漫画『ゴールデンカムイ』のアイヌ語監修者、千葉大学 文学部教授 中川裕さんのインタビューをお届けしてきましたが、今回でラストとなります。
最後は、漫画の中でも描かれている、アイヌの人たちの「道具作り」のお話です!


〜森の中で使うアイヌの道具が漫画「ゴールデンカムイ」の中に出てきて面白いなと思ったのですが、アイヌの人たちが森に入る中で最低限必要な道具というのはありますか?
 アシリパ(本来”リ”は小字)が普段ぶら下げているからわかると思いますが、マキリという小刀と、タシロという山刀、いわゆるナタですね。この2つだけ。これ以外はいらないって事は無いんだけれども、あとは現場でマキリとタシロで作ればいいんです。例えば槍。槍は熊を捕るときに必要なんだけれども、持っていくのは穂先だけ。3メートル位ある長い槍は持って歩いたら邪魔でしょうがない。だから先っぽだけ持っていくんです。そしてその場で木を切って、柄をつけるわけですね。それで狩りをする。弓だって何だって別に家から持っていかなくたって、その場で弓になる木があれば作ればいいというわけです。そういう意味では、作るための道具としてマキリとタシロの2つが絶対必要だけど、これだけあれば、あとはその場で何でも作れると昔の人は言っています。食べ物は獲ればいいんだし、寝るところは木を切って作れば良いわけだし。

〜寝るところはどう作っていたんですか?
 いろんなやり方がありますけれども、簡単に切れる木を切って組み合わせて、小屋みたいなものを作って、そこら辺に生えている、例えばふきの葉で上を覆う。そうすると雨風よけになるので、その中に入って寝ればいいわけです。

〜山登りというと、我々は重装備で行くじゃないですか。そう考えるとアイヌの方々は、森の中の過ごし方ってシンプルでいいんだよということを教えてくれる感じがします。
 山で遭難したというニュースがあると、昔のおばあさんたちは、あんないっぱい荷物を持っていくから疲れて遭難するんだと言っていたんです。昔のアイヌは身軽だから疲れるなんて事はないと。ただしそれはもちろん技術がないとだめですよね。マキリとタシロだけ持って山へ行ったら普通は死んじゃいますよ。しかも狩りをするときには冬山にだって入るわけです。冬山で過ごせるだけの体力と技術と、それから知識が必要ですね。それは子どもの頃からお父さんが山の中に連れて行って仕込むわけですよ。そうやって培われている技術だから、我々が大人になってからさあやろうといっても、なかなかそう簡単にはいかないですね。

〜漫画「ゴールデンカムイ」でびっくりしたのは、冬眠をしている熊の穴に自ら入った人間は襲われない、という言い伝えが紹介されていることです。
 狸(たぬき)を”熊のおじさん”と呼ぶ地方があります。なぜ熊のおじさんなのかというと、熊の巣穴に一緒に入っていることが結構あるらしいんです。狸は自分で穴を掘るのが面倒臭い時に、熊のいる穴に入ることがあるようなんですね。そっちの方が暖かいから、一緒にいるらしいんです。熊の巣穴に入っても、狭くて体でいっぱいいっぱいだから、熊は襲いようがないんだと思います。ただ人間はそんなところに入っていく勇気は無いですけどね。

〜マキリとタシロだけで森の中に入るという、原始的な部分がある一方で、アイヌの刺繍だとか、すごく立派な彫刻など、文化も発達しているんですね。
 今、原始的という言い方をされましたが、逆だと思うんです。それだけでサバイバルできるような洗練された技術と考えた方が良いと思うんですね。何を使ってどうやったらどういうものができるかをわかっている。木の皮で鍋を作るにしろ、船を作るにしろ、船なんか下手に作ったら命に関わりますよね。それを沈まないように作る技術というのがあるからこそ、その場で作ることができるわけで、相当な技術の集積みたいなものがないと、マキリとタシロだけ持って山へ入るなんて、おっかなくてできることじゃないと思うんですよね。むしろそれは洗練されたスタイルだと考えた方が良いんです。

