井原正巳さんは、1967年、滋賀県出身。
高校時代まではフォワードの経験を持ち、筑波大学進学後にディフェンダーにポジションを転向。
大学2年生の時から日本代表チームに招集され、国際Aマッチは122試合に出場。
2002年に現役引退後は、北京オリンピック日本代表チームのコーチや、福岡、柏で監督を歴任。
Jリーグ通算297試合5得点をあげていらっしゃいます。
──井原さんは現役を引退されてから20年以上経っていらっしゃいますが、そんな中、三浦知良選手はいまだに現役でプレーされている。これは驚きなんですけれども、井原さんの目にはどう映っていますか?
驚きというよりも、もう考えられないですよね。危ないですよ(笑)。この歳で、現役で…僕らはちょっと走っただけでも息が上がりますし、心臓は大丈夫かなと思いますから(笑)。そういう中でまだ現役にこだわってプレーされているというのは、もう(現役でプレー)できること自体が神みたいなものですね。
──ただ、Jリーグを代表する、日本のサッカーを代表するカズ選手でしたけれども、フランスのワールドカップ直前に、最終的なメンバー選考で3人が代表から外れるという中に、カズさんが入ってしまった。日本でも大きな驚きだったんですけれども、“誰が外れそうか”みたいな予感は、チーム内ではあったんですか?
全くなかったですね。だから僕も誰が外れるかは全くわからない中で、カズさんは一緒にずっとやってきた仲でしたし、北澤もそうですし、“その2人が外れることにはならないだろう”というような思いもあったんです。だから、それを聞いた時はちょっと唖然としましたし、部屋で中山と「どうする?」みたいな話をしたりしました。
──やっぱりチームには動揺みたいなものがあったんですか?
あったと思います。少なからず僕には(笑)。でも、僕はキャプテンでもありましたし、チームをまとめる役割でもあったので、3人メンバーが外れたけれど(別の)誰か3人は残ったわけで、ワールドカップまであと10日間しかなかったので、そのメンバーでアルゼンチン戦に向かわなければいけないし、それを示さなきゃいけない。動揺はありましたけど、とにかく本大会に向けて、という思いで行くしかなかったです。
──そして井原さんは、指導者としては、北京オリンピックの時には、スペインやドイツへ出向き欧州トップレベルの戦術を学んできた反町康治さんのもとでコーチ業をスタート。そして柏レイソルではネルシーニョ監督のもとでヘッドコーチなどを務めておられました。 井原さんが監督としてチームを作る時に第一に考えていたことは何でしたか?
やっぱり、自分が持ったチームの選手でどういう戦術を取っていった方がいいのか、ということはまず考えますね。
──選手主体で、“こういう選手がいるから攻撃に重きを置こう”とか、“守備に重きを置こう”みたいな?
はい。あとは、“チームの立ち位置”といいますか、現在チームがどういう状況なのかなどによって“今どういう戦い方をするのが一番いいのか”ということを考えながらやる感じですね。
もちろん、自分の理想とか、“こういうチームにしたい”というものはあるんですが、それを作るためにはすごい時間がかかるとか、そこまで何年も猶予期間があるのかとか…。
──結果を出していかないといけない部分もありますもんね。
そうですね。だから、“そういうところを自分には求められている”と。勝たないと、結局その理想を追いかけている間にクビになっちゃう可能性があるので。監督になったら、あとはクビしかないので(笑)。
──“あとはクビしかない”ってけっこうショッキングですね。
そうなんですよ。監督に一度なってしまうと、もう次はチームを離れるしかないので。
──野球ではドラフト会議がすごく有名ですけれども、サッカーの場合は、高校生やユースの選手を獲得する時は、お互い自由に交渉できるものなんですか?
はい。サッカーはドラフトがない代わりに、自由に好きなチームに行けるんです。ただ、契約の形態がいろいろありまして、(1年目の)最高年俸が決まっていて、「1年目はこれだけしかもらえませんよ、でも、どのチームでも自分の好きなところに行けますよ」というルールが数年続いているんですが、それだと海外に選手が持って行かれてしまう時代になってきたので。
──高校を卒業したらいきなり海外のチームに入る選手が出てきましたもんね。
はい。なぜかというと、海外だといきなり(年棒)何千万というプロ契約を結べてしまう。そういう時代なんですよね。
──年俸制限を撤廃しないと海外のチームには勝てなくなってくるということですか?
