たとえば手負いのシカを杉元がとどめを刺すシーン。鹿に戦場での自分の姿が二重写しになっちゃって、どうしても引き金が弾けない。その時にアシリパが仕留めて、解体をして腹を裂きながら、杉元に向かって「手を入れてみろ」と言うわけです。真冬の話ですから「暖かい」と。その暖かさがお前に伝わってお前を温めた。だからシカが生きていた意味は消えたりしないと杉元に言うシーンがあるわけですね。大変名場面だと思うんだけれども、ああいう形で、人間は他者の命によって生かされているということを、アシリパ(本来”リ”は小字)がいろんな場面で言うんですね。それが当たり前のような感じにだんだんなってくるわけね。そこは凄いと思います。

〜ゴールデンカムイの漫画で多く登場するのは熊ですね。我々もこの番組で以前北海道を取材したのですが、熊というのは神様で、キムンカムイという名前がついていると知りました。やはりヒグマはアイヌの人々にとってすごく特別な存在なのでしょうか。
 北海道でただ「カムイ」といったら普通はクマを指すんですね。キムンカムイの「キムン」は「山の」という意味だから”山のカムイ”。熊はカムイの代名詞みたいなものですね。少なくとも地上にいる最も強い生物なわけだから、格が高いというか、偉いということになるわけですね。それと、私の個人的な考えですが、なぜクマは偉いことになっているかというと、ものすごいたくさんの肉を人間に届けてくれるということがあると思います。鹿と比べてはるかに肉の量が多いわけですね。クマは横に広がったような顔をしていますが、あれは大半が筋肉。骨は細長いんですよ。顔だけで相当量の肉が取れる。しかも、個人的な好みの問題もあるんだけれども、鹿よりも熊の方がうまい。ただ塩ゆでにしただけでも獣臭くないし、大変美味しく食べられるんです。おいしいなと思った時に、だからクマのカムイは偉いんだなと僕は思ったことがありましたね。

漫画『ゴールデンカムイ』のアイヌ語監修者、千葉大学 文学部教授 中川裕さんのお話、いかがだったでしょうか。来週も引き続き中川さんのインタビューをお届けします。

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アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」著者: 中川 裕 野田 サトル(集英社新書)

【今週のオンエア曲】
・OLE!OH! / 木村カエラ
・そのいのち / 中村佳穂

パーソナリティ

高橋万里恵
高橋万里恵

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