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23.02.28

中小企業の賃上げについて
nullネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。今日は「BuzzFeed Japan」編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。神庭さんが注目した話題はこちらです。


【中小企業の賃上げについて】

吉田:経団連の十倉雅和会長は26日、自民党大会で来賓として挨拶し、春闘で賃上げに協力する意向を表明しました。神庭さん、これまでにどんな企業が賃上げを表明しているのでしょうか?


神庭さん:まず自動車業界ですが、トヨタは今年の春闘の第1回労使協議で、組合の賃上げ要求に満額回答しました。満額回答は3年連続。では組合はどんな要求をしていたかというと、職種や階級によって15パターンの賃上げを求めており、一番高いケースでは月9370円。さらにボーナスは月給の6.7ヶ月分を要求。過去20年でも最高の水準だったということです。これに満額回答で応えたのは立派だと思います。読売新聞によれば、佐藤恒治次期社長は「自動車産業全体への分配を促す先頭に立つ」という思いで、スピード決着を図ったそうです。2番手のホンダも満額回答。定期昇給分も加えると、総額1万9000円。賃上げ率は5%ほどになるということですから、自動車産業は非常に裾野が広いので影響が大きいのではないかなと思います。


ユージ:かなり頑張っていると言っていいんじゃないかなと思うんですが、自動車業界以外はどうでしょうか?


神庭さん:銀行業界も賃上げラッシュになりそうです。読売新聞によれば、みずほ銀行は来年2024年の春から新卒社員の初任給を一気に5万5000円も引き上げ、26万円とする方針。三菱UFJ銀行も同じくらい引き上げる方針で、三井住友銀行は1年早い今年の春から25万5000円にアップさせる方向だということです。メガバンク3行の初任給は2011年以降は20万5000円だったそうなので、実現すれば十数年ぶりの大幅な待遇改善となります。近年、人材流出も懸念されるなかで、優秀な若手を引き寄せ、つなぎとめたい狙いもあるのではないでしょうか。


吉田:小売業界の賃上げの状況はどうでしょうか?


神庭さん:ユニクロを運営するファーストリテイリングは3月から国内の従業員の年収を最大で4割引き上げると発表して度肝を抜きました。初任給を25万5000円から30万円に、新人店長も29万円から39万円にアップさせるということです。もともとファストリの年収は平均959万円とかなり高水準ですが、海外の従業員に比べるとまだ低いので大幅に引き上げるということなんです。


ユージ:これは確かに度肝を抜きますね。


神庭さん:イオンがパート従業員の賃金を平均7%引き上げるというニュースも大きな話題を呼びました。7%という数字はインフレ率の4%、組合が求める5%も上回っていて、非常に大きなインパクトがあります。しかも日経新聞によると、国内のスーパーやドラッグストアで働く40万人が対象ということです。イオンのように大胆な賃上げに取り組む企業が増えると、国の経済全体にもプラスの影響が出てきます。日経MJが紹介している伊藤忠総研の中浜萌副主任研究員の試算によれば、国内のパート全体の時給がイオンと同じく7%上がった場合、国内消費は6720億円増えるということです。


吉田:一方、数としては一番多い、中小企業はどうなのでしょうか?


神庭さん:共同通信が報じた城南信用金庫のアンケートによると、中小企業738社のうち72.8%が「賃上げの予定はない」と答えています。仕入れコストが増えて収益が悪化するなかで、賃上げに踏み切る余力のない中小企業は少なくないんですよね。東京商工リサーチのアンケート調査でも、大企業の85.5%が賃上げを実施予定なのに対し、中小企業は5.5%低い80%にとどまっています。賃上げできない中小企業の半分以上が「十分に価格転嫁できていない」「原材料価格の高騰」といった理由を挙げています。賃上げどころじゃないよ、という企業も多いようです。


ユージ:実は多くの企業がそうかもしれないですね。今後の課題は何でしょうか?


神庭さん:日本企業の99.7%が中小企業ですから、大企業だけではなくて下請けや取引先の企業も含めて賃上げの果実を行き渡らせていかないと意味がないんですよね。自社は給料上げます。でも取引先の値上げは認めません!だとダブスタですから、そうならないように、国がしっかり見張っていくことも大切です。不当な買いたたきは下請法で禁止されていますし、「下請かけこみ寺」という無料相談の仕組みもあるので、中小企業で困っている方は検討してみてほしいと思います。もう一つが社会保障や税制の問題も大事なんです。


ユージ:どういうことでしょうか?


神庭さん:先ほどのイオンのパート従業員の例だと、時給ベースで平均70円、年収で約8万円の賃上げになるとみられていますが、年収が増えることで「130万円の壁」にぶつかる恐れが出てくるんです。去年も解説しましたが、130万円の壁というのは、パートナーの扶養から外れ、社会保険に加入して保険料を払わないといけなくなる「壁」のことです。せっかく時給を上げても、壁にぶつかるのを避けるためにシフトを減らそうという、働き控えの動きが広がる可能性があります。そうするとまた別途、人を雇わないといけなくなり、ますます人手不足に陥ってしまうということなんですよね。130万円以外にも、103万円、106万円、150万円と様々な壁があり、勤労意欲を阻害しているんです。岸田総理は国会で130万円の壁について質問を受け、「幅広く対応策を検討していきたい」と答弁しました。賃上げとあわせて、「働き損」を生まない、公平で合理的なシステムが必要ではないかなと思います。


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