「ミスターダンディ、そしてスパイの覚醒」 〜未来を支える素材〜


「…で、皆さんの研究は、未来にどうつながるんですかな?」

「私どもは、新しい素材の研究をしておりまして…」

「フムフム」

奇跡的に幸先のいいスタートを切ってしまった林さんは、既に次の研究室にいた。
コチラは、工学部材料科学科『葛巻研究室』

「未来に関することで言えば、たとえば『宇宙エレベーター』。これはその名の通り、地上から、宇宙空間まで続くエレベーターのことですね。実はこれ、技術的な問題で、まだ実用のメドが立っていないんですが、その技術的な問題の一つは、強い素材が見つからないことなんです。つまり、より強い素材の研究が進めば、『宇宙エレベーター』の実現にも貢献ができるという訳です」

『宇宙エレベーター』。なんてワクワクする響きだろうか。
そして、この葛巻センセイの声。…なんてダンディな響きなんだろうか。

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「…様々な素材には、一長一短があります。たとえば、すごく強いけれど、すごく重かったり。あるいは、強さと軽さを備えていても、その素材が貴重過ぎて、すごく高価だったり。みんな、そのバランスの中で苦しんでいる訳なんですけれども… 今、私が注目しているのは、髪の毛です」


「髪の毛?」


「はい。素材としての髪の毛。実はコレ、非常に優秀なんですよ」

ミスター・ダンディ、葛巻センセイのお話によると、素材としての髪の毛には、実は長い歴史があるらしい。

たとえば、京都・東本願寺の『毛綱』。これは、文字通り、人の毛で編んだ綱。その昔、大きな建物を建てる際、必要な木材を運ぶためには、非常に強い素材が必要だった。そして、当時の人々が、様々な試行錯誤を重ねた結果、たどり着いたのが髪の毛なのだという。

「とは言え、昔のように髪の毛を集めてきて素材として使う、ということではないのですよ。最先端の技術で髪の毛の強さの秘密にせまり、今ある素材で髪の毛の性質を人工的に再現した夢の新素材を開発する、そんなことを考えています。」

ちなみにこれが、髪の毛の強度を測るために使っている装置。
(※ちなみについでに言うと、黒髪よりも、白髪の強度の方が強いらしい! 意外!)

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…それにしても、理系の学部と言えば、男ばかりというイメージだったが、この研究室は違うようだ。

「じゃあ、林さんの髪の毛の強さも測ってみましょうか?」

「あ、じゃ、じゃあ、ぜひ!」

ふむふむ、いいですなあ。やっぱり、知的な女子というのも、いいですなあ…

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なんてことを考えていた、その時。

ガラガラーッ!

研究室に入ってきたのは、またしても、チーム・知的女子の一員… と、思いきや。

「突然スミマセン! この研究室に、何か異常はないですか? 研究データが盗まれたとか…」

「キミは… どちらの研究室の?」

…? 彼女も外見は "知的女子" ではあるが、この研究室の一員ではないようだ。

「詳しい訳は後で話します。ここ最近、この研究室に、何か異常はありませんでしたか?」

冗談を言っている雰囲気ではない。

「いや、大丈夫だよ。データの管理には、常に細心の注意を払っているから」

あくまで紳士的に、ダンディに答える葛巻センセイ。

「よかった…」

安堵する彼女。

「申し遅れました。私は、東海大学文学部3年次生の、小平恵里と言います。今、大学内を、怪しい人がうろついてるって話を聞いて…。それに、学科のケータイサイトにも、変な文字が…」

ケータイサイト…? そういえば、さっきも。

「さっき、『建築学科』の先生も、同じようなことをおっしゃってましたな」

「そうなんです。工学部の、各学科のケータイサイトに、変な暗号みたいなものが…。…ところで、あなたは?」

彼女と目が合った、その瞬間。

カワユス! カワユス!
林さんのカリスマセンサーは、突然、うなりをあげた。

「そういうことですか… 許せません。許せませんなあ…」


カチッ。
林さんのスイッチが、切り替わった。

「突然の、サイトの異変… 暗号… 匂います、匂いますなあ! ココは、未来を創る学校ですからな。ココからデータを奪おうとする、悪いヤツらもいるんでしょう… そういうことなら、私も加勢するとしましょうかな… はぁ、これはもう、使うまいと思っていたのですが…」

林さんは、おもむろに胸から『H&K USP』を抜き出した。

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「あっ、あなたは…?」

「私ですか…?」

完全なるドヤ顔。そして。

「未来の鍵を握る学校からやってきた、カリスマセールスマン… いや、カリスマ・スパイ、林と申します」


<続く>


工学部 材料科学科
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