〜お話を伺っていると、アイヌの文化に触れてみたい、経験をしてみたいという気持ちが出てきますが、中川さんがお勧めのスポットなどはありますか?
 二風谷(にぶたに)、旭川、阿寒(あかん)に行けば観光として、博物館、資料館としてのアイヌの文化は見ることができるんだけれども、僕としてはむしろものの考え方のほうが重要だと思うので、どちらかというと本を読む事が必要なんじゃないかと思うんですね。カムイという言葉も、「神様」と説明されていることが多い。それを見て、こんなものも神様として信仰しているのかと考えちゃうところもあるわけです。でも実際には、カムイは日本語の「神様」とはちょっと違う。アイヌ文化の背景にある考え方はこうなんだということは、それについて詳しく書いてあるもの、ちゃんとした人が書いたものを読まないと理解できないかもしれないですね。


漫画『ゴールデンカムイ』のアイヌ語監修者、千葉大学 文学部教授 中川裕さんのお話、いかがだったでしょうか。
インタビューの中で中川さんは、「アイヌ文化の背景にある考え方はこうなんだということについて詳しく書いてあるもの、ちゃんとした人が書いたものを読まないと理解できない」とおっしゃっていましたが、今回、中川さんが新しく出された本「アイヌ文化で読み解く『ゴールデンカムイ』」(集英社新書)はまさにそういう本ですね!この「アイヌ文化で読み解く『ゴールデンカムイ』」を10名の方にプレゼントしますので、このページのメッセージフォームからぜひご応募くださいね!

アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」著者: 中川 裕 野田 サトル(集英社新書)

【番組内でのオンエア曲】
・裸足の果実 / EGO-WRAPPIN'
・It's A Fine Day / Opus III
今週も引き続き、漫画『ゴールデンカムイ』のアイヌ語監修者、千葉大学 文学部教授 中川裕さんのお話です。
このゴールデンカムイという漫画、アイヌのかつての生活がとても詳細に描かれていることも、大きな魅力の一つなんですが、中でも本当に面白いのが「食べ物」をめぐる描写です。
ということで今日は、アイヌの「食」にまつわるお話です!


 アイヌの方では、昔は基本的に主食は鍋。日本だとご飯があって、そのおかずとして鍋がありますが、アイヌではご飯にあたるものは特にないので、鍋の具が主食なわけです。焼くというのは臨時的に野外で獲ったところでやるとか、囲炉裏で何かを串に刺して焼くというのがあるんだけれども、あまり普通の食べ方ではないです。なぜかというと、焼いて食べるには網が必要になりますが、あまりアイヌの社会では広がっていないんですね。そうすると串に刺して焼くことになりますが、串に刺して焼くと脂が下にたれますね。もったいないでしょう?鍋に入れておけば脂は全てその汁の中に入るわけですよ。
 それから野菜を食べるにも、肉を焼いちゃったらまた別に一品料理を作らなければいけない。鍋だったら全部一緒に入れちゃえばいいから、鍋の方が簡単な上に無駄がないんです。昔はアクすら取らずに混ぜちゃったそうです。食材から出てきた養分を全部逃さないんですね。
 また、獲った時にしか生では食べられないのだから、それ以外の時は保存食料にしたものを使うわけですよね。保存食料といっても、和人の場合には主に塩漬けにしたり、発酵させたりします。発酵させるにも塩が必要なので、要するに塩漬けなんだけれども、アイヌの場合は塩を使った保存法はほとんどやりません。いちばん基本的なのは乾燥です。肉でも魚でも全部まず干して干物にして、それから家の中の囲炉裏の上にぶら下げて燻製にするわけですよ。そうすると日持ちするので、獲物を獲った時でも、山菜を採った時でも、まず最初にやるのは乾燥させること。例えば、ウグイとかヤマメとか小魚を獲ってきたら串に刺す。串に何十本も刺して焚き火のところに立てておく。そうして焼いたものを囲炉裏の棚の上に上げておいて、そこで下からの煙で燻製にしてカラカラに干しておく。その場では食べません。おやつで子どもたちが食べることももちろんあるんだけれども、基本的には保存食にしておいて、燻製になっているものを折って鍋の中に入れて出汁にします。何も採れない時期、冬とか山菜が一切採れない時期にも食べられるように、採れる時に作っておくというのがいちばん重要な仕事なので、基本的に乾燥食料なわけですよ。だから鍋料理が基本なんですね。


