「優しいセンセイがつくる、優しい未来」〜未来の家づくり〜


広い廊下に、大きな足音。
ココは、東海大学湘南キャンパス内の、とある建物。

「"未来" の研究をしていると聞いてやって来たはいいんですが… どこの誰に話を聞いたらいいのか、皆目見当がつきませんなあ」

この大学の湘南キャンパスは、とにかく広い。
東京ドームの大きさでたとえると、およそ11個分。


そんなことを言われても全くしっくりこないと思うが、場合によっては、休み時間だけでは次の授業の教室移動に間に合わないそうで、キャンパス内は、教授が教室移動に使うミニバスがあちこちを行き交っている。

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地図も持たずに歩けば、間違いなく迷子になるはずだ。

しかし。在籍していた頃とすっかり変わってしまったところもあるとはいえ、さすがに、自分が昔、通っていたキャンパス。

林さんは、工学部の入っている建物にすんなり侵入して…



それから、迷子になっていた。




「未来の研究… どこでやっているんですかなあ」

よい子のみんなは覚えておこう。
下調べをしないでどこかに出かけると、人は、すぐに迷子になる。

「ま、テキトーに取材がてら、聞き込みでもしてみますか」

しかしこの行動力は、見習うべきである。

ゴンゴンゴン!

叩いた扉の横にある表札の文字は、工学部建築学科『高橋研究室』

「…はい?」

ドアから顔をのぞかせたのは、温和な顔をした、いかにも人のよさそうな男性。

「あ、お忙しいところ大変恐れ入ります。ワタクシ、未来の鍵を握る学校から参りました、林と申しまして…… えー、"ロック" と言っても、そのスペルはエル・オー・シー・ケーでございましてペラペラなんちゃらかんちゃら…… 今、未来に関する取材をしておりましてペラペラぺどーたらこーたら……」

「何? 取材の方? 今日、取材入ってたっけ?」

人のよさそうな男性は、あっさりこう決断した。

「…ま、いっか。どうぞ中へ」

よい子のみんなは覚えておこう。
人のよさそうな人は、本当に人がいいことが、結構多い。
(そうでないこともあるけどね!)

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「…で、センセイは、どんな未来をつくっていらっしゃるんですか?」

部屋に入れていただくやいなや、唐突な質問。
しかし、とても優しい顔をしたこのセンセイはとても優しかったので、林さんの質問の意図をとても優しく汲み取って、話し始めてくれた。

「ボクがやっているのは、言ってみれば、未来の家づくりの研究ですね」

未来の… 家。

「未来の家には、夏でも、冷房が必要なくなるんですよ」

地球の温暖化や環境破壊が取りざたされている昨今。
エアコンの使用ですら、問題になることも多い。

…なんて言われても、夏は暑い。
地球だの環境だの言われても、エアコンを使わずに汗だくで熱中症になってしまい、体調を崩してしまっては元も子もない。

それを解決するのが、この優しい顔のセンセイが行っている研究なのだ。

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「たとえば、井戸水を利用するんです。夏でも、地下の深い場所にある井戸水は冷たいでしょう? それをくみ上げて、家の中の壁の裏に這わせる。ただ、その前に室外の空気も冷やします。そうすれば、生ぬるくないヒンヤリした外気を取り込めるし、壁に結露も生じないんですよ。さらには、床下や木陰の冷たい空気を取り入れて、温かい空気は、上昇気流を利用して自然に出ていくようにする。これらをうまく組み合わせて実現させれば、夏でもエアコンなんていらなくなりますよ」

自然を力づくで押さえつけるのではなく、自然がもつ力を、最大限に引き出す。これこそが、未来の家なのだ。

「まあ、理屈で言うのは簡単なんですが、これを形にするのは結構難しくて…(苦笑) まあ、試行錯誤しながらやっております」



「ってことは、先生の研究室に入ると、実際に家を建てる現場にも行ったりするってことなんですか?」

「そうですね。建築関係の企業の方のお手伝いをさせていただいたり、いろんな住宅にお邪魔したり… ずっと研究室にこもっているという感じではないですね。あと、私はバイオトイレ () の研究などもやっておりまして… ま、私どもの学科の詳しい説明はホームページからご覧いただければ。携帯でも見られるようになっておりま… アレ?」

「どうしたんですか?」

「いや、学科のケータイサイトに、変な文字が…」

「…ん? 大丈夫ですか?」

「いや、コッチの話なんで。大丈夫です。それにしても、わざわざ取材をしていただいて、ありがとうございました」


最後まで笑顔を絶やさない、優しいセンセイ。
優しいセンセイが創る未来もまた、優しい。

彼の名は、高橋 達 (いたる) といった。

「いえ、こちらこそ、大変ためになりました。ありがとうございます!」

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林さんは、晴れやかな心で研究室を後にした。



…しかし、既に異変は始まっていた。


<続く>


すごく簡単に言えば、排せつ物を発酵させて肥料にしてしまうという究極のトイレ。
 これの実用化が進めば、トイレに使う水すらも節約できてしまう。



工学部 建築学科
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