髙木菜那さんは、1992年、北海道のご出身。
スピードスケートの日本代表選手として、オリンピックは2014年のソチ大会から3大会連続で出場。
2018年の平昌大会では、日本人女子として初めて、オリンピックの同一大会で2つの金メダルを獲得するなど、輝かしい活動を残し、2022年の春をもって、競技生活から退いています。

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今週は出版されたばかりの自身初の著書「7回転んでも8回起きる」についてたくさん伺っていきます。本を書こうと思ったきっかけはありますか?
きっかけは、私は室伏さんにずっとトレーニングを教えていただいていたんですが、引退した後に、室伏さんから「あなたが転んでしまったことはあなたにとってすごく辛いことだと思う。でもそれはいつか本にした方がいい」「“僕はずっと勝ち続けている”という選手もいるけど、そういうすごさが書いてある本よりも、つらさや失敗したこと、苦しいことを書いている本の方が興味がある。それにどうやって向き合ったのかということをしっかりつづれば、面白い本になると思うよ」と言われて、“書こう”と決めました。
──書き始めてスラスラ書けましたか?
いろんなことを思い出しながら書いたので、それこそオリンピックのことや他のこともそうですが、感情が高ぶってしまったりする場面もたくさんありました。でも、私にとって「言葉」というものがすごく助けになって、この人生をずっと隣で支えてきてくれた存在なので、そこもしっかりと書こうとしたら、わりと(スラスラ)書けました。ただ、それがちゃんと伝わるのかなという不安は少しあります。
──とてもボキャブラリー、表現力が豊かで素晴らしいなと思ったんですけれども。
私はそんなに難しい言葉は使えないんです。自分では感情を素直に言葉に乗せるのが得意だと思っているので、多分どの方でも読みやすくなってるんじゃないのかなと。“これってどういうことなんだろう”という感じではなく、私の感情が率直に書かれているだけなので、すごく素直に(心に)入ってくる本なのかなと思っています。
──髙木3きょうだいはいろんなスポーツをされているということは知っていましたけれども、それに加えて新聞配達もしていたというのがすごいなと。そんな時間があるんだと思ってちょっとびっくりしました。
冬のスポーツはすごくお金がかかるものが多い中で、親が一生懸命働いて3人ともやりたいことをやらせてくれたので、少しでも私たちが何か手伝えるところがあればと。
──ご家族のことや妹の美帆選手のことがたくさん書かれていますが、こういう内容の本を書くということは事前に知らせていたんですか?
内容は伝えていないんですけど、「本を出します」と言ったら、美帆から「それだけは私が先にやりたかった」と言われて、「ごめんね。お先!」と言っておきました(笑)。
──美帆選手も本を出したいと?
多分、あの子はすごく本が好きなんですよね。小さい頃から、私はずっと外で遊んでいましたけど、妹は結構本を読んでいたんです。
──ご家族や美帆選手にはまだ本は渡していないですか?
渡していないです。美帆には、ミラノ・コルティナオリンピックを最後まで戦い切ってもらった後に、「ほらよ」って渡してあげようかなと思います(笑)。
──菜那さんから美帆選手に対して嫉妬したり、というところも赤裸々に書いていましたけれども、でも、一方的に見ているわけじゃないですか。だから逆に美帆選手からの本も読みたいと思いました。同じ出来事も同じようには捉えていないかもしれない。
本当に全然違うことを考えていて、大学院で妹にインタビューした時があったんですが、妹には妹の世界があって、私はこれだけ妹を原動力にしたり比較してきたけれど、妹は私に対してそういう感情は一切持っていなかったんです。逆に、どちらかというと私を味方だと思っていて、“姉が隣にいる心強さ”みたいなものを妹は感じていたそうなので、確かに、もし妹が本を書くとしたら、ちょっと面白いですね。
──お母様からのメッセージもありましたけれども、菜那さんからお願いしたんですか?
お願いしました。母はテレビやメディアに出ることをすごく嫌がるので、これまで一切出てきていないんですが、この本を綴るにあたって、私が妹と比較されたり葛藤があった中で、2人を見てどんな思いだったのかということを知りたいと思ったのでお願いしました。母の知らなかった想いとかも知れてよかったです。
──お兄さんの小学校の時のエピソードがきっかけで(親は)「子供たちのスポーツには関与しない」という方針だそうですが、ご両親としても、もちろんお子さんがオリンピックに出場するのはとても嬉しいことだし華々しいことだけれども、単純には手放しでは喜べない、いろんな想いはあったわけですものね。
最初に美帆がバンクーバーに出て私が出られず、その後、(ソチオリンピックに)私が出て美穂が出られず、そして(2人が出場した)平昌オリンピックだったので、(オリンピックに出場する娘を)応援したいけれど、もう1人も見なければいけない(という葛藤があった)。だからこそ、2人に同じ「お疲れ様」という言葉でずっと伝えてきてくれた。「頑張ったね」とかそういう言葉ではなく「お疲れ様」が私たちを救ってくれたので、本当に“関与しない”という方針はありがたかったなと思いますね。
──メンタルヘルスの専門家の方にインタビュー取材もされたんですよね。
はい。心理学の先生にお話を聞きました。
ずっと“挫折って何だろう”と考えていたんです。苦しいこととかはありましたし、ずっとあるんですけど、まず“「挫折」ってどういう時に使う言葉なんだろう”とか、“「失敗」と「挫折」って何が違うんだろう”ということを、引退してからすごく考えるようになったんです。それをその先生と一緒に勉強する、という対談をさせていただきました。
──あと、俳優の北村匠海くんとも対談をしていますけれども、あれは菜那さんからのオファーですか?
