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2022.05.07

番記者から見た“消えた完全試合”

今週の「SPORTS BEAT」は、現在ベストセラーとなっている『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』の著者、鈴木忠平さんをゲストにお迎えしました。
鈴木忠平(すずき・ただひら)さんは、 1977年生まれ。日刊スポーツ新聞社でプロ野球の担当記者を16年間経験後、2016年に独立し、2019年までNumber編集部に所属。
現在は、フリーライターとして活動。
著書には『清原和博への告白 甲子園13本塁打の真実』『清原和博 告白』などを発表されています。
さらに、昨年発売された中日ドラゴンズの落合博満元監督の実像を描いたノンフィクション『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』が12万部を超える大ベストセラーとなっています。



──元々、(『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』を)書くきっかけというのは何だったんですか?

元々、日刊スポーツ新聞社で記者をしていまして、ちょうど落合監督時代の中日ドラゴンズを8年間担当させてもらっていたんですが、担当記者(番記者)って、1年間、キャンプでもどこでもずっとついていくんです。
その後自分は会社を辞めたんですが、落合さんのことがずっと心に残っていて。新聞に書けないことがいっぱいあったんですよね。記事に書いていないことがあって、“フリーライターとして、いつか自分が死ぬまでに(落合さんについて)書ければいいかな”と思っていたんですが、そのタイミングで、ちょうど新型コロナウイルスが流行り始めたぐらいに、週刊文春の編集長から「落合さんを書きませんか」と言っていただいて、それがきっかけになりました。

──著書を読んでいると、“落合さんはメディアと一線を引いている”といういう印象があったんですが、本当のところ、落合さんは“メディアが嫌い”なんですか?

自分も最初は世の中で言われているような“メディア嫌い”というイメージを持っていました。でも、僕ら番記者は(取材のために)落合さんの家によく行っていたんですが、家の前で待っていると、一人で待っていた場合に限り、タクシーに(一緒に)乗せてくれて、ご自宅から球場までタクシーで行かれるその間だけ、色々お話ししてくれたんです。
そういう時の落合さんは、けっこう饒舌というか、「俺はこうなんだよ」みたいな話をしてくれるんですよね。