23.07.25
中国の税関当局が、日本からの輸入水産物に対する、放射線検査を始めた問題

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日はダイヤモンド・オンライン編集委員の神庭亮介さんにお話を伺いました。
神庭さんが注目した話題はこちらです。
「中国の税関当局が、日本からの輸入水産物に対する、放射線検査を始めた問題」
吉田:中国の税関当局が、日本からの輸入水産物に対する全面的な放射線検査を始めた問題で、現地の日系5社が輸入した鮮魚などの水産物が中国南部の税関で留め置かれたことがわかりました。鮮度が保持できず、1億円の被害が出る恐れがあるということです。神庭さん、2週間前に福島第一原発の処理水について解説していただきましたが、今回のニュースの背景を理解するために、経緯を改めて教えて下さい。
神庭さん:福島第一原発の敷地内には1000以上の巨大なタンクが置かれていて、処理水を貯蔵しているのですが、来年には満杯になるとみられていて、政府は今年の8月にも放出することを目指しています。この処理水は原発事故などで出た「汚染水」とは別物で、トリチウム以外の放射性物質を規制値以下になるように除去しています。国際原子力機関(IAEA)は日本の処理水放出について「国際的な安全基準に合致する」「環境への影響は無視できる程度」という報告書を取りまとめ、トリチウムについても「国境を越えた影響は全く心配がない」と発信しています。
ユージ:それがどうして、今回の対応につながったのですか?
神庭さん:多くの国が福島産の食品輸入規制を解除して、EUもつい最近、輸入規制の完全撤廃を表明しました。そんななかにあっても、中国と韓国は頑なに福島や東北、関東などの水産物に対して、輸入停止をかけてきました。中韓の間でも多少の温度差があって、韓国は最大野党の「共に民主党」が反対キャンペーンを展開しているものの、比較的「親日的」とされているユン・ソンニョル大統領はIAEAの報告書を尊重する考えを示しています。一方、中国はIAEAの報告書が専門家の意見を十分に反映していないと疑問を呈していて、「日本は太平洋を下水道扱いしている」と強い言葉で批判しています。そういった伏線があって今回、これまで輸入停止としていた10都県以外のエリアの水産物に関しても放射性物質の全面検査という形で輸入規制の強化に踏み切ったということです。
吉田:鮮度が落ちて1億円の被害とされています。かなりの損害です。今後さらに被害が広がる可能性はあるのでしょうか?
神庭さん:日本にとって中国は水産物の輸出相手国として最大です。現地は、日本食ブームもあり、輸出額は年871億円にもなります。問題が長期化した場合、影響は非常に大きいです。朝日新聞などによれば、日本の水産物への検査はこれまで一部の抜き取り検査だったのですが、今月上旬から全量検査に切り替えられました。検査のために、冷蔵品で2週間、冷凍品で1ヶ月ほど税関に留め置かれる見通しだそうです。水産物は鮮度が命ですから、冷凍はともかく冷蔵品を長期間留め置くということは実質的な禁輸措置に等しいです。また、共同通信によると、中国には日本の水産物を輸入する拠点がいくつかあって、今回の「1億円」はあくまでも一部に過ぎません。今後ほかの拠点でも同様に対応が取られるようになれば、損害額はさらに膨らみかねません。中国内では日本産の鮮魚が手に入らなくなってきていて、すでに他国産のものに切り替える飲食店も出てきているそうです。
ユージ:これは困った状況だなと思うのですが、日本側はどう対応すべきでしょうか?
神庭さん:前にも説明したとおり、中国の原発からもトリチウムは排出されています。外務省によれば、秦山第三原発は約143兆ベクレル、陽江原発は約112兆ベクレル、寧徳原発は約102兆ベクレル、紅沿河原発からは約90兆ベクレルのトリチウムが液体として排出されています。これに対して、福島第一原発から放出が予定されているのは約22兆ベクレルなので、量だけで言ったら、中国の方がずっと多いわけです。こういったデータ、実情をもとに徹底的に反論・反証していくことが必要かなと思います。
ユージ:数字だけを冷静に見ていただければ、理解するのですが、科学とは別のところで、中国政府は理解してくれないのではないかなと。事態は改善されますかね?
神庭さん:こういう話になると、「日本の説明不足が問題だ」「近隣諸国に理解してもらえるように、丁寧に説明を尽くしましょう」みたいな声が出てくるのですが、ちょっとズレてるかなと思っています。僕は逆に中国を馬鹿にした、侮った意見だと思います。中国は、科学やエビデンスを理解できないような低レベルの国ではありません。それどころか、全てを理解したうえで力ずくで「無理が通れば道理が引っ込む」をやろうとしているわけです。科学的根拠に欠けていることも、自己矛盾も全部百も承知です。そのうえで、自国のパワーを最大化し、日本の力を削ぐためのカードとして処理水問題を「活用」しようとしています。だからこそ、非常に厄介です。
吉田:そういった前提を理解したうえで、日本政府がとるべき選択肢は何でしょうか?
神庭さん:日本が「説明」すべきは中国ではなく、中国「以外」の国際社会かなと思います。科学的な根拠がないのに、こんな無理筋なことをやっていますよ、と世界貿易機関(WTO)に訴えるべきだと思います。中国はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に加入申請していますが、TPPは自由貿易の協定です。今回の輸入規制のように自由貿易に反する振る舞いをしている国は到底加入を認められないよね、という国際世論を形成していくことも選択肢だと思います。経済安全保障、食料安全保障は、お互いの首根っこの掴み合いという側面があります。中国は処理水問題で「掴んでやったぞ」と思っているのかもしれませんが、それに対して日本側も別の部分で中国側の弱みを握っていくぐらいの強さを持って動いて欲しいです。経済紛争をエスカレートさせるためではなく、むしろ抑止するためにこそ、戦略が求められているのではないかなと思います。
そして、今日の #ユジコメ はこちら。
#リポビタンD TREND NET #ユジコメ①
— TOKYOFM/JFN『ONE MORNING』 (@ONEMORNING_1) July 25, 2023
『中国の税関当局が、日本からの輸入水産物に対する放射線検査を始めた問題』…
#ユジコメ②
— TOKYOFM/JFN『ONE MORNING』 (@ONEMORNING_1) July 25, 2023
日本は中国に対してこのようなデータを見せることで反論することも大事なのですが、中国はそれ以外のことで言いがかりをつけかねません。#ワンモ
#ユジコメ③
— TOKYOFM/JFN『ONE MORNING』 (@ONEMORNING_1) July 25, 2023
もう一つ心配しているのは、今中国では日本食が人気だそうですが、日本の魚が輸入されなくなることによって日本食のクオリティをどこまで保てるのかということです。せっかく人気なのであれば、ここは友好的にお互いにとってメリットになるような取引になってほしいです。#ワンモ
#ユジコメ④
— TOKYOFM/JFN『ONE MORNING』 (@ONEMORNING_1) July 25, 2023
いずれにせよ、日本にとって中国は最も大きな輸出額を誇るわけなので、ここが途絶えてしまうのはとても残念なことです。早く戻ってほしいというのが僕の願いです。#ワンモ