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23.10.17

広がる『体験格差』について
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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日はダイヤモンド・オンライン編集委員の神庭亮介さんにお話を伺いました。
神庭さんが注目した話題はこちらです。


「広がる『体験格差』について」

吉田:スポーツや音楽の習いごとや旅行、キャンプといったレジャーなど、子ども時代の「体験」に親の所得や学歴が大きく影響していることが分かり、こうした「体験格差」が問題視されています。所得格差ではなく体験格差。初めて聞いた方もいるかもしれません。実際、どれぐらい格差が生まれているのでしょうか?神庭さん、教えてください。


神庭さん:公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンの調査によると、世帯年収300万円未満の家庭の子どもの約3人に1人が、1年を通じて学校外の体験活動を何もしていない。世帯年収300万円未満の家庭の子どもにおける学校外の体験が「ない」割合は、年収600万円以上の世帯と比較して2.6倍高いです。世帯年収が高い家庭ほどスポーツや文化芸術活動に熱心で、特に「水泳」は年収300万円未満の世帯と年収600万円以上の世帯で、2.2倍の差が生じています。同様に「音楽」も2.3倍の差が開いています。スイミングやピアノなどの習いごとをさせるにも、ある程度生活に余裕がないと難しい、という厳しい現実があります。


ユージ:体験格差が生まれるのは、やはり収入の違いですか?


神庭さん:当然、経済的な理由が一番大きいのですが、それだけではありません。年収300万円未満の世帯に、子どもの体験をさせてあげられなかった理由を尋ねたところ、「保護者の時間的な余裕がない」が51.5%、「近くに参加できる活動がない」が26.6%で、「保護者に精神的体力的な余裕がない」が20.7%を占める結果となりました。時間的な余裕がない、というのは大きなポイントで、夫婦のいる世帯のうち共働き世帯は7割ほどで、20年間で1.5倍に増えています。平日は朝から夜まで仕事に追われ、土日は疲れてぐったりしてしまうと。なかなか子どもを遊びに連れ出す余裕がない、というご家庭も少なくないと思います。


吉田:つまり、お金だけではなく「時間」も重要ということですね。


神庭さん:その通りですね。東京財団政策研究所研究主幹の中室牧子さんはダイヤモンド・オンラインの記事で「体験格差は、親が子どものさまざまな体験のために割ける時間の格差ともいえます」と指摘しています。文部科学省の調査でも、様々な体験活動が子どものやる気や自己肯定感、コミュニケーション能力など、いわゆる非認知能力の育成につながることが分かっています。さらに言うと、ただ親子で過ごす時間が長ければいいわけではなく、「質」も大事なのだそうです。中室さんはこう述べています。「親子で会話をしながら食事をするのは“質の高い時間投資”ですが、会話を交わさず、ただ一緒にテレビを見るだけでは質が高い時間には分類されません」「時間投資のうち、質の高い時間こそが子どもの人的資本形成に重要であることも分かっています」


ユージ:体験格差が生まれてしまううえで、課題は何でしょうか?


神庭さん:いくつかあると思います。1つ目が、地域コミュニティーの空洞化です。昔は子ども会のイベントや地域の催しが沢山ありました。隣近所の関係が希薄になって地域の共同体が空洞化し、イベントの担い手も減ってきてしまうということです。2つ目が、学童の不足です。放課後の「体験」の場として学童保育の役割が期待されてるのですが、以前「小1の壁」問題を取り上げた時にお伝えしたように、学童に入れず待機児童状態になっている人が、全国に1万7,000人近くいます。3つ目が、体験拠点の減少です。これは仕方のない面もあるのですが、「少年自然の家」や「青年の家」など、子どもたちの合宿などで安く泊まれる施設が、自治体財政の悪化や老朽化で激減しています。よく探せば、身近な公共施設や図書館、児童館などで楽しい無料イベントをやっていたりもするのですが、そういうものが必要な家庭ほどそうした情報に気づけていないという面があるかなと思います。


吉田:この体験格差の問題、神庭さんはどう考えますか?


神庭さん:一番の問題は体験格差の連鎖だと思います。これはイコール貧困の連鎖でもあって、冒頭のチャンス・フォー・チルドレンの調査でも、親が幼少期に体験活動に参加していない家庭ほど世帯年収が低く、子どもの体験も乏しくなる傾向にありました。この連鎖を断ち切らないといけないわけです。「花まる学習会」、レジャー予約サイト「アソビュー」、一般社団法人リディラバの代表らが「子どもの体験格差解消プロジェクト」を立ち上げ、中高生を無償で2泊3日の宿泊体験に招待するなどの活動に取り組んでいます。本当に素晴らしい活動で頭が下がりますが、一方で民間の善意任せでいいのか?という思いもあります。政府や行政が率先して体験格差の是正に動いて欲しいなと思います。


ユージ:他に気になる点はありますか?


神庭さん:国立や私立の難関大学が総合型選抜、自己推薦入試の割合を増やしているのも気がかりです。これは推薦だから楽をしていてズルいという話では全然なくて、総合型で入ってくる人はむしろ一般入試よりも優秀という話もあるくらいです。僕が心配しているのは、総合型選抜には子どもの「体験格差」が如実に反映されてしまいます。志望理由書や自己PRに留学などの華々しい経験を盛れるだけでなく、体験で培われたコミュ力やプレゼン力も大きな武器になるわけです。ペーパーテストが絶対だとは全然思いませんが、お金のある人しか「体験」ができない状態で、総合型選抜の枠を増やしすぎると、体験格差や経済格差を再生産してさらに広げるのではないか、ということです。体験格差を縮める努力の一方で、たとえ貧しくても勉強を一生懸命頑張ったら大学入試で一発逆転できる、という余地も残しておいて欲しいなと思います。


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