吉田隼人選手は、1983年、神奈川県のご出身。
高校球児として、東京の強豪、駒澤大学高等学校で投手を務め、3年生の時には背番号1をつけていました。
24歳の時、事故により右脚の大腿部から下を損傷し切断。
友人の勧めでゴルフと出会い、義足でゴルフを始め、30歳から本格的に競技の世界へ入られています。
現在はゴルフ場のマスター室で勤務をしながら「日本障害者オープン」3連覇を含め4度の優勝。
日本プロゴルフ協会(PGA)認定、ティーチングプロの資格を取得し、障害者ゴルフ世界ランキングで世界一を目指していらっしゃいます。
──
まずは吉田選手が取り組んでいらっしゃる障害者ゴルフは一般のゴルフとはどのような違いがあるんですか?
違いというのはほとんどなくて、スポーツの中でも、ゴルフだけは健常者・障害者関係なく同じ条件で競技する、というところが特徴ですかね。
──ルール的な違いはないということですよね。
そうです。ルール的な違いもほぼないんですが、今主流になっているのは、ヨーロッパの障害者ゴルフのように、距離はみんな同じ距離で、その代わり、総距離は6400〜6500ヤードとちょっと短くして、同じところからみんなスタートしていくというゴルフと、逆に、アメリカのように、手の障害や足の障害によって、義足や義手を付けているなどのハンデを考慮して、ピンの位置を変えながら、総距離をハンディキャップとして変えながらゴルフをするというところもあります。
──やっぱりハンディキャップの状況によって、第1打の飛距離というのはだいぶ変わってくるものなんですか?
そうですね。だいぶ変わると思います。例えば右手1本でゴルフする方とかもいらっしゃるので。僕が知っている人だと、結構距離が飛ぶ方で250〜260ヤードぐらい片手で打つ方もいらっしゃったりします。
──片手で!?僕は頑張っても250も届かないんですけれども…。
本当に素晴らしいんですよ。でも、片手で200ヤードとか180ヤードしか飛ばない方もいらっしゃるので、そういう人たちのために…例えば義手を付けている、付けていないによってスイングのバランスが変わることで飛距離も変わるんですね。そういう部分でアメリカではピンの位置をちょっと変えたりして公平さを出したりしていますね。
──そのカテゴリー分けというのは、テストか何かで決めていくんですか?
例えば、僕で言うと足は右足切断なんですが、太ももから切断の人と、膝から下の切断の人とでは活動レベルが違うので、例えば腕でも肘があるのかないのか、義手も手首があるのかないのかとか、いろんな部分の障害があるので、医師の診断によってある程度大まかに分けてルールは設定されていたりしますね。
──実際に障害者ゴルフ大会に参加して、思い描いていたようにトントン拍子で進んでいったんですか?
いやもう、全く。健常者の試合だと、「障害があっても頑張っていてすごいね」じゃないですか。だけど、障害者ゴルフの中だとみんな(障害がある中)で競い合っているから、「すごいね」じゃなくて“もうちょっとこうしたい、上手くなりたい”という気持ちが強いんです。みんなのそういう気持ちに感化されて、最初は力む必要がないところで力んでしまったりとか(笑)、“同じ条件だからこそ負けたくない”という気持ちがゴルフに良い影響や悪い影響を与えたりして、試行錯誤しながらやっていったという感じですね。
自分と同じだったり、自分より重い障害の人だったり、いろんな方を見て、“自分ってまだまだだな”と強く思ったのが最初でした。
──その後、いわゆる世界の大会にも参加して活躍されてきたわけですよね。(障害者ゴルフ)世界ランキング1位を目指されている。この世界ランキングというのは1カテゴリーなんですか?
世界ランキングというのは、障害関係なく、ゴルフのスコア、もしくは大会の成績を考慮して、平均的なポイントというものがあるんですが、レベルが高い選手が集まる大会だとポイントも高くなって、その中で優勝するかしないかでまたポイントの優劣も変わってくるんです。でも、障害の度合い関係なくゴルフの上手さだけなので、シンプルですごく目指しやすいというか、今までは“世界で戦える”という状況ではなかったので、だからこそ、“やってみたい、挑戦してみたい”という気持ちが一番強かったですね。
──世界を主戦場として、世界ランキング1位を目指すようになって、よりトレーニング方法、ゴルフへの取り組み方というのは変わっていったんですか?
