(第2話)街で一番の美女
通りを歩いていくと大きな電飾の看板が見える。オーロラ。AVRORA。その下の古めかしいアーチをくぐりテラスカフェを通り抜け更に奥に進む。僕は切符売りのおばさんと英語やらロシア語やらで何とかやりとりし今演っている回が最終であることを知る。予定を消された。壁に貼ってあるニキータ・ミハルコフのポスターを見た。そして隣のに目をやった。ビンセント・ギャロ。ギャロは負け犬の顔をしていた。泣いているように見える。そのまましゃがみ込んだ。カメラをシャツでゴシゴシ拭いた。
もうそのぐらいしかやることがなかった。何かが僕の前を遮った。良い予感のほうがした。顔を上げた。彼女は街で一番の美女だ、そう思った。僕の目の前をシャッターする女性。彼女は微笑みかけた。そして僕のカメラをちらっとみた。今起きていることの意味を2秒ぐらいでざっと考え立ち、追いかけた。街にはマドンナのビューティフル・ストレンジャーが流れていた。
カフェに入ったものの僕らは意志を伝える道具を持ち合わせていない。カメラか?。テーブルの上に置いたカメラをじっと見つめた。距離が縮まるのを願った。彼女が喋った。私の名前はジュリアです、私は22才になりました、真剣に人の言葉をきいた、僕も自己紹介する。笑いが生まれとにかくそうすることで互いを確認した。
(つづく)