26.07.14
高校野球で「殺す」や「死」はNGに?宮城県 高野連が見直し検討へ

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんにお話を伺います。
神庭さんに取り上げていただく話題はこちら!
『高校野球で「殺す」や「死」はNGに?宮城県 高野連が見直し検討へ』
吉田:宮城県 高校野球連盟は、殺人の「殺」や、生き死にの「死」などの文字が入った野球用語を見直すための検討委員会を秋にも設置する方針です。指導現場での使用を避け、他の言葉に置き換えることを検討しているということです。
ユージ:神庭さん、まずニュースの背景について教えてください。
神庭さん:野球ではダブルプレーを「併殺」と言ったり、守備側の選手が打者や走者を直接アウトにすることを、刺し殺すと書いて「刺殺」と言ったりしますよね。一死、二死、死球など「死ぬ」という文字が入る言葉もあります。字面だけ見るとちょっと物騒だなと思う人もいるかもしれません。そこで、宮城県 高校野球連盟は教育的配慮が必要な野球用語として、いま挙げた言葉に加えて「犠牲フライ」「捕殺」「盗塁」などを挙げて、《試合中に、「刺せ~」「殺せ~」「盗め~」 という言葉が出るのはこういった用語が あるからだと思われます》と指摘しています。
ユージ:その言葉をまともにとらえている人はそんなにいないと思うんですけど、言われてみれば確かにね。
神庭さん:現代では相応しくない用語も含まれるということで、昨年7月からそれに代わる言葉を募集するアンケートを取っているんですね。
ユージ:去年からの取り組みなんですね?
神庭さん:そうなんです。もともと、そういう問題意識があったようです。共同通信によれば、今年の秋にも検討委員会を立ち上げ、高校生への指導現場でこうした野球用語が使われなくなることを目指す。ということで、検討結果次第では、県高野連主催大会の公式記録の表現も改める方針だということです。県高野連の理事長は「教育現場にふさわしい言葉に変えていけたら」とも話しているそうです。ボキャブラ世代としてはネプチューンの「電光石火の三重殺(トリプルプレイ)」も三重殺だからダメなのか…とか、いろいろ考えてしまいました。
吉田:この方針にどんな反応があるんですか?
神庭さん:SNSやネットの反応は、「言葉狩りに意味はない」とか「この文字をなくしただけで非行や暴力が無くなると思ってるのか」「一概に禁止にするのではなく、言葉や使用方法について教育するのが肝要ではないか」といった意見で9割がた、否定的な意見で埋め尽くされているかなと思います。戦時中には、敵性語である英語を置き換える形で、ストライクを「よし」、ボールを「だめ」と言っていたことを引き合いに出し、「戦時中の日本かよ。時代に逆行してるな」とツッコミを入れている人もいました。
吉田:一方で賛成意見はあるんでしょうか?
神庭さん:一部には「ゲーム中に『刺せ』とか『殺せ』とか飛び交ったら、物騒に感じるのは確か」といった意見や「時代に合わせてアップデートすることは決して悪いことではない」といった意見も見られました。
ユージ:そもそも、英語でもデッドボールって死球ですし、盗塁もスティールですからね…。神庭さんはどう思います?
神庭さん:よくよく考えると物騒な言葉って実はたくさんあるんですよね。今から野球実況風の原稿を読み上げるのでちょっと聞いてください。「さあ、熱戦の火蓋が切られました!エース同士の一騎打ち。両チームとも必死の攻防が続きます。土壇場の9回、三塁手が三遊間を抜けそうな打球を死守!そして打席には超ド級の長距離砲。果たして勝負の行方は――」
ユージ:僕にはちゃんと絵が浮かびましたけど…この表現に何か問題があるんですか?
神庭さん:なんてことのない実況に聞こえたかもしれませんが、まず「火蓋を切る」は火縄銃の火皿のフタを開けて発射準備をすることです。「一騎打ち」は戦場で武将同士が戦う場面などで使われますし、「土壇場」は首切り、処刑のために土を盛った「土壇」が由来です。「必死」は必ず死ぬですし、「死守」は死んでも守るだから穏やかじゃないですよね。超ド級の「ド」はイギリスの戦艦ドレッドノートが由来で、長距離砲ももともとは戦争用語なんですよね。
ユージ:え?そうなの??
神庭さん:何が言いたいかというと、不適切とか不快とか言い始めたらキリがないよ、ということなんですよ。世の中、不穏な言葉であふれています。「殺到する」には殺すが入っているし、「爆笑」には爆発の爆が含まれる。毒舌なんて「毒の舌」ですからね。こういう言葉を一つ一つ取り締まっていったら、何も言えなくなってしまうんじゃないのと思いますけどね…。
吉田:野球以外のスポーツに同じような表現はありますし、確かにそうかもしれませんね。
神庭さん:新聞記者の世界では、軍隊由来の用語は結構多くて、担当を持たない記者を「遊軍」と呼んだり、もっと直接的に「兵隊」とか「一番機」「二番機」と言ったりします。政治の世界でもよく「一兵卒に戻って…」とか「刺客を放つ」とか「後から鉄砲を撃つ」という言葉も使いますし、建築業界では、開閉できない窓のことを「はめ殺し窓」と呼び、不要な配線や配管を使えないようにすることを「殺す」と言うそうです。知らずに聞いたら、ちょっとドキッとしちゃうかもしれないですけど、特定のグループ内で使う業界用語「ジャーゴン」には、日常の言葉以上に不穏なものが多いんですよね。野球用語もそういう側面があるのかもしれません。
ユージ:そうなると、どうなんでしょう?野球用語も今後変わっていきますか?
神庭さん:これだけ反対の声が上がっているとすぐには難しいと思いますが、少なくとも高校野球で「刺す」などの言葉をなくすことにはあまり意味がなく、球児たちに「日常でそういう言葉を使ってはいけないよ」と伝えれば良いと思います。長打力のある1番打者を「核弾頭」と呼んだりするのは、さすがに不謹慎なのでやめた方がいいと思いますが、安易な言葉狩りには走らないでほしいとも思います。球場で「『殺せ』など誤解を招くようなヤジ、歓声はやめて」と呼びかければ十分ではないかと思いますね。