26.08.04
学校のプールがピンチ!水泳の授業が減っているワケ

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターはダイヤモンド・ライフ編集長、神庭亮介さんです。
神庭さんが注目した話題はこちら
「学校のプールがピンチ!水泳の授業が減っているワケ」
吉田:小中学校の水泳の授業が減少しています。気候やプールの老朽化など様々な要因があり、このままでは子どもたちが泳げなくなってしまうのではないか、と危惧する声も出ています。今朝は、神庭さんに水泳の授業が減っている背景を解説してもらいます。
ユージ:改めて、水泳の授業が減っている原因を教えてください。
神庭さん:1つ目の理由は気温です。今年は梅雨の影響もあって6月の気温が低かったです。ウェザーニュースによると、東京都心は6月3日から10日まで8日連続で最高気温が25度を下回りました。これは20年ぶりの記録だそうです。寒ければプールに入れないのは仕方ないですが、暑すぎるのもダメ。7月からは一転して全国で猛暑日や酷暑日が相次いで過去4番目の暑さになったということです。文部科学省は暑さ指数をもとに熱中症の危険度を把握して、適切な指導をするように求めています。日本スポーツ協会のガイドラインでも暑さ指数が31を超える場合「運動は原則中止」と定められています。
ユージ:寒すぎても、暑すぎても、プールの授業ができないということですね。
神庭さん:近年は暑さが理由でプールの授業を中止するケースが増えています。「AERA DIGITAL」の記事では、子どもに「今年もプールの授業は2回しかなかった」と言われて驚いた親のこんな声が紹介されています。「あまりに回数が少ないので『2回って?』と尋ねたのです。すると『雨でも中止だし、暑くても中止だよ』と答えるんです。私は暑い日だからこそプールの授業が楽しみでしたので、にわかには信じられませんでした」。昔の感覚で、「え、それだけ?」とビックリしてしまう気持ちはわかります。ただ、プールの中だと汗や喉の渇きを感じにくいので、熱中症予防のために一定の基準を設けること自体はやむを得ないかなと思います。
吉田:水泳の授業の減少、他にはどんな理由がありますか?
神庭さん:2つ目の理由は、プールの老朽化です。スポーツ庁の調査によると、小学校では99%の学校で水泳の授業をしている一方で、中学校では22.8%の学校が実施できていません。中学校の5校に1校は水泳の授業がないということです。小学校のプール設置率は2018年の94%から2021年は87%に低下しました。この間に中学校は73%から65%まで落ちています。小中学校のプールは高度経済成長期に整備されたものが多く、ガタが来ているものも少なくありません。ただ、大規模な改修工事や改築をするとなると、1〜2億円は簡単にかかってしまいます。維持費も1校あたり200万円くらいかかると言われていますので、自治体財政にとっては大きな負担になっているということです。
吉田:このままプールが使えなくなったら、水泳の授業はどうなるのでしょうか?
神庭さん:複数の学校で共同利用したり、外部のプールを使ったり、といったやり方が模索されています。スポーツ庁が公開した「持続可能な水泳授業の実施に向けた参考資料」によりますと、茨城県下妻市では、11校のプールのうち6校分を廃止して、残り5校に集約することで30年間で4.5億円以上の支出を削減する計画です。愛知県常滑市は、小学校のプールを順次廃止して、市営プールか中学校のプールに集約することで、40年間で10億円のコストカットを見込んでいます。佐賀県伊万里市では民間のプールに委託しています。このような取り組みは広がっていますが、集約であれ民間委託であれ、子どもたちは授業のたびに遠くのプールへ行かないといけないですから、移動時間の確保は課題になってくると思います。
ユージ:学校外のプールを使う取り組みも広がっているんですね。
神庭さん:少子化のなかで効率化を図ることは必要です。学校の先生の働き方改革の観点からも、プールの集約化や民間委託というのは避けられないんですね。水泳の授業ってすごい負担が大きくて、プール掃除や水温・塩素濃度のチェックなど、先生のやることは多いです。一歩間違えたら命を落としかねないですから、何十人もの子どもの命を預かっているプレッシャーも当然あります。少し前に川崎市の小学校で誤ってプールの水を出しっぱなしにした先生と校長先生が95万円の損害賠償を求められたケースがありました。確かに手痛いミスではありますが、先生個人が責任を負うのはちょっと気の毒だなと思いました。私が子どもの頃は、夏休みに学校のプールで水泳教室がありましたけれど、最近はあまり聞かなくなりましたよね。これも先生の負担を少しでも軽くするためには、仕方ないことかなと思います。
吉田:一連の問題、神庭さんはどう見ていますか?
神庭さん:学校の水泳の授業が減る一方で、首都圏のスイミング教室はキャンセル待ちの人気になっているということで、いびつな状況です。これが進んでいくと、ご家庭の経済力によって子どもの泳力格差がついてしまうような事態になってしまいますので、それは良くないと思います。ではどうすればいいかというと、まず、学校のプールという器の話と、水泳の授業という中身の話を切り分けるべきだと思っています。大事なのは水泳の授業時間をしっかり確保して、子どもの泳力をつけることです。そうなると各校1つのプールにこだわる必要はないと思います。屋内プールを整備して複数の学校で共有して、授業時間以外は地域に一般開放するというのもひとつの選択肢で、屋内プールであれば天気や季節を問わずに使えますから、その分授業時間を確保しやすいですよね。国もこういった取り組みに対して補助金を出して、さらに補助金額を引き上げていますので活用が広がってほしいなと思います。