〜漫画の中に出てくる「チタタプ(本来” プ”は小字)」もすごく衝撃的でした。
 漫画の中では、チタタプはリスやウサギ、獣類を調理するものだという印象がみんなに刷り込まれちゃったけど、それももちろんやりますが、基本的にチタタプは鮭です。細かく刻んで食べる料理で、ちょっとみんなが考えているのとは違います。鮭の肉は使わず、ヒズという頭の真ん中にある軟骨と白子を基本的に使います。細かく刻んで白子を混ぜて、ちょっと塩を入れて、あるいはギョウジャニンニク、ノビルのような野生のネギを刻んで入れるというのが基本ですね。そこに加えるとしたらヒレや尻尾を細かく刻んだものです。

〜鮭の身は入っていないんですね。
 寄生虫がいるから身を入れてはいけないんです。アイヌでは鮭の身は生では絶対に食べません。あとエラやヒレ、尻尾なんかも食べるために細かく刻むんです。細かく刻んであれば食べられるわけです。そのまんまで食べられない部分を食べるための工夫がチタタプなんですね。

〜漫画だとリスを刻むシーンがありますね。
 ああいうやり方もあります。動物によって生で肉を食べられるものと食べられないものがありますが、例えばシカは大して問題はないんですが、熊の肉は寄生虫がいるので、生では食べません。でも内臓と脳みそは生で食べるものなんです。あれには寄生虫がいないので。あれは生で食べないといけないものなんです。

〜中川先生は召し上がったことがあるのですか?
一通り全部食べました。おいしいですよ。ちょっと塩とかネギとか入れて味付けしないといけませんが、そういう味付けをすると僕は好みですね。味はタラの白子に近いと思います。


漫画『ゴールデンカムイ』のアイヌ語監修者、千葉大学 文学部教授 中川裕さんのお話、いかがだったでしょうか。来週も引き続き中川さんのインタビューをお届けします。

中川さんが新しく出された本「アイヌ文化で読み解く『ゴールデンカムイ』」(集英社新書)を10名の方にプレゼントします!このページのメッセージフォームからご応募ください。ご住所、お名前を忘れずに記入してくださいね!


アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」著者: 中川 裕 野田 サトル(集英社新書)
今週は、前回に引き続き、漫画『ゴールデンカムイ』のアイヌ語監修者、千葉大学 文学部教授 中川裕さんのお話です。
明治時代末期の北海道を舞台に、ヒロインのアシリパ(本来”リ”は小字)をはじめ、様々なアイヌの登場人物たちが活躍する冒険活劇・ゴールデンカムイ。
この作品は、アイヌの人たちの昔の暮らしが詳細に描かれているんですが、そんなアイヌの自然観、生命感を象徴するのが「カムイ」です。きょうはこの「カムイ」という存在について、さらに詳しく伺います!


 カムイの本体は霊魂、魂なんです。肉体というのは人間のいるこの世界に来る時だけ必要なもの。人間と交流をするために霊魂の世界、つまりカムイの住む世界から魂がやってきて、人間と何らかの関わりを持とうとするわけです。この時にお土産として肉や毛皮を持ってやってきて、それを人間に与えるんですね。与えるときに、人間はカムイを殺さなければいけないわけですね。それが狩猟です。殺して肉と毛皮をありがたくいただいて、そのかわり人間のほうもカムイに対して、カムイの世界では手に入らないもの、例えばお酒とか米の団子とか、イナウという木を削ってふさふさっとしたものがあるんだけれども、こういう人間が作らないとこの世に存在できないようなものを、カムイにお土産として持たせて帰ってもらう。つまり物々交換ですね。交易と言ってもいいです。熊と人間はお互いに自分の持っているものを相手に与えて、交易をしていると。それが伝統的な考え方なんですね。だから狩猟というものをギブアンドテイク、ウィンウィンの関係と考えます。
 実際問題としては、要するに動物を殺して食っているわけだから、一方的なご都合主義的な考えじゃないかと思うかもしれませんが、じゃあわれわれは豚とか牛とか鶏を毎日食べているわけだけど、これはなぜ良いのか。倫理的に他の動物を殺して人間が食べても良いというのは何が保証しているのかというと、何だかよくわからないですよね。ほとんど日本人は何も考えていません。それは、なぜかといったら、自分が殺していると思っていないからですよ。自分たちが直接手を下していないから命を奪っているという感覚がないというだけの話です。狩猟民族は自分たちで狩りをして殺して、それによって生きているということを常に感じているので、なぜ自分たちがそれをして良いのかということを考えなくちゃいけないんです。そのひとつの答えとして交易という、お互いがギブアンドテイクなんだという考え方に達したわけです。何も考えていない我々より、こちらの方がちょっと洗練された考え方ですよね。


