yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

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第454話 周りのひとを幸せにする
-【福井にまつわるレジェンド篇】慈善活動家 林歌子-

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福井県出身の、児童福祉の先駆者がいます。 林歌子(はやし・うたこ)。 明治時代から、大正、昭和と、社会事業活動に生涯を捧げた歌子の功績は、大きく3つあります。 ひとつは、アルコール依存症で悩むひとのための禁酒に関する活動。 2つ目は、女性の人権尊重のもとに遊郭廃止を訴え続けたこと。 そして3つ目が、孤児院を設立し、恵まれない子どもたちの生活や心のケアのために尽力したこと。 当時は、男性の慈善活動でさえ、思うように世間に受け入れられなかった時代。 女性の歌子に至っては、疎んじられるどころか、狂人というレッテルを貼られ、ひどい仕打ちを受けたのです。 それでも、歌子は、活動を止めませんでした。 稼いだ金、集めた寄付金は、惜しげもなく、全部、困っているひとのため、慈善活動のために差し出したのです。 彼女は、特別、強く、清い心を持ったひとだったのでしょうか。 評論家・小林秀雄の妹で劇作家の、高見澤潤子(たかみざわ・じゅんこ)は、小説『林歌子の生涯 涙とともに蒔くものは』の中で、歌子も、迷い、惑い、葛藤を繰り返す、ひとりの人間に過ぎなかったことを描いています。 さらに、小橋勝之助(こばし・かつのすけ)、小橋実之助(こばし・じつのすけ)という兄弟との出会いがなければ、歌子の偉業はなかったかもしれません。 大阪にある彼女の墓石には、こんな言葉が刻まれています。 「暁の ねざめ静かに祈るなり おのがなすべき 今日のつとめを」 歌子にとって、なすべきつとめとは「周りのひとを幸せにすること」でした。 なぜ、彼女はそう考えるようになったのでしょうか。 幾多の試練を乗り越えたレジェンド・林歌子が人生でつかんだ、明日へのyes!とは? 日本の女性慈善活動家の草分け、林歌子は、1865年1月11日、越前国大野郡、現在の福井県大野市で生まれた。 父は藩に仕える下級武士。 向学心に燃え、いずれ長崎に留学したいと勉学に励んでいた。 しかし、歌子が生まれて3年後。 大きな出来事が二つ起きた。 ひとつは、明治維新。 藩士は全ての権利を奪われ、父はわずかな貯金で金融業を始める。 そして、もうひとつの出来事が、妻、すなわち歌子の母の死。 長崎への留学どころか、日々の暮らしや子育ての重圧が、一気に父を追いつめる。 父は、自らの夢を諦めると同時に、その思いを、歌子に託すことにした。 歌子は、物心ついたときから、優秀だった。 それを悟った父は、一日中、読み書き、そろばんを教えた。 近所の友だちと遊ぶことはない。 ひたすら家にこもり、勉強、勉強。 4歳のときには、『論語』を精読し、暗記していた。 歌子は、母のいない寂しさを埋めるかのように、孔子の教えに没入していく。 孔子の「忠恕(ちゅうじょ)」という考え方が彼女にしみこむ。 「忠」は、偽らざる心。「恕」は、他人を思いやる心。 のちにキリスト教の洗礼を受ける歌子が、このとき、儒学の教えに学んだことは、一生を左右する大切な出会いだった。 林歌子は、幼くして、勉学の楽しさを知った。 一方で、他の子どもたちと遊ぶことのない孤独も感じていた。 父が、再婚。 継母は、歌子に、掃除や服の繕いを命じる。 歌子は、嫌ではなかった。 むしろ、他の女の子たちと同じようなことができて、うれしかった。 喜々として、廊下の雑巾がけをしているときだった。 それを見た父は、烈火のごとく、継母を叱責した。 「何をさせているんだ! 歌子に、他の女の子がやるようなことをやらせるな! 歌子は、勉強だ! 勉強だけしていればいいんだ!」 自分のせいで、継母が怒られる。 申し訳なくて、顔が真っ赤になった。 ただ、雑巾がけが楽しい、やらせてほしいとは、言えなかった。 他の子と一緒でいたい、でも、父を喜ばす特別な自分でいたい、二つの思いで歌子は揺れた。 父の考え方はこうだった。 「女子に学問がいらぬなどと言う輩がいるが、とんでもない。 子どもを教育するのは、母だ。母に学問がない国は、滅びる!」 先鋭的なようで、保守的。 さらに自分の夢をひたすら娘に託す。 12歳で福井県立女子師範学校に入学した歌子に、父を喜ばす最大の機会が訪れた。 明治天皇の北陸巡幸。 それに合わせて教育振興のため、学校に政府の重鎮・大隈重信がやってくることになった。 大隈重信の前で、講義をする生徒が二人選ばれる。 そのひとりが、林歌子だった。 林歌子は、明治時代の歴史書の大ベストセラー『日本外史』について、講義した。 緊張はしたが、その場に立てた自分が誇らしかった。 客席に、涙ぐみながら聞く、父の姿が見えた。 講義が終わると、拍手が起きた。 大隈重信は、壇上に立ち、歌子の講義をこう評した。 「栴檀(せんだん)は、双葉より芳し、ですな。 林歌子さんは、立派な女性になるでしょう」 栴檀とは、白檀(びゃくだん)のこと。 白檀は、まだ双葉の頃から、かぐわしい香りを放つので、賢人は幼き時よりその片鱗を感じる、という例えに使われる。 父が喜ぶ姿を見て、歌子は思った。 「そうか、私はどうやら、身近な周りのひとが喜んだり、嬉しそうな顔をしているのが好きなんだ。 自分の幸せは、自分だけではつくれない。 周りが幸せでないと、私はちっとも幸せではないんだ」 それは、師範学校を出て、小学校の教師になったときも同じだった。 目の前の子どもたちが嬉しそうな顔をしていないと、毎日が楽しくなかった。 恵まれない子どもたちのために孤児院をつくりたいという、小橋兄弟に出会ったときも、高邁な思想より、まず、目の前にいる兄弟の役に立ちたいと願った。 林歌子は知っていた。 壮大な思想も、抽象的な理想も、ひとを動かさない。 大切なのは、目の前のひとを幸せにするために、行動すること。 【ON AIR LIST】 ◆星の流れに / ちあきなおみ ◆BELIEVE IN HUMANITY / Carole King ◆WHAT ABOUT THE CHILDREN / Gary Clark Jr. & Stevie Wonder
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RECIPE