はい。私たち側からお願いしてOKをいただいて話すことができました。北村さんの演技やお仕事を見ていて、言葉をすごく大切にしていそうな方だなと感じていたんです。私も言葉やいろんなものに助けてもらったことから、お話をしてみたいなと思ってオファーしたら、快く引き受けてくださって。
2人の、言葉についてや、お互いが何をどう大切にしてどう歩んでいるのかということについてすごく良い形でお話できたなと思いますし、最後にいただいた言葉はこれからまた私の癒しとなっていくのかなと思っています。
──どんな方に読んでもらいたいというイメージはありますか?
これから何か一歩踏み出すことがちょっと怖くなっている人たちの背中を押せたらいいなと思います。そしてそれ以上に、“今ちょっとつらいな”とか、“これからどうしたらいいのかな”といろんなことに悩んでいる人たちに、“それでもいいんだよ”と寄り添えたり、共感できるような、自分のつらさをちゃんと認めて“自分はこれでいいんだ”“このままでも私って素晴らしいんだ”と思ってもらえるような本になるといいなと思いますし、私がもらってきたすごく大切な言葉が、今度は私の言葉を通してみなさんの大切な言葉に変わっていってくれたらいいなという思いを込めて書かせていただきました。
──今日ご紹介した、髙木菜那さんが初めて心の内と半生を綴っている、「7回転んでも8回起きる」は、徳間書店より発売中です。さあ、この番組は毎回ゲストの方にCheer up songを伺っています。今週も髙木菜那さんの心の支えになっている曲を教えてください。
ケツメイシの「手紙〜あれから」です。
──著書の中でもこの曲に救われたとおっしゃっていますけれども、共感するというか、好きなフレーズはあったりするんですか?
「そのままでいいぞ 進んでこう」というところがあるんですが、怪我をしたり、“この道は金メダルに続いてるのかな“と悩んでしまうような道をアスリートは歩んでいくんですよね。目の前がわからない道を自分たちで作って歩んでいくからこそ、すごく不安になるけれども、この曲は“そのままでいいんだよ、今の努力は無駄じゃないよ”と言ってくれて、“このまま頑張れば大丈夫なんだ”と背中を押してくれる曲なんです。
怪我をした時もそうですし、心がすごくつらくてもう滑るのも苦しくなっている時にも、“大丈夫だよ”と最後の最後まで背中を押してくれた、私の本当に大切な曲です。
──そういう心理状況に追い込まれている時の描写がリアルすぎて。客観的に今振り返ってみれば“やっぱりちょっと変だったんだろうな”と思うんでしょうけれども、その渦中にいたら気づけないというか、やめられないわけですものね。
最後はもう、わかっていても止まらないというか、自分をコントロールできないところまで行っていたなと思います。でも、それでも支えてくれた人たちがいたから、最後の最後まで私はそのままで立てていたのかなと思いますね。本当に限界の限界ではあったと思います。
──そこまで自分を追い込まないと…。
追い込んでいる感じはないんです。金が獲りたくてただ努力しているだけなので。金を獲りたいから自主練をしたり、金を獲りたいからいろんなことに取り組んで頑張るんですけど、それがエネルギーを消耗していっている1つでもあったんじゃないかと、消耗しきってから気づいてしまったんです。
たくさんの人がそうだと思うんですけど、“頑張れる、頑張ったら良い方向に行ける”と思って頑張っている人こそ、心のエネルギーを使ってしまっているので、1回ゆっくり向き合ってあげたり、余裕を持つことが大事なんだなと、今回すごく感じましたね。
──アスリートのみなさんに、簡単に「頑張れ」と言わないようにしましょう(笑)。
でも、最後はその「頑張れ」が本当に届くんです。オリンピックで何て言ってもらいたいかなと思ったら、「頑張れ」がやっぱり最後は背中を押してくれるんです。
つらい時に「頑張れ」と言われるとどんどんつらくなっちゃう時もあるんですけど、今あそこに立ってる人たちは、全てを乗り越えて、もう自分の最高を残すだけなので。
結果だけではなく、その人が100%を出して最高の笑顔になれることを願って「頑張れ」を届けてほしいです。
今回お話を伺った髙木菜那さん初の著書「7回転んでも8回起きる」にサインを入れて3名のリスナーにプレゼントします。ご希望の方は、番組公式Xをフォローして指定の投稿をリポストしてください。当選者には番組スタッフからご連絡を差し上げます。さらに、今日お送りしたインタビューのディレクターズカット版は、「TOKYO FMポッドキャスト」として、radikoなどの各種ポッドキャストサービスでお楽しみいただけます。聴き方など詳しくはTOKYO FMのトップページをチェックして、そちらも是非、お聴きください!