〜ゴールデンカムイを読んでいると、最初は狩りのシーンとかお肉にしているシーンに驚くのですが、どんどん変わってきますよね。ありがたく全ていただく精神とか、ウィンウィンの関係とか。それが読んでいるうちに当たり前に考えられるようになる感じがします。
 ゴールデンカムイにアシリパさんというアイヌの女の子のヒロインが出てきますが、小動物に限らず動物を見ると殺して食うヒロインというのは日本の漫画史上ほかに例がないんじゃないかと思います。その背景にある思想というのがそこかしこで語られているのですが、たとえば手負いのシカを杉元がとどめを刺すシーン。鹿に戦場での自分の姿が二重写しになっちゃって、どうしても引き金が弾けない。その時にアシリパが仕留めて、解体をして腹を裂きながら、杉元に向かって「手を入れてみろ」と言うわけです。真冬の話ですから「暖かい」と。その暖かさがお前に伝わってお前を温めた。だからシカが生きていた意味は消えたりしないと杉元に言うシーンがあるわけですね。大変名場面だと思うんだけれども、ああいう形で、人間は他者の命によって生かされているということを、アシリパ(本来”リ”は小字)がいろんな場面で言うんですね。それが当たり前のような感じにだんだんなってくるわけね。そこは凄いと思います。

〜ゴールデンカムイの漫画で多く登場するのは熊ですね。我々もこの番組で以前北海道を取材したのですが、熊というのは神様で、キムンカムイという名前がついていると知りました。やはりヒグマはアイヌの人々にとってすごく特別な存在なのでしょうか。
 北海道でただ「カムイ」といったら普通はクマを指すんですね。キムンカムイの「キムン」は「山の」という意味だから”山のカムイ”。熊はカムイの代名詞みたいなものですね。少なくとも地上にいる最も強い生物なわけだから、格が高いというか、偉いということになるわけですね。それと、私の個人的な考えですが、なぜクマは偉いことになっているかというと、ものすごいたくさんの肉を人間に届けてくれるということがあると思います。鹿と比べてはるかに肉の量が多いわけですね。クマは横に広がったような顔をしていますが、あれは大半が筋肉。骨は細長いんですよ。顔だけで相当量の肉が取れる。しかも、個人的な好みの問題もあるんだけれども、鹿よりも熊の方がうまい。ただ塩ゆでにしただけでも獣臭くないし、大変美味しく食べられるんです。おいしいなと思った時に、だからクマのカムイは偉いんだなと僕は思ったことがありましたね。

漫画『ゴールデンカムイ』のアイヌ語監修者、千葉大学 文学部教授 中川裕さんのお話、いかがだったでしょうか。来週も引き続き中川さんのインタビューをお届けします。

中川さんが新しく出された本「アイヌ文化で読み解く『ゴールデンカムイ』」(集英社新書)を10名の方にプレゼントします!このページのメッセージフォームからご応募ください。ご住所、お名前を忘れずに記入してくださいね!

アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」著者: 中川 裕 野田 サトル(集英社新書)

【今週のオンエア曲】
・OLE!OH! / 木村カエラ
・そのいのち / 中村佳穂
さて今週は、北海道の先住民族「アイヌ」の生命観・自然観に関するお話です。
みなさんは、『ゴールデンカムイ』という漫画/アニメをご存知でしょうか。明治時代末期の北海道を舞台に、ヒロインのアシリパ(本来”リ”は小字)をはじめ、様々なアイヌの登場人物たちが活躍する冒険活劇。
この漫画をきっかけに、アイヌの自然観・生命観に関心を持つ人が増えているそう。
そこで今回は、この漫画のアイヌ語を監修している、千葉大学文学部教授 中川裕さんをお迎えして、アイヌの人たちの森との関わり、自然との向き合い方を伺います!


