井上鷹選手は、2000年、宮崎県のご出身。
小学2年生の時に遭ったいじめで学校に行けなくなります。
母親に勉強を教わる傍ら、12歳の夏、ピンク色のボディーボードと出会います。
それをきっかけにサーフィンに出会い、15歳からサーフィン競技に取り組みます。
SUPサーフィンでは2部門で世界チャンピオン。
現在オリンピックで採用されているショートボードでもプロ資格を有し、さらにロングボードではワールドチャンピオンシップツアーで2023年シーズン最終ランキング9位に食い込むなど「三刀流プロサーファー」として活躍されていらっしゃいます。
──気になったのが、「12歳の夏、ピンク色のボディーボードと出会う」と。これはどういうことですか(笑)?
ビーチクリーンをしていた時にボディボードを拾いまして、夏で暑いし、サーファーが入っていたので“やってみようかな”と真似して乗ったのがきっかけです(笑)。
──でもそれは(“サーフボード”ではなく)“ボディーボード”だったわけですよね。「これはサーフィンじゃないんだ」と気がついたのはいつですか?
僕がボディボードに立って乗っているのを見たサーファーの方が、「それは立って乗るものじゃないよ」と教えてくれて、サーフボードを貸してくださいまして、それが本当のサーフィンデビューという(笑)。
──そこからサーフィンに夢中になって、15歳から本格的にサーフィンに取り組んだと。本格的に取り組むきっかけみたいなものはあったんですか?
いろいろあったんですけど、もともとサーフィンをしていた時に、地元の方に「(サーフィンの)大会に出てみないか」と声をかけられて、「ボードとかないんだったら貸すよ」と言っていただいたので、“出てみようか”と思って出てみたら、なぜか優勝しちゃったんですね(笑)。ルールとか一応説明はしていただいたんですけど、よくわからずとりあえず乗っていたら勝っちゃった、みたいな(笑)。
──ご自身のボードがない中でもいろんな技を習得されていたということですよね。
ショートボードに関しては3年ぐらいやっていたのである程度できたんですけど、「ロングボードも出てみよう」と言われて、ロングボードに関してはまともに乗ったことがなくて、試合前の1週間ぐらいしか練習していなかったので、“いけるかな?”と。
──ショートとロングではだいぶ違うものですか?
はい。ショートが大体身長ぐらいの長さなんですけど、それに対してロングボードは約3メートルありまして、その長さを生かしてボードの上を歩くという技がロングボード特有の技なんですけど、これがなかなか難しいんです。
──“三刀流”ということですが、ショート、ロング以外に、SUPサーフィン。海に行くとパドルつきのもので海の上に浮いている方を見たことがありますけど、そのサーフィン版があるということですか?
そうです。それの波に乗る競技がありまして、僕はそちらの世界チャンピオンです。
──SUPならではの技があったりするんですか?
はい。技自体はあまり変わりはないんですけれども、パドルを持っているというところで、パドルを支点にしたり持ち替えるところが最大の魅力なので、そこをしっかり使わないとやっぱり高得点は得られないですね。このパドルを持ち替えるさばきがなかなか難しいです。
──井上選手は、小学校2年生の時にいじめに遭われたと。これをカミングアウトするというのは勇気のいることだったと思うんですけれども。
元々は言いたくなかったんです。でも、プロになって海外で戦うようになって、ファンの方から「子供が不登校で悩んでいたけれど、(井上選手の)活躍を見て勇気が出た、今頑張っています」というメッセージをいただいたんです。それで、僕の経験を伝えることや挑戦していることが誰かの役に立つのなら伝えていく方がいいのかなと。最初は結構つらかったんですけど、伝えることで誰かの役に立てるんだったらすごく嬉しいことなので、ちょっとずつ伝えていってみようかと思うようになりました。
──小学校2年生という低学年でそういう状況になってしまうと、なかなか克服というか、自分の中で消化しきれないものもあったと思うんですけれども。
そうですね。正直、学校には良い思い出がなくて、高校に行く年にプロを目指すことになったんですけど、親からは「高校に行きなさい」と言われていたんです。でも、勉強も好きじゃなかったですし、正直行きたくなくて、「(高校に行く)代わりに3年間(サーフィンを)やらせてくれ」「駄目だったら辞めるから」と言って、高校には行かずプロサーファーになったんです。結果的にアジア記録などを塗り替えることができたので、(今もプロサーファーを)継続中です。
── “退路を断つ“ではないですけれども、自分でそういう環境に追い込むことで、努力もできたし、結果もついてきたというところもあるのかもしれませんね。
そうですね。自分に何かできるとしたらサーフィンかなと…“サーフィンだけは唯一他人から褒められたものだから、これを頑張ったら、学校には行けなかったけれど、もしかしたら何かできるのかな”と思ってひたすら頑張った結果、今こうやってお話できているという感じですね。
──いじめに悩む子供たちに向けてどんなメッセージを伝えたいですか?
