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今、知っておくべき注目のトレンドを、ネットメディアを発信する内側の人物、現代の情報のプロフェッショナルたちが日替わりで解説します。

21.05.12

ワクチン特許の一時放棄
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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日は「BuzzFeed Japan News」副編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。神庭さんが注目した話題はこちらです。


【ワクチン特許の一時放棄について】


吉田:新型コロナウイルスワクチンにかかわる特許の一時放棄をアメリカが認める意向を示したことをめぐって、製薬業界が強く反発しています。神庭さん、問題のきっかけは何だったのでしょうか?


神庭さん:前提として、途上国では圧倒的にワクチンが不足しています。一方でアメリカなど先進国がワクチンの供給が進んでいるので「ワクチンを独り占めしている」という不満が途上国の間で高まっているという状況です。インドと南アフリカは昨年10月、パンデミック収束までの間、治療薬・ワクチンを各国が自由に生産できるよう、特許など知的財産権を一時的に放棄するようWTOに提案したんですね。途上国を中心に100カ国以上が賛同して、国境なき医師団なども支持を表明しているんですが、一方、大手製薬会社や、多数の製薬会社を抱える日本や米国、欧州などの国は企業の開発意欲が低下するとして反対してきた、という状況です。


吉田:特許の一時停止にアメリカは当初、反対していましたが、その後、賛成に転じました。これはどうしてなんですか?


神庭さん:「独り占め」批判の回避もあるでしょうし、人道的な見地からの問題意識もあると思います。ロイター通信によれば、米通商代表部のタイ代表は「世界的にワクチンを広範に配布し、ワクチン配布の世界的な不均衡を是正する必要がある」と述べたそうです。これに対してWHOのテドロス事務局長は「新型コロナとの闘いで記念すべき瞬間」と手放しで喜んでいるわけなんです。
もう一つのポイントとしては、ワクチン外交で中国が途上国への影響力を増していますから、そこに対する対抗意識もあると思います。ただ、「誰でも使っていいよ」ということにしたら、中国も使えることになるので、中国に技術をそのまま持っていかれてしまったら本末転倒です。バイデン政権の高官は「特許の放棄が中国とロシアにどのような影響を及ぼすのか検証したい」と注視しているんですね。


ユージ:特許の一時放棄に、製薬業界も反発しているようですね?


神庭さん:米国研究製薬工業協会は「サプライチェーンをさらに脆弱にし、ワクチン偽造を拡散させる」と批判的な声明を発表しています。国際製薬団体連合会も「複雑な問題に対し、単純で間違った解決策だ」「失望させられた」とやはり強い言葉で反発しています。当のファイザーCEOは「私たちがより速くワクチンを製造するための制約となっているのは、高度に専門的な原材料の不足です」と述べ、特許放棄によってワクチン製造に参入する企業が増えた場合に、「原材料の争奪戦が繰り広げられることになる」と懸念を示したんです。


吉田:ワクチンにかかわる特許の一時放棄。神庭さんはどのようにお考えですか?


神庭さん:非常に難しい問題ではあるんですが、製薬会社は莫大な投資をしてリスクを取り、ワクチンを開発してきてるんですね。ファイザーCEOによれば、ワクチンの開発がどうなるかわからない段階で20億ドル(日本円で2100億円以上)を投入してます。今年の研究開発費も100億ドル(1兆円)を超えるということです。それに対して今年の新型コロナワクチンの売上高は260億ドル(約2兆8千億円)になる見込みです。これをリスクに応じた正当な対価とみるか、十分に元は取ったでしょ、とみるかで判断も変わってくるかと思います。特許を放棄した場合、今後、第2、第3のパンデミックが起こった際に、果たしてリスクをとってワクチン開発に動く企業が現れるかのかどうか、という懸念はあります。


ユージ:研究開発費でこんなにお金がかかっているって正直思っていませんでした。成功すればいいけど、失敗したらそのお金って誰が払うの?っていう、リスクが大きすぎますよね。


神庭さん:そこで及び腰になってしまった場合に、手を挙げる製薬会社が出てこなくなってしまうというリスクはありますよね。
もう一つは、特許を一時放棄するのは魔法の杖ではないので、放棄したからといって、途上国がその特許を見て、すぐさまワクチンをつくれるようになるとは限らないわけなんですよね。ワクチン生産には大変高度な技術が必要なので。
だとすると、解決しなくてはいけないのは、「途上国の人にワクチンを届ける」ということなので、必ずしもその手立てが特許放棄でなくても、やれることはいろいろあるのかなと思っています。途上国に対してスピーディーに安価なワクチンを輸出するとか、COVAX(ワクチンを共同購入し途上国などに分配する国際的な枠組み)への出資やワクチン供給を増やすなど、特許放棄の前にできることもあるのかなと思います。
それでも特許を一時放棄するのであれば、それによって損害が出る製薬会社が被る損失を富裕国がある程度補填する必要があるのではないかなと思いますね。


ユージ:ワクチン製造の裏側でかかるお金とか、そこまで考えたことがなかったので、今日それを知れたこともすごく大きな発見でした。



そして、今日の #ユジコメ はこちら。





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