髙木菜那さんは、1992年、北海道のご出身。
スピードスケートの日本代表選手として、オリンピックは2014年のソチ大会から3大会連続で出場。
2018年の平昌大会では、日本人女子として初めて、オリンピックの同一大会で2つの金メダルを獲得するなど、輝かしい活動を残し、2022年の春をもって、競技生活から退いています。
──引退されてから初めての冬のオリンピックが始まりました。4年前の現役だった時とは全く違う心境だとは思いますが、いかがですか?
(体力的にも)気持ち的にも、オリンピックに向かわなくて良いこの時間がこんなに楽なんだと感じています。
──現役の時はきつい練習があって、いろんな大会に出ていらっしゃいましたけれども、やはり4年に1度のオリンピックというプレッシャーというか、そこにかける想いは相当強かったんでしょうか?
強かったですね。“最後の最後まで戦い切ろう”という思いでいま選手は戦っていると思うんですけど、(今回自分は)そういうものがないオリンピックなので、本当にいちファンとして(オリンピックに)行けるという思いと、あとは、今まで一緒に戦ってきた選手や、違うスポーツでも一緒にオリンピックを戦ってきた選手たちがまだその場で戦っているので、今までのオリンピック以上に泣くんだろうなと(笑)。
──アスリートだったからこそわかる、選手それぞれの大変さを知っているだけに、いろんな感情を持って「観るオリンピック」になるんでしょうね。 髙木菜那さんは今回のオリンピックには解説者として参加されることを発表されています。
スピードスケートの競技解説をすることになりました。
──今までにスピードスケートの解説をされたことはあるんですか?
引退してから日本の大きな大会は解説させていただいていたんですが、今回、このオリンピックにどんな形で参加させていただこうかなと考えた時に、“妹の滑りに声を乗せたい“と思って、それができるのは競技解説しかないなと思ったんです。
──それは確かに限られた人じゃないとできないことですし、妹の美帆さんがどんな滑りをされるのかを一番近くで実況しながら観ることができる。
(ミラノ・コルティナオリンピック以降も)妹はまだ続けるかもしれないですし、どうなるかはわかりませんが、やはり年齢を重ねていくとメダルを獲ることは大変になってくる。その中で、今回金メダルが狙えるところにいて、もし美帆の金の瞬間を私の声で伝えることができたら私も嬉しいですし、きっと家族も嬉しいですし、応援してくださる方々も一番ハッピーな形で髙木姉妹を見られるのかなと思って選びました。
──現役でやっていらっしゃる時は「純粋には美帆選手の活躍を喜べない部分があった」とおっしゃっていましたけれども、そこがどんな感情になるのか。
(ミラノ・コルティナオリンピックに)行ってみないとどんな感情になるのか本当にわからないです。私はすごく負けず嫌いなので、“やっぱりメダルはいいな”と思う気持ちもあるとは思います。ただ、今までアスリートとして同じところで戦ってきたからこそ、そう(メダルを欲しいと)思えない自分がいたり、でもやっぱりそう思いたい自分もいたり…そこの葛藤がなくなった瞬間、今回のオリンピックはどんな気持ちで妹を応援できるんだろうというところは楽しみですね。
──スピードスケートには、ゴールしたタイムの速さを競う種目と、フィニッシュした順番で順位を決定する種目があります。菜那さんが金メダルを獲得したのは、順位を争うマススタートとチームパシュートでしたが、マススタートを専門にやっている選手はいるんですか?
基本的には個人種目で長い距離を滑る選手がマススタートに出てくることが多いです。ワールドカップ、世界の国際大会をまわって枠を取った選手、国が出られるんですが、マススタートしか枠がなかったらそこにしか出てこない選手もいます。
──そしてチームパシュートは正反対から同時にスタートしていきますが、あれは、自分たちではお互いの差というのは?
見えないです。
──ラップで知らせてもらうぐらいの話ですかね。
コーチの顔を見て、そのコーチが出しているオーラが“今勝ってるのかな、負けてるのかな“がちょっと伝わるぐらいですね(笑)。
──横目でちらっと反対側を見たりとかはしないんですか?
それをしてしまうと、前の選手との距離がすごく近いのでぶつかってしまったり、リズムがずれてしまうと一瞬で終わってしまうので。
──日本チームは足まで綺麗に揃った、まさにチームプレーですけれども、近づきすぎないようにと距離感を調節しているんですか?
それが、今回のミラノ・コルティナオリンピックでのチームパシュートは、先頭交代をする作戦がなくなりました。…“なくなった”というのはおかしいですね。基本的にパシュートはルールがなくて、最後の選手がゴールしたタイムだけで決まるんです。なので、“どんなことをしてもいいから3人で速く滑ってね“という競技がチームパシュートなんですよね。
今までは先頭交代するのが速いと言われてきたので、私が出ている時はずっと先頭交代をしていたんですが、今は先頭交代をせずに、1番手2番手3番手のポジションを固定して滑り切るという作戦が主流になっています。
──そちらの方がタイムが良いということですか?
男子の選手がその作戦で世界記録を出しているので速いのではないかと言われていて、現在はそれが流行になっています。
──日本チームもその作戦を取るんですか?
今回はその作戦でいきます。
──妹の美帆選手がずっと引っ張るということですか?