レシピ

霜降りひらたけと里いもの煮物

今回は、林歌子の生まれ故郷、福井県大野市の特産である、里いもを使った料理をご紹介します。

材料 (2人分)
  • 霜降りひらたけ 1パック
  • 里いも 3個
  • 万能ねぎ 3本
  • 【A】水 200ml
  • 【A】しょう油 大さじ1・1/2
  • 【A】みりん 大さじ1・1/2
  • 片栗粉 大さじ1
写真 カロリー / 104kcal(1人分)
調理時間 / 20分
使用したきのこ / 霜降りひらたけ
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。里芋は皮をむき、下茹でする。ねぎは小口切りにする。
  • 2.
  • (1)の里芋に片栗粉をつけ、フライパンに多めの油を入れ、さっと揚げ焼きする。
  • 3.
  • 鍋に【A】と霜降りひらたけを入れ、中火にかけ、(2)を加えて10分ほど煮る。
  • 4.
  • 仕上げにねぎを散らす。

yesとは?

番組概要

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』今週あなたは、自分を褒めてあげましたか? 古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。あなたの「yes!」のために。

語り:長塚圭史 脚本:北阪 昌人 ▸ Profile

放送時間
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
  • TOKYO FM…SAT 18:00-18:30
  • FM大阪…SAT 18:30-19:00
  • FM長野…SAT 18:30-19:00
  • FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
長塚 圭史

PROFILE

長塚 圭史
語り: 長塚 圭史
1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。 また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。
北阪 昌人
脚本: 北阪 昌人
1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。 TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。 『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。 主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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