26.08.31
消費減税で得する人、損する人

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターはダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!
【消費減税で得する人、損する人】
吉田:来年4月の食料品の消費税の減税を前に、政府が客離れが予想される外食産業や、減収になる農家への支援を検討しています。そこで今朝は、神庭さんに消費減税で得する人・損する人について解説してもらいます。まずは、消費減税で得するのはどんな人なのか教えてください。
神庭さん:消費者全般として「得だ」と感じる人が多いと思います。政府は2027年4月から2年間、食料品消費税を現在の8%から1%へ引き下げる方針です。あわせて中低所得者向けに現金給付をすることで、残りの1%分についても実質ゼロにすることを考えています。スーパーやコンビニの商品価格が税率と同じだけ安くなるとは限らないですが、少なくとも今より値段は下がりそうです。家計の消費に占める飲食費の割合を示すエンゲル係数は昨年度、28.8%で45年ぶりの高水準となりました。家計の3割を食費に持っていかれています。エンゲル係数は一般的に低所得世帯ほど高くなるので、中低所得世帯ほど負担軽減の効果を実感しやすいと思います。
ユージ:他には、何かありますか?
神庭さん:税率変更にともなって、レジやPOSシステムの事業者、会計ソフトや税務システムの会社なんかは特需で潤うかもしれないです。その分、システム改修の負担も増えて、ものすごく忙しくなると思います。
吉田:では、損する人はどんな人でしょうか?
神庭さん:1つは外食産業です。現状だとレストランなどでの飲食は消費税率10%で、お弁当や持ち帰りは8%。2%の差です。来春から外食は10%のまま、お弁当やテイクアウト1%に下がるので差が9%に広がります。お客は当然、割安な方に流れます。相対的に安いお弁当や調理済みの食品を買ってくる「中食」の需要が伸びるので、外食は割を食う形になります。日経新聞によると、政府は外食産業に対して、テイクアウト導入の後押しやセルフレジ設置といった支援を準備しているそうです。
ユージ:農家も収入が減るんですよね。
神庭さん:そうなんです。特に小規模農家になるのですが、読売新聞によると、農家の8割は売上高1,000万円以下で消費税を納めなくていい免税事業者です。従来であれば、農作物を売った時に受け取った消費税が手元に残っていたが、消費税率が下がるとそのお金が減るということです。農産物の税率が1%に下がる一方、肥料や農薬、農機具、燃料の仕入れには10%の税率がかかるので、免税事業者の農家では実質的な収入が減ってしまいます。日経が紹介した三菱総合研究所の稲垣公雄研究理事の試算によれば農産品の年間売上高を10兆円と仮定すると、食料品消費税がゼロになった場合、農家への負担は3,840億円にのぼるそうです。実際には税率はゼロではなく1%に落ち着いたので負担はこれより小さくなりますが、それでも数千億円規模にのぼる可能性があります。
ユージ:農家の皆さん、大変ですね。
神庭さん:そこで政府は中小規模の農家に対して、給付金を払う方向で検討しています。売上高に応じて、減収分を穴埋める形を想定しているそうです。一応補足しておくと、消費減税をめぐる農家の負担については「今まで得をしていた分がなくなるだけで、別に損しているわけじゃない。必要なら免税事業者ではなくて課税事業者になればいいじゃないか」という考え方もあります。ただ、小規模農家が課税業者に転換する場合の事務負担は重いです。2年で戻すとなると尚のこと無駄なので、政府としても給付金でカタをつけようと考えたのかもしれないです。
吉田:損する人が出てくるのは、しょうがないのでしょうか?
神庭さん:そうですね。「食料品の税率だけを下げる」という選択肢をとった結果、税制に歪みが生じ、外食や農家など特定の産業にしわ寄せがいくことになりました。副作用に手当てするため、泥縄式に補助金だなんだという話が出てきています。「だったら全部の商品、一律で下げればいいじゃん」は一面ではその通りですが、そうすると桁違いの税収が吹き飛びます。食料品の減税だけで年間5兆円が必要になります。代わりの財源をどうするんだと四苦八苦しているなかで、一律減税は現実的に難しいと思います。
ユージ:今回の消費減税、トータルで考えた場合、神庭さん的にはどう考えていますか?
神庭さん:消費減税で一見多くの人が得をするようで、副作用や将来へのツケまで考えると、巡り巡って多くの人が損をするシナリオも考えられます。まず、インフレ下での減税は景気をふかす。結果としてさらに物価高が加速し、減税分を帳消しにしてしまう可能性があります。もう1つは円安懸念です。日米協調介入の効果も虚しく、円安が止まらず1ドル160円台まで下がってきています。財政への不安からさらに円安が進めば、物価上昇で減税が水の泡になってしまいます。日本売りによる金利上昇も大きなリスクです。住宅ローンを抱える現役世代は生活費が圧迫されますし、住宅購入を考えていた人も及び腰になります。先週お話ししたように、賃貸も金利上昇を受けて家賃が上がる可能性があります。いろんなバタフライエフェクトが起こる可能性があるので、メリット、デメリットをよく考えて打ち手を考えていただきたいと思います。