(最終話)ロシア永遠の夏
今日何回目かのカフェ。彼女はスニーカーを履いている。それを嬉しそうに僕に見せ大きなカップのコーヒーに口をつけた。僕の仕事のことを話そう、決心した。僕はポッケの中からパスポートやプレスカードやらを取りだした。言った。ヤテビヤルブルー。アイラブユー。気が付いた。もうこの仕事は旅に切り替わったしそうなってこそ僕はこの企画の本当の主役でありディレクターだ。本当は只の旅人なのだ。しかし旅というのは帰る場所があるから旅だと言うんじゃなのか?仕事先にもジュリアにも言い訳は出来ない。
彼女は紙とボールペンを取り出し英語を喋れないもどかしさを全身で表現した。ロシア語で書かれた手紙は僕に手渡された。その手紙には太陽と花の絵が描かれていた。ロシアの短い夏。
月曜日、僕は紙切れを持っていた。“14:00lunchtime”と記されている。時計を見ると13:00だった。
14:00。運河沿いを歩き写真を撮り続けた。何だか空々しく映画館オーロラへ向かった。ニキータ・ミハルコフの映画を観た。彼女と過ごした時間を想った。意識のどこかでただ繰り返される言葉、会いたい。僕の仕事は終わった。今日、日本に帰らなくてはならない。
(終)