yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

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第452話 挑戦をやめない
-【今年メモリアルなレジェンド篇】画家 エドヴァルド・ムンク-

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©Greg Balfour Evans/Alamy/amanaimages 今年、没後80年を迎える、世紀末の画家がいます。 エドヴァルド・ムンク。 名画『叫び』で世界的に有名な、ノルウェー出身のムンクは、幼い頃から身内の死を経験し、内省的で孤独。 内にこもるような印象がありますが、実は類まれなる、挑戦のひとでもありました。 それは、『叫び』を画く一年前、1892年11月の出来事。 ムンクは、ドイツ・ベルリン芸術協会から、「個展を開きませんか」という招待を受けました。 パリで学んだ印象派の呪縛に苦しみ、自分の画風を模索していた29歳のムンクにとって、それは新しい作品に挑戦する最高のチャンスでした。 文字通り、寝食を忘れ、制作に没頭。 油彩55点を画き上げ、ベルリンに乗り込んだのです。 のちに「愛のシリーズ」と呼ばれる、『窓辺の接吻』や『愛と痛み』などの作品群は、人間の内面を真摯に描き切った自信作でした。 しかし、世紀末の暗さや、抽象的で難解な作風は、保守的なベルリンの批評家たちには理解されず、皇帝ウィルヘルムもこれらを認めず、新聞記者たちは、ムンクを「芸術を毒殺するもの」と揶揄したのです。 展覧会は、わずか一週間で打ち切り。 前代未聞の事件は、「ムンク・スキャンダル」として、世界中のマスコミが取り上げました。 まわりの心無い言葉に、人一倍繊細なムンクは、ひどく傷つきましたが、画くことを諦めたりしませんでした。 それどころか、翌年、最高傑作『叫び』を世に送り出すのです。 彼は、誹謗中傷の嵐の中、自分が描くべき主題を見つけました。 それは、『愛』。 暗く、病んだような画風に思えますが、彼が最も描きたかったのは、愛、そして表層的ではない人間の強さ、だったのです。 誰に何を言われても、一つの作品を何度も書き直し、自分が信じた道を突き進んだレジェンド、エドヴァルド・ムンクが人生でつかんだ、明日へのyes!とは? ©Impaint /Alamy/amanaimages 画家・エドヴァルド・ムンクは、1863年12月12日、ノルウェーに生まれた。 父は陸軍の外科医。 厳格で信心深く、貧しいひとからお金を受け取らなかった。 そのため、家計はいつも苦しかった。 父は常に病に挑み、死に抗っていた。 病弱だったムンクは、毎日、手術を患者に施す父の背後に、死神を見ていた。 いつか、自分にもお迎えがやってくる、その恐怖はじわじわと彼を追い詰める。 しかし、死神は彼を連れ去るより前に、まず母を選んだ。 ムンクが5歳のとき、母が結核で亡くなる。 14歳のときには、姉がやはり結核でこの世を去った。 ムンクは、リュウマチ、気管支炎、さらに心も病み、夜中には眠るのが怖くて家中を徘徊した。 ひとたび目を閉じれば、二度と開くことができないような気がした。 家族で最も弱い自分が残され、大切なひとが先に逝ってしまう。 のちに彼は、こう語った。 「なぜ、自分は他のひとと違うのか。なぜ、自分がこの世に生を受けたのか。 それが苦しく、哀しい。 でも、まさしくその思いこそが、私の芸術の根っこにある」 エドヴァルド・ムンクの父は、ほんとうは、医者ではなく、牧師か詩人になりたかった。 診察を終えたあとは、決まって長椅子に腰かけ、本を読んだ。 そんな父の姿を見ながら、幼いムンクは絵を画いた。 ときどき父は読み聞かせをしてくれたが、ドストエフスキーの小説だったので、子どもには難しすぎた。 大人になってから、父の無念さを思う。 医者でありながら、愛する妻や娘を助けられなかった気持ち。 言葉の少ない父の横顔は、いつも厳しく、ただ、怖かった。 ムンクは、16歳のとき、工業専門学校に通う。 しかし、病気がちで満足に学校に通えない。 仕方なく、自主退学。 自分がこの世に必要とされていない存在だと思い知る。 結核を発症。 白いハンカチは、血に染まった。 そんなに長く生きられないとしたら、何をしたいか。 絵が画きたい。 そう思ったムンクは父に頼み、夜間の画学校に通わせてもらう。 楽しかった。 絵を画く時間だけが、世界とつながることができた。 17歳の春。彼は心に誓う。 「ボクは、画家になろう。画家になって、たったひとりでいい。誰かを幸せにしよう」 エドヴァルド・ムンクは、22歳の時、奨学金を得て、パリに行った。 自分の絵をさらなる高みに押し上げたい。 ルーブル美術館で、夢中になって模写した。 さまざまなサロンをめぐり、いろんな絵を見る。 当時のパリは、モネ、ルノワール、シスレーなどの印象派が時代を席巻していた。 自然をありのままに、光や風景をいかに再現するかが最大のテーマだった。 しかし、ムンクは違和感を覚える。 「もっと人間を描かないでどうする? 魂を感じる絵こそ、自分は画きたい!」 一年かけて、若くして亡くなった姉の死に向き合う。 そうしてできた作品『病める子』。 ベッドにいる娘とその娘の手をとりうなだれる母。 暗い病室。深い緑。 キャンバスには、ナイフで切り裂いたような跡が残る。 自信を持って展覧会に出品するが、酷評される。 「失敗作!」「未完成!」「ひどい作品!!」 でも、ムンクは気にも留めなかった。 この絵が画けたことで、一歩先に進めたような気がした。 「大切なのは、内面なんだ。人間の奥底に流れる感情なんだ。 ボクは、一生をかけて、それを画いていこう」 そう、確信した。 ひとと違うことをすれば、必ずひとは足をひっぱる。 でも、自分の中にブレない信念さえあれば、前に進めるはずだ。 ©IanDagnall Computing/Alamy/amanaimages 「常に、ギリギリの人生。 その渦中にあって、ジタバタとしている私。 どんなに険しい道が辛くても、私は、その崖っぷちの道へと引き返す。 時には足を踏み外してしまおうかと思ったり、歩くのをやめてしまおうかと思っても、気がつくと、最も危険な道に引き返している。 なぜかと聞かれれば、こう答えるしかない。 それが、私の道だから」 エドヴァルド・ムンク 【ON AIR LIST】 ◆接吻 Kiss / オリジナル・ラヴ ◆SKIES OF SONG (Norwegian Version) / Ludvig Forssell, Hannah Storm ◆MIDNIGHT SUN / Sarah Vaughan
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RECIPE