「カムイ」とは、普通は神様と訳します。それは、間違いではないのですが、神様と訳してしまうと、空の上に、人間から隔絶したところにいる、手の届かない存在みたいなことになってしまいます。しかし、アイヌ語のカムイは、そこら辺に歩いている犬や猫もカムイ。雀もカラスも全部カムイ。動物が全部そうかとはいうと動物に限らない、木も草もみんなカムイ。火もカムイ。火の神様がどこかにいてそれが人間に与えてくれるとかそういう話ではなく、ガスコンロでも火をつけたらそこにカムイがいる。そういう風に考えます。
 どういうことかというと、メラメラ燃えている炎は、カムイの服、衣装。カムイそのものは霊魂、魂なので人間の目には見えないのなのですが、人間社会にいるときには人間の目に見えるように服を着てくる。その服が火のカムイであれば赤い着物で、それが炎という形で見えると考えます。そう考えていくと、「カムイ」とは、自然ということなんじゃないかと思うかもしれませんが、実は自然ではぴったりこない。人間が作った道具類、家とか船とか臼と杵とかそういったものも全部カムイです。という事は、日常触れるもの、目に見えるものありとあらゆるものがみんなカムイということになります。いま、私の目の前にあるマイク、昔の伝統的な考え方で言えば、これはどう考えてもカムイなのです。
 カムイとは、人間が作った人間の何らかの役に立っているもの。なんで役に立っているかというと、これ自身が意思を持って、考えて活動している。マイクであれば、私がしゃべった声を拡大してスピーカーに流すとか、録音機に流すとかそういう仕事をしている。なぜ仕事ができるかというと、このマイクに魂があって活動しているから、ということであらゆるものに魂があって、それが人間と同じように活動しているものと考えてるのが「カムイ」です。「カムイ」をどう日本語に訳したらいいかというと、そういうことを全部表すには、強いて言えば「環境」。人間はその身の回りをカムイにとり囲まれている、カムイの中で生活をしている、言い換えれば環境じゃないかと言うことになるわけです。
 よく言う話なんだけれども、家もカムイだけれども、床もカムイなんですね。お酒を飲んでいる。お酒をひっくり返して床にこぼれる。われわれは普通、「しまった!」と拭こうとしますね。しかし昔のおばあさんやおじいさんは「拭くな」と必ず言います。「それはお前がこぼしたのではなくて床のカムイが酒が飲みたいと思ってお前にこぼさせたんだ」というわけです。床のカムイが飲みたくてこぼれたんだから拭いてはいけない。必ずそう言います。つまり、偶然何かが起こってるんではなくて、カムイの意思で動いているんだということなんです。
 また、カムイにも良いものも悪いものもいます。良いものばかりがカムイではない。悪いカムイもいるわけですね。悪いカムイ、例えば熊だって、熊は偉いカムイなんだけど、人を襲って殺して食ったりする熊もいる。これは悪いカムイなので、ゴールデンカムイの中でも出てくるけれども、ウェンカムイっていう悪いカムイには罰を与えなければいけない。罰を与えるというのは人間がカムイに対して罰を与えることができるということです。神様って人間に罰を与えるというふうにイメージしちゃうんだけれども、アイヌの考え方では人間がカムイに対して、罰を与えることもできるし、抗議をして脅かすこともできる。そんなことばかりしていると地獄に落とすぞと。どうやって罰を与えるかというと、いろいろなやり方があって、ゴールデンカムイの中に出てくるのは、人を食べた熊は絶対に食べないし毛皮も利用しない。何故かというと、それを利用するとその熊のカムイを正式にお客さんとして迎えたことになってしまうから。そうすると魂はカムイの世界に帰っていて、再び熊の毛皮をまとってまた人間世界にやってきてしまう。そうさせないために悪いクマに対してはそうさせないように、肉は食わない、毛皮を利用しない、粉々に刻んでばらまいてしまう。なおかつそれをゴミと一緒に埋めたり、燃やしたりして、正式に向こうへ帰っていく儀式とは全然違うやり方で地獄に落とすわけ。これが最大の罰なんですね。



千葉大学文学部教授で、漫画「ゴールデンカムイ」のアイヌ語を監修されている中川裕さんにお話を伺いましたが、いかがだったでしょうか。
中川さんが新しく出された本「アイヌ文化で読み解く『ゴールデンカムイ』」(集英社新書)を10名の方にプレゼントします!このページのメッセージフォームからご応募ください。ご住所、お名前を忘れずに記入してくださいね。番組へのメッセージや感想も添えていただけるとうれしいです!


アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」著者: 中川 裕 野田 サトル(集英社新書)

来週も中川裕さんのインタビューの続きをお届けします。

【今週のオンエア曲】
・Sight Of You / Sigrid
・JUMP / ROTH BART BARON
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高橋万里恵
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