いじめは受けてから発覚するので未然に防ぐことはなかなか難しいと思いますが、誰か相談する人を見つけるとか、あるいは、相談する方がいても解決しにくいものでもあると思うので、もう思い切って違う世界を体験してみる。僕の場合はサーフィンがあったんですけど、みなさんそれぞれ得意不得意があると思うので、スポーツに限らず何か違うものに触れてみる、外に出てみるということを試してみてほしいと思います。
──そうやって人を傷つけてくるのも人だけれど、サーフィンで声をかけてくれてサーフボードを貸してくれたのもまた人じゃないですか。そういうきっかけがあって今こうやってサーファーとして活躍されている。人との繋がりは難しいですけれども、大切にしてほしいですよね。
はい。すごく大事だなと思うので、僕が逆にきっかけを作ってあげたいなと思っています。
──先ほど井上選手からもお話がありましたが、妹さんお2人も三刀流プロサーファーでいらっしゃるんですよね。世界初の3冠ワールドチャンピオンで世界初の2年連続2冠、そして3年連続SUPロングボードのワールドチャンプという上の妹の井上楓選手、そしてJPSAロングボードの史上最年少優勝者という3兄妹の末っ子、井上桜選手も三刀流プロサーファーでいらっしゃいます。今シーズンは3兄弟で世界へ挑戦されているということで、その資金調達のためにクラウドファンディングを今実施されていると。世界を転戦されるのには資金面もありますし、さらに3人で海外というとやはり大変なんでしょうか。
単純に3倍かかるわけではないんですが、同じ財布から3人分となると財布的にはつらいです。ただその代わり3人で行くことで、ボードの本数を持っていけたり、あと空港でトイレに行く時にも荷物番がいるので安心して行けるとか、レンタカーを借りに行けるとか(笑)。
──(笑)。何よりも兄弟で一緒にいられるというのは心強いですよね。
やっぱり海外にはたくさん危険が潜んでいるので、1人2人よりも3人4人の方が安心ですし、安全ですよね。
──3兄妹の目標を教えてください。
今年は既に始まっているんですけど、ロングボードという種目で世界一を獲りたいなと思って頑張っています。SUPサーフィンの方は去年桜も世界一を獲ったので、3兄妹全員世界一を持っているので、次はロングボードで獲りたいなと頑張っております。
──今オリンピックはショートだけですけれども、そのうち、ロング、そしてSUPも採用されるようになれば、オリンピックの舞台というものも見えてきますよね。
そうですね。でも、“決まるんじゃないか”という噂、話はありまして、決まってくれたら僕たちはほぼ出られる位置にはいるので、メダルを獲りたいなと思っています。
──この番組では毎回ゲストの方にCheer up songを伺っています。井上鷹選手の心の支えになっている曲を教えてください。
河合奈保子さんの「スマイル・フォー・ミー」です。
──河合奈保子さんは井上選手の世代ではないですよね?僕が小学校の頃に見ていたアイドルですから。河合奈保子さんを知るきっかけはあったんですか?
元々、映画ルパン三世の主題歌を歌っていたり声優さんをされていたのがきっかけです。たまたま観たルパン三世の曲を歌っていらっしゃって。
──そんな中でも「スマイル・フォー・ミー」を選ばれた理由は何でしょうか?
僕のサーフィンを見て笑顔になってくれるのが嬉しくて、“もっと頑張ろう”となるので、先ほどの“子供たちにも”という話に繋がるんですけど、笑顔を届けたいんです。なので、この曲は余計にぴったりだなと、いろんな意味を含めて選ばせていただきました。
──これからもその素敵な笑顔で頑張ってほしいなと思います。
ありがとうございます。

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