寺田明日香さんは1990年生まれ、北海道のご出身。
陸上競技100mハードルでインターハイ3連覇、日本選手権3連覇などの好成績を残した後、摂食障害・疲労骨折等により2013年に引退。
結婚・大学進学・出産を経て、2016年に女子の7人制ラグビーに転向する形で現役復帰し、日本代表練習生として活動したのち、2019年から陸上競技に再転向。
100mハードルで12秒97と、日本人初の12秒台と19年ぶりに日本新記録を樹立し、世界陸上に出場。
2021年には2度の日本記録を更新。日本選手権では優勝を果たし、東京オリンピックに出場。日本人21年ぶりとなる準決勝進出を果たしました。
ママハードラーとして活躍を続けてきましたが、今年(2025年)4月、今シーズンをもって競技者としての第一線から退くことを発表されています。
──寺田明日香さんは今シーズンをもって競技者として一線からは退かれたわけですけれども、経歴がすごいですよね。こんな人生になると想像されていましたか?
全く思っていませんでした。
──やっぱりタイミングや出会いが大きいんでしょうか。
大きいですね。1回陸上競技を辞めた時に、もう一度アスリートをやるなんて全く思っていなかったですから。
──そこは未練なくというか、きっぱりと?
未練がないと言ったら嘘になるんですけど、ただ、陸上競技場を見るだけで吐き気がするぐらい、陸上競技が嫌いになって辞めているんです。
──8年前に番組にいらっしゃった時に、怪我をしてバランスが崩れてしまって、とおっしゃっていました。自分の思っているパフォーマンスができないということでそこまで精神的に追い詰められていたんでしょうか。
そうですね。当時の私は1番で走ることが当たり前で、自分が“日本で1番”で走れない、代表に入れないということが、“辛い”というか、“自分の存在している意味って何なんだろう”と考えてしまうぐらいだったんですよ。
周りからも「いつになったら調子が良くなるの」と言われたり、言われているような気がしたり…どんどん人前でレースをするのが嫌になっちゃったんです。なので、摂食障害や怪我とかいろいろあったんですけど、それぐらい陸上競技が嫌いになってしまったので、もう一度人に応援していただきながら競技をするなんて思っていませんでした。
──その1回目の引退後は、大学に行かれたり、結婚されたり、出産もされましたよね。その時はどういうことを思いながら生活されていたんですか?
競技を引退したのが23歳の時で、“23だったら、まだ社会に出ている同級生たちに追いつけるかもしれない”“早く辞めたからこそ早く社会の一員になりたい”と思っていました。
高校を卒業して専門学校には行っているんですが、その学校法人が持っていた実業団チームに入っているので、そういう進路を選んだ時点で、“陸上競技をやめたら大学に行って、自分の興味を深めたり人脈作ったりしたい”と思っていたんです。なので、引退してすぐに“大学に進学しよう”と思って進めていたんですけど、その年の秋ぐらいに東京オリンピックの開催が決まったんですね。そこで、その時にお付き合いがあった今のマネージャー兼夫と話しまして、スポーツに関わっていた2人なので、「家族で(オリンピックを)観たいね」という話になりまして、そこから家族計画が始まって、「大学進学」と「社会に出て働く経験」と「家族計画」の3本柱で生きていくことがスピーディーに決まりました(笑)。
──8年前にお越しいただいた時には7人制ラグビーに転向して1年ぐらい経った頃でしたが、7年制ラグビーを始めたきっかけというのは?
一度陸上を引退する時に、ラグビー協会の方々からお声がけをいただいたんです。リオデジャネイロオリンピックで7人制ラグビーが正式競技になるということで、選手の強化や新しい人材の発掘をされていたので、「ぜひやってみないか」ということでお声がけいただいたんですけど、私はその時(心を)病んでいたので、「もう人に見られながらスポーツするのは無理です」とお断りさせていただきました。
それでリオデジャネイロオリンピックが終わったんですが、(オリンピックの7人制ラグビーの試合に)競技転向組の友人たちも出場していたんですね。それを観ていた時に、“7人制ラグビーってこういう競技だったんだ”ということを知って、その直後ぐらいに「東京オリンピックを一緒に目指さないか」と再度お声がけをいただきまして。その時に、“人生の中で「一緒にオリンピック目指そう」とか「目指せるよ」と言ってもらえる人って果たして何%いるんだろう”と考えたら、やっぱりすごくありがたいなとその時は思えたんです。なので、“必要としてもらえるんだったらチャレンジしてみようかな”ということで飛び込んだ、という感じです。
──そこでアスリートとして戻ったことが、その後陸上に復帰する足がかりになったんでしょうか。
間違いないですね。ラグビーをやっていなかったら陸上復帰なんて全く考えられなかったと思います。
──前回お越しいただいた時には「陸上をまた始めるなら120%に持って行かないと世界に挑戦できない。そういうこともあってラグビーに挑戦している」とおっしゃっていましたが、ということは、“120%できる”という手応えを感じたということですか?