美帆が先頭で、たぶん佐藤綾乃選手が2番手か3番手、それによって他の2人が2番手に入るのか3番手に入るのか変わっていくんですけど、でもこれは先頭の美帆も風の抵抗をすごく受けるので、つらいんですよね。なので、それをどうするかが2番手と3番手の役割になります。
──でも後ろにいては、どうにかするにもしようがないですよね。
なので、2番手3番手は前の人を押すんです。
──手で押してあげるんですか?
片手でずっとお尻を押し続けるんです。
──エンジンになってあげるんですね。
後ろがエンジンになってあげて、美帆を助けに行くというのが、現在のチームパシュートの主流の作戦になっています。
ずっと押し続けてもらえると本当に楽なんです。だからこそ、後ろの2人がどれだけ先頭の美帆を助けられるかで順位が決まってくると思います。
──さあ、いよいよ始まったミラノ・コルティナオリンピック。スピードスケートは、日本時間の今日深夜24時から女子の3000m、明日は男子の5000mなどから始まり、21日土曜日、男女のマススタートまで連日レースが行われる予定となっています。 現在チームパシュートの日本チームは世界でいうとどれくらいの位置にいるんですか?
現在、一番上と言われたらそのくらいにいるんですが、同じレベルに4つのチームが揃っているんですよね。タイム差が1秒ぐらいの中に4カ国いるので、ちょっと失敗してしまうともうメダルが見えなくなってしまいますし、完璧に滑れば金メダルも狙える位置にいます。
──妹の美帆選手とはオリンピック前、何か連絡を取ったりされましたか?
長野で練習している時に「いってらっしゃい」とハグしました。
──美帆選手は何ておっしゃってました?
わりとあっさり「わかった!ありがとう!行ってくる!」って(笑)。
──会場で実況されるということで、逆に声をかける機会が難しいかもしれないですね。
それもあるからこそ解説にしたんです。
私たちは姉妹だからこそ、ちょっと近すぎるんですよね。オリンピックで妹が全て良いレースだったら「おめでとう」と声をかけられますけど、もし何かあった時、私はそこでインタビューは絶対にできないと思うんです。妹も姉だからこそ話したくないこともあると思うので、だったら妹が会いたい時に会えて、会いたくない時は会えない距離が良かったんです。妹が一番輝けるポジションに私はいたいと思っていたので、だからこそあまり会えない距離にして、「会いたい」と言われたら行くよ、という形がいいなと思っていました。
──あえてある程度の距離感を作れるポジションで、今回はオリンピックに携わるという。どんな滑りをしてくれるのか楽しみですよね。 さあ、この番組は毎回ゲストの方にCheer up songを伺っています。髙木菜那さんの心の支えになっている曲を教えてください。
SUPER BEAVERの「生きがい」です。
こちらはフジテレビの今回のミラノ・コルティナオリンピックのテーマソングになっていて、“選手の時の思いがすごく乗っている曲だな“と、“選手の背中を押してくれる曲になっているな、歌詞が素晴らしいな“と思って、これを聴いた瞬間に美帆や佐藤綾乃とか全員に「いい曲だよ!」って送ったんです(笑)。そうしたら妹もすごく聴いているみたいです。
──やっぱり曲に勇気をもらったり元気をもらうことはあるんですか?
ありますし、そのオリンピック期間中に聴いていた曲って、“オリンピック色”になるんですよ。
テーマソングじゃなくても、“この時のオリンピックでこの曲を聴いてたよね“とすごく思い出に残るんですよね。だから今回はこの曲が私の“ミラノ・コルティナオリンピック色”になっていくんだろうなと思っています。
──そして本日なんですけれども、菜那さん初の著書「7回転んでも8回起きる」が、徳間書店より出版されたということで、おめでとうございます。 こちらはどのような本なんですか?
私のスケート人生が綴られている1冊になっていると思います。
私は北京オリンピックのことについて、これまであまり外で話してきませんでした。あの記憶は自分の中ではまだまだつらいものですし、外に出しても良い思い出ではないと感じていたからこそ、心の中にしまってきたんです。でも、この本を書くにあたって、“このことはしっかり書かなければいけない”と思いました。そういう意味で、初めて北京オリンピックのことを綴らせていただいた本にもなっていると思います。
──北京オリンピックの最後に転倒してしまったということがありましたが、それと向き合うことができたわけですよね。
乗り越えられたかと言われるとまだ乗り越えられてはいないと思うんです。ただ、引退してからの4年間で多くの人に支えられ、その出来事と向き合えるように強くなってきたと思います。
この本を読むことによって、アスリートはただ強い存在なのではなく、オリンピックを目指す4年間がどれほど長く、心や命を削りながら戦っているのか、その過程が少しでも見えるのではないかと思っています。なので、本を読んでいただいて、いろんな選手たちがそういう想いをかけてオリンピックという舞台に立っているのだと感じてもらえれば、オリンピックの見方もまた新しいものになるのではないかと思い、書かせていただきました。
来週も髙木菜那さんにお話を伺っていきます。お楽しみに! 今回お話を伺った髙木菜那さん初の著書「7回転んでも8回起きる」にサインを入れて3名のリスナーにプレゼントプレゼントします。 ご希望の方は、番組公式X をフォローして指定の投稿をリポストしてください。当選者には番組スタッフからご連絡を差し上げます。 さらに、今日お送りしたインタビューのディレクターズカット版は、「TOKYO FMポッドキャスト 」として、radikoなどの各種ポッドキャストサービスでお楽しみいただけます。 聴き方など詳しくはTOKYO FMのトップページ をチェックして、そちらも是非、お聴きください!