福田正博さんは1966年生まれ。
Jリーグが開幕した1993年から引退する2002年まで浦和レッズの象徴的存在として活躍し、サポーターからは「ミスター・レッズ」として親しまれ、日本人初のJリーグ得点王となるなど活躍し、J リーグ通算228試合出場93得点、日本代表では45試合出場で9ゴールを記録、1993年にはワールドカップアジア地区最終予選も経験しています。
2002年に現役を退かれた後は、サッカー解説者としてメディアで活躍するとともに、講演会やサッカー教室など、自身の経験を活かしながら様々なジャンルで活動されています。
──現在大詰めを迎えているJリーグですが、残り2節となっています。今シーズンは優勝争いが最終節までもつれている。2005年シーズン、そして2018年シーズンと匹敵するぐらいもつれていますよね。
そうですね。大混戦で、最終節までもつれるだろうと言われていますが、優勝の可能性があるのが、現在首位の鹿島アントラーズと2位の柏レイソルの2チームで、残り2節で勝ち点差が1だけなんですよ。だから順位は変わる可能性があるので、最終節まではもつれるかなと思っています。
そして明日(11/30)、1位の鹿島が勝利して2位の柏が敗れると、鹿島アントラーズが9回目のJ1優勝。実は鹿島が優勝するのは9シーズンぶりなんですよね。
──鹿島は伝統ある強いチームのイメージがありますが、最近は優勝できていない?
そうですね。近年はちょっと優勝から遠ざかっていて、なかなか優勝できていなかったんです。
──明日(11/30)、鹿島が現在14位の東京ヴェルディと、そして柏は最下位に沈んでいる新潟と対戦。
そうなんです。ここまで来て、柏レイソルにしてみたらもう勝つ以外はないと。鹿島は自力で優勝できますから、あと2試合勝てばいい。両チームとも明確な目標を持ってやっているので、プレッシャーはそこまでは感じずにプレーができるのかなと思います。
──鹿島アントラーズと柏レイソルには共通点があって、今シーズン、監督が変わって1年目なんですね。
そうですね。1年目ということで難しさがあったと思います。特に今首位の鹿島アントラーズに関して言うと、川崎フロンターレで4回優勝している鬼木監督が就任されましたが、元々OBですから。
──元々は鹿島アントラーズの選手で、そこからフロンターレに移籍して、その後監督になって、常勝軍団でしたよね。
今まで4回優勝している監督はおそらくいないと思うんです。さらに鬼木監督にしてみると、川崎フロンターレで成功を収めて、今度鹿島で優勝すると、違うチームで優勝することになる。多分、そういう監督は今までいなかったと思います。
鹿島アントラーズにしてみると、優勝から遠ざかっていたところから何としてももう一度強い鹿島を取り戻したいということで、鬼木監督にオファーをして、鬼木監督が就任された。相当な期待をかけられた中でこの成績を収めているのは本当にすごいなと思います。そういう意味では経験のある監督と言えると思います。
一方の柏レイソルは、リカルド・ロドリゲス監督は徳島で(監督を)やって浦和でやって、今回、柏レイソルの監督に就任された。スペイン人の監督なんですが、日本のことはよく知っていて、そうはいっても1年目でここまでの成績を残すというのはすごいことです。
なぜすごいかというと、柏レイソルはここ近年、残留争いにずっと巻き込まれていたんです。そのチームを、短い期間でここまでチームを作って優勝争いさせるところまで持ってきたというのは、相当な手腕と言えると思いますね。
サッカーに関して言うと、ボールをしっかりと繋ぎながら攻守両面にバランスの取れたチームを作っていくという点において非常に評価の高い監督だと思います。
──鬼木監督に変わって、鹿島のサッカーは変わったんですか?