そうですね。かなり変わりました。
大きな出会いが、パラ陸上の走り幅跳びのレジェンドでいらっしゃる山本篤さん。彼はゴルフがめちゃくちゃ好きなんです。最初に会った時にゴルフ好きだというとことからゴルフトークですごく盛り上がって、一緒にゴルフをするようになって、そこから陸上の合宿とかにも誘われて、合宿にもお邪魔させてもらって。そこで義足側の足も鍛えられるということを教えてもらったんですね。やっぱりバランスよく鍛えていかないといけないというところを、陸上のレジェンドである山本篤さんに教えてもらって、そこからゴルフの感じもガラッと変わったんです。
“本当に世界を目指せるかもしれない”と思ったのはそこからですね。
──でも、山本選手の陸上トレーニングって言ったら、相当厳しそうな気がするんですが…。
もう、すごい鬼でした(笑)。僕がまだそんなに走れなくても、「頑張れ!」と言って足が動かなくなるまで走らされたりしましたね。それこそ僕は(障害者になって)最初のスポーツがゴルフからだったので、“走る”ということをあまり義足でしてこなかったんですが、山本さんは「とりあえず走れ」「まずスポーツはそこからだ」ということで、走れるブレード型の義足を貸していただいて、陸上の選手が走っている中、横を一緒に走らせてもらったり。もう、何か鬼でしたね(笑)。
──(笑)。ブレードで走る感覚というのは、やっぱり普段にはないものなんじゃないかなと思うんですけれども。
そうですね。全くなかったです。それこそ足を切断して12〜3年後に初めて走ってみて、“走れるんだ”と思いましたし。でも“足をこうやって動かすんだ”というところも、何というか、“感覚を思い返す”というか…(足が)あった時のことを思い返して“こうだったな”と思いながら爽快感とかも蘇ってきて、すごく楽しかったですね。山本さんは鬼でしたけど(笑)。
でもそのおかげで、“義足でも足を鍛えることができる”というところから、ゴルフに置き換えて、ゴルフのスイングバランスもガラリと変わって飛距離も伸びましたし、実力も上がったので、本当に良い出会いでしたし、良い学びをさせてもらって、ありがたい存在ですね。
──吉田選手は実際に教えていらっしゃるわけですよね。生徒さんはどのような方なんですか?
一般の方にも依頼があった時は教えたりもしていますし、あと、日本障害者ゴルフ協会の関東のレッスン会というものがあるんですけど、そのレッスン会で障害者の人も一緒に教えたりしているので、いろんな方がいますね。
──障害者の方、それぞれの方の持っていらっしゃるハンディキャップが違うわけですよね。その特徴も取り入れた上で教えるというのはより大変なことなんじゃないですか?
そうですね。大変なことは大変なんですけど、でもやっぱり“ゴルフをしたい”という気持ちがみなさん強くて、“やりたい”という気持ちがあるからそれに応えたいという気持ちもありますし、またいろんな人を見ているからこそ、「こうした方がいいんじゃないか」とか、「体の動きからするともっとこうした方がいいんじゃないか」とか、「こういうことができるなら良くなっていくんじゃないか」ということを(アドバイスできる)。僕の教えるレッスンは、その人と相談しながら、「どういうことができる」と言いながらやっていくことがベースになるので。
──それこそ、世界大会であらゆる選手と競っているからこそ、「あの国には同じようなこういうタイプの選手がいるよ」というアドバイスもできるわけですね。
まさにそうなんですよ。
だから、一緒に世界大会を回った選手にも、片手ですごく上手い方がいらっしゃったりするので、「それ、どうやって打つの?」と聞いたり、そういうことをちょっと話をしながら教えてもらって、それを僕はこれから始める人に教えてあげたりしながらやっていく。“繋ぎ”というか。そういうのも世界大会に出ている役目の1つかなと。
──片手の選手の方は、いわゆるバンカーショットとかアプローチとかも片手でするということですか?
そうなんです。クラブを、例えば右手で1本、左手で1本で持ったりとか。また面白いのが、特徴があって、左手1本でゴルフをする方は飛距離が出やすいんです。左手の人はボールのスピンがあまりかからないので、距離も飛んで、なおかつランも出るので、より飛距離が出やすい。その代わり、アプローチとかでスピンをかけようとするのが難しいのが左手の人たちで、逆に右手1本で打つ人はドライバーを飛ばすのがちょっと難しいというか、左手の人と比べると飛距離はそこまでないけれど、逆に今度はスピンをかけるのがめちゃくちゃ上手いんですね。ボールを拾うのが上手いので、アプローチとかバンカーショットがめちゃくちゃ上手いんです。
面白いですよね。障害者の人に教えながらも自分も勉強させてもらって、それを例えば一般の、健常者の人に教える時も、「傾向としてはこういうものがあるから、こうしたらいいんじゃないですか」と言いながら、相談しながらスイングを作っていくという感じです。
──この番組では、毎回ゲストの方にCheer up songを伺っています。吉田選手の心の支えになっている曲を教えてください。
Mrs. GREEN APPLEの「僕のこと」です。
歌詞の内容がすごく自分にぐっと来るといいますか、僕は事故に遭った時に“死ぬかもしれない”と思うぐらいの事故だったので、だからこそ、“今生きていることが素晴らしい”ということが心にぐっと刺さるというか。例えばゴルフで苦しい時とかもあるかもしれないですけど、でも、生きているからこそこうやって楽しんでゴルフもできるし、自分がやりたいことができる。なんて素晴らしいんだと。それを何か“歌にしてもらった”という感じがして、すごく僕の中で刺さるんです。試合前に毎回聴いて、テンションを上げて、“試合頑張る!”みたいな感じですね。
僕の持論なんですけど、ゴルフって人生と似ているなと思っているんです。自分でクラブを選んで、自分が打った球をどんな結果であれ全部受け入れて、またポジティブに次の1年に掛けていく。それは人生と一緒だなと思って。いろんなことを選択して、それを受け入れて、また次にポジティブに前向きにいくというところは何か人生と似ているなと思うので、だからこそゴルフにハマっているのかもしれないですし、「僕のこと」というこの曲もすごく自分の中で刺さるんだなと思いますね。
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