レシピ

霜降りひらたけと白身魚のホイル蒸し

今回は、春を告げる魚と言われている、鰆(サワラ)を使った料理をご紹介します。

材料 (2人分)
  • 霜降りひらたけ 1パック
  • 鰆 2切れ
  • 玉ねぎ 1/4個
  • スライスレモン 2枚
  • バター 20g
  • 塩こしょう 少々
写真 カロリー / 216kcal(1人分)
調理時間 / 20分
使用したきのこ / 霜降りひらたけ
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけを小房にほぐし、鰆は一口大に、玉ねぎはスライスする。
  • 2.
  • アルミホイルに玉ねぎをしき、その上に鰆、霜降りひらたけをのせる。
  • 3.
  • (2)にバターをのせ、塩こしょうをし、アルミホイルの口をしっかりと閉じ、お湯を張った深めのフライパンに入れ、フタをして、強火で15分ほど蒸す。
  • 4.
  • フライパンから取り出し、スライスレモンを添える。

yesとは?

番組概要

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』今週あなたは、自分を褒めてあげましたか? 古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。あなたの「yes!」のために。

語り:長塚圭史 脚本:北阪 昌人 ▸ Profile

放送時間
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
  • TOKYO FM…SAT 18:00-18:30
  • FM大阪…SAT 18:30-19:00
  • FM長野…SAT 18:30-19:00
  • FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
長塚 圭史

PROFILE

長塚 圭史
語り: 長塚 圭史
1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。 また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。
北阪 昌人
脚本: 北阪 昌人
1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。 TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。 『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。 主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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