どうなんでしょう。勝てるようになったということでチームの流れがだいぶ変わったと思いますが、常勝軍団だった昔の鹿島の良さは、とにかく勝負にこだわる。「優勝以外は全て失敗だ」という考え方のもとにずっとやっていた。今シーズン、鬼木監督になって、そこのところをフォーカスして強く打ち出すことによって、選手たちに勝者のメンタリティというか、改めてもう一度、鹿島の良さというものを呼び起こしてくれたと思います。
順風満帆にここまで来たわけじゃなく、苦しい戦いをしっかりと粘り強く戦って、勝ち点を積み上げて今この順位にいる。やっぱり鬼木監督になってから、特に鹿島の良さというものが戻ってきたなという印象ですね。
──鬼木監督は、現役時代、19歳で鹿島に入ってきた時にあのジーコさんがいらっしゃって、練習の時から本当に勝負にこだわってる姿を見てすごく学んだと。フロンターレに行って成績が良かった時に、「この雰囲気を覚えてくれ」と。やっぱり勝つための雰囲気というものは大切なんですね。
よく鹿島の選手が言われていたのが、「練習の時から、1つ1つの勝ち負け、ささいな勝負にもこだわってやっていく」ということなんです。それは試合の時だけではなく、練習の時からそういうところにこだわっていくのが鹿島の伝統ですし、今お話にあったように、ジーコさんがそこを鹿島に植え付けて、それが強さになったんですね。
近年、そういうところがなかったわけではないけれども、少し薄くなっていたんだと思うんです。それを、鬼木監督が就任されて、改めてもう一度呼び起こした。
──そう考えると、監督は戦術面でも大変ですが、モチベーターとしての存在というのも大切なわけですよね。
おっしゃる通りで、鹿島アントラーズは、今シーズン3連敗を2回しているんです。一般的には「優勝するチームは連敗を2回したら駄目だ」と言われています。なぜならば、(優勝するためには)シーズン通して8敗、9敗ぐらいしかできない。連敗を2回してしまうと、もうあと4敗ですよね。3連敗を2回すると残り2敗になってしまう。そうするとそこから結果を残していくのは難しいと言われているんです。
ということは何かというと、やっぱり苦しい時期というのは当然あるわけです。それをどうやって乗り越えていくかが試されるのが、リーグ戦なんですね。総合力、監督の忍耐力、うまくいっていない時のマネジメントというものが非常に重要なんです。普通は3連敗してしまったら、そこの順位にはいられないんですね。
──ズルズルといってしまいがち。
おっしゃる通りです。やっぱり選手としては不安になってきたり、監督の言っていることに疑心暗鬼になってきたり、求心力を失ってしまったり、チームとしてバラバラになっていきやすいんですよ。その中でうまくチームをコントロールしながら今ここにいるというのはものすごいことだと僕は思っています。簡単なことではないです。
みなさんは、「プロの選手だからサッカーを一生懸命やるのは当たり前」と思っているかもしれませんが、なかなか(実態は)そうはいかないんです。11人だけでサッカーをしているわけではなく、26人ぐらいメンバーがいて、試合に出る人、出られない人がいる。そういう人たちが不満に思っているのは当たり前です。監督に対して全員好意を持っているわけではないんです。その中でチームを1つの方向に持っていくというのはすごく大変なことで、まして優勝を目指しているチームが3連敗をしてしまうと、やっぱり選手たちから「大丈夫か」という不協和音が出てきて、悪い方向に行ったりするんです。それを食い止めて良い方向に持っていくというのは大変な作業で、そういうモチベーションの部分、いわゆるチームマネジメントがしっかりできていなければならない。
そのチームマネジメント、モチベーションを高めるために“戦術”があると思うんです。戦術というのは、1つの方向に向かせて、そしてモチベーションを持たせて選手の役割や責任を明確にして、そこで評価する。それがまたモチベーションに繋がっていくんです。その1つの手段として戦術というものがあると思うので、戦術があれば勝てるわけではなく、戦術は勝つという要素の中の1つでしかないと思っています。
──そして、両チームの共通点は、サポーターが熱い。
そうですね。両チームとも、ホームスタジアムがサッカー専用なんです。当然ここまでの順位を収めているということは、ホームでの勝率は非常に高いはず。それはやっぱりピッチと応援の席が近いサッカー専用スタジアムである(ことも理由の1つ)。
サッカーの場合、トラックのスタジアムだとどうしても少し(ピッチと客席の)距離ができるんです。
──福田さんの在籍していた浦和レッズは(サッカー専用)スタジアムですよね。
僕が在籍していた時は(ホームスタジアムが)駒場スタジアムだったので、トラックがあってちょっとピッチから(客席が)遠かったんです。それでもファンは熱狂的だったので、独特の雰囲気はありました。
でも、もし現役時にもっとピッチと近い今の埼玉スタジアムでプレーしていたら、僕たちホームの選手にとっては非常にアドバンテージになったと思います。ものすごい力で後押しを受けますし、逆にアウェーのチームにしてみたらものすごい圧力になって、プレーしづらいと思うんです。そういう意味では、鹿島も柏もホームスタジアムがサッカー専用なので、すごく(応援の)力を受ける。
特に柏は、コンパクトなんですけど(ピッチと客席が)非常に近いので、厳しい指摘…“野次”という言い方をしますけど(笑)、野次が直接聞こえますね。結構グサッとくるような野次をしてくるんです。
でも、誹謗中傷は良くないと思いますが、野次も含めてサッカーですし、鹿島も柏もサッカーのスタジアムとして最高の空気感を作ってくれる。ホームにとっては最高のアドバンテージになる。そこも両チームが優勝争いをしている理由の1つだと思いますね。
──さあ、この番組は毎回ゲストの方にCheer up songを伺っています。福田さんの心の支えになっている曲を教えてください。
ゆずさんの「栄光の架橋」です。
この曲は2004年のアテネオリンピックのNHKのテーマソングでした。僕は現役は辞めていたんですが、初めてオリンピックに関わって、1ヶ月間アテネに行っていたんです。そういう意味では非常に思い出に残っています。
それと、やっぱり選手の気持ちをここまで表現してくれるのはすごいなと思いました。


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