それで海外に(良い選手が)持っていかれるケースが増えてきちゃうと、やっぱり日本のJリーグとしてはもったいないじゃないですか。なので、そういう移籍のルールや最高年俸の制限などの契約形態も変えていかなければというところで、今、いろいろやっている段階らしいです。どういう風に決まるかはわからないんですが、その辺も抱えながら、というところですね。
──日本代表のディフェンダーで、イングランドの名門チーム、アーセナルに所属している冨安健洋選手。井原さんがアビスパ福岡の監督時代に16歳の冨安選手を抜擢されたわけですよね。
はい。私が監督になった時にたまたま冨安が高校生で在籍していて、まだユースの年代だったんですが、トップチームに上げて一緒にトレーニングしたり、試合にちょっと使ったり、というところからスタートして、あれよあれよという間に成長していって、もう海外に行きたいということで、「まずはベルギーに行って東京オリンピックを目指す」と言っていたんですけれども、飛び越えてすぐA代表に入ってしまったぐらいの選手なんです。その当時から本当に伸びしろがたくさんある選手でした。
──やっぱり光るものを持っていた選手なんですか?
そうですね。身長も高くて日本のセンターバックとしてはサイズも大きく、そしてスピードがあり、キックの右足、左足の質も高く、また走れる。これは将来は有望なんじゃないかなとは思っていたんですが、まだその当時は線が細くて。
──でも、その早いタイミングで井原さんがそうやって抜擢して経験を積ませたことが、冨安選手のその後の飛躍に繋がったんじゃないですか?
それはどうかわからないですけど、でもやっぱり彼のキャラクターといいますか、常にサッカーに真摯に取り組む姿勢…本当に真面目なんですよね。練習も、いち早くグラウンドに来ていつも最後に帰るぐらい。練習が終わってもジムで筋トレをしたり。そういう中で、常にトップレベルを目指す志や、目標設定もすごく高いものを持っていますし、今はちょっと怪我が長引いたり再発したりで(試合に)出ていないんですが、来年のワールドカップまでには必ず帰ってきてくれると思いますし、しっかり治して、まずチームでバリバリ活躍してほしいなと思います。
──この番組では毎回ゲストの方にCheer up songを伺っています。今週も井原さんの心の支えになってる曲を教えてください。
安室奈美恵さんの「CAN YOU CELEBRATE?」をお願いします。
98年にワールドカップフランス大会に行った時に、初戦の競技場でこの曲が流れていたんです。多分、日本代表が初めてワールドカップに出場したので、そのお祝いじゃないけれど、気を使って日本の曲を会場のスタジアムで流してくれたのかなと思うんですが、これを聴いてアップに入ったことを覚えています。“こんなところで日本の曲を聴けるのか”と思いながらワールドカップの初戦に入っていったと。
──カズさんや北澤さんが最終的にメンバーから外れた後に、井原さんは怪我をなさったんですか?
そうなんです。その発表があったその後の練習で。それも自爆して…。ちょっと膝の靭帯を怪我して、“これで自分もワールドカップに行けないかもしれない”というぐらいの怪我だったんです。
それで“俺も終わったかな”と一瞬思ったんですけれども、チームドクターの尽力や、あとは一度やったことのある怪我だったので、そこから3日ぐらい全く何もしないで完全休養して注射を打って、そこから残り1週間少しずつリハビリをしてギリギリ間に合ってワールドカップ初戦、という感じでした。
──それは100%の状態まで戻れたんですか?
多少痛みあったんですけど、そこはアドレナリンでカバーする(笑)。
──そんなギリギリの状態で聴いたこの「CAN YOU CELEBRATE?」は、やっぱり聴こえ方もまた違ったんでしょうね。
そうですね。聴こえ方というか、“とにかくワールドカップのためにやってきた全てを出しつくそう”ということと、日本は初めてのワールドカップ出場だったので、サポーターの人も待ち望んでいましたし、“良い試合をしたいな”というところだけですね。
──フランスワールドカップで3戦戦って、戦い終わった後というのは“やりきったな”みたいな達成感だったんですか?
そうですね。3連敗だったので、悔しさももちろん残ったんですけど、みんながこのワールドカップという大会を目指して戦っているという理由がよくわかるといいますか、本当に素晴らしい雰囲気の中でゲームができて、“もう1回出たいな”という思いにはなりました。4年後の日韓共催の大会では、その夢はちょっと叶わなかったですけれども。
──今度、ワールドカップで日本代表がどんな戦いをしてくれるのか楽しみになりましたよね。
そうですね。本当に、昔とは全然違う力をつけた日本代表だと思いますし、まずはベスト8に必ず進んで、そこから1つ1つまた上を目指していく。その力はあると思うので、まず予選リーグをしっかり突破してほしいです。まだ来年の話ですけど、それぐらいの力はあると思っています。
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