それを、ラグビーをやっていて感じました。
ラグビーをやっていて何が楽しかったかというと、やっぱり“ボールを持って走る”ということが楽しいなと思ったんです。“私はやっぱり走ることが好きなんだ”とラグビーを経験して思えたので、“だったら陸上競技にもう1回戻ってもいいんじゃないか”と。陸上競技場を見るだけで吐きそうになっていた、それをもう1回好きになれたということは、自分の中でのモヤモヤを解消する足がかりにもなりますし、子供たちに「走るって楽しいんだよ」ということもちゃんと伝えたかったんですよね。自分が嫌いなものを子供たちに「楽しいよ」って言いにくいじゃないですか。
──それはやっぱり、ご家族の支えも大きかったんじゃないですか?
そうですね。(妻が)競技をやるって、やっぱり一般の旦那さんはなかなか考えられないんじゃないかなと思うんですよね。それを、うちのマネージャー兼夫は、「やりたいならやれ」と。「でも本気じゃないと応援しない」とも言われましたけれども。
──ただ、お嬢さんは、ママがどうしても恋しい時期だったりするわけですよね。
私の方が寂しかったかもしれないです。娘は結構しっかりしていて、3歳でも、「(自分)の仕事は保育園、ママの仕事は練習」と言ってくれて、私はボロボロ泣いて練習に向かうんですけど(笑)。
──そして今年の春に第一線を退くということを発表されましたけれども、「引退」という言葉は使っていないですよね。これは、“今後こうしていこう”みたいな予定、人生設計をされていらっしゃるということですか?
そうです。日本代表を目指して試合に出ていると、基本的に決まった試合にしか出られないので、地方ではなかなか走れないんです。例えば私は北海道出身なんですけど、北海道での試合ってほぼないに等しいんですよ。なので、来年、1年とか1シーズン、もしくは2シーズンなのかちょっとわかりませんが、お世話になった先生方や、地元の子供たち、日本中の陸上少年少女たちに、走れるうちに私の走りを見てもらいたいし、そして一緒に走ってもらいたい。そういうことをしてしっかり引退したいなと思ったので、まだ引退ではなく第一線を退く、と表現しました。そういう地方の大会を巡って、陸上教室とか、いろんな話をさせていただきながらやっていきたいなと。
──寺田明日香さんが復帰して、そして日本人初の12秒台に突入した。これはやっぱりハードル界にものすごく大きな影響を与えたんじゃないかなと。その後、女子のハードルのレベルが相当上がったんじゃないですか?
相当上がりましたね。でも、私が復帰した時、女子のハードルの日本記録が結構古い記録で、私が(1度目に陸上を)辞めて6年ぐらい経っていたんですけど、そこから時計が止まったままタイムが動いてなかったんです。私はその記録を切れるかわからないけれど、何か起爆剤になればいいなという思いもあって復帰したので…。
──まさに不思議なもので、12秒台を出す選手がいると、“私もできるかもしれない”とか“それを目標にしたい”ということでレベルアップしていくんだなと。
本当にありがたいなと思います。他の選手たちが、「明日香さんの動画を何回見たかわからないです」って言ってくれるんですよ。その時に、やっぱり13秒台と12秒台のリズムというものが身近になったことが大きいのかなと思いました。
──さあ、この番組では毎回ゲストの方にCheer up songを伺っています。今週も寺田明日香さんの心の支えになっている曲を教えてください。
私が世界陸上ブダペスト大会に出場した時にテーマソングだった、星野源さんの「生命体」という曲がございまして。私は星野源さんが大好きなんです。
──以前、この番組に来てくださった時にも星野源さんの「SUN」を選んでくださいましたよね。
いまだに好きです。でもまだ会えていないです(笑)。
でも、ブダペスト大会に出た時に、公式Xの方で「寺田明日香さんが…」と書いてくださって。これは推し活の極みでございますね(笑)。

今回お話を伺った寺田明日香さんのサイン色紙を、抽選で1名の方にプレゼントします。ご希望の方は、番組公式X(旧ツイッター)をフォローして指定の投稿をリポストしてください。当選者には番組スタッフからご連絡を差し上げます。さらに、今日お送りしたインタビューのディレクターズカット版は、「TOKYO FMポッドキャスト」として、radikoなどの各種ポッドキャストサービスでお楽しみいただけます。聴き方など詳しくはTOKYO FMのトップページをチェックして、そちらも是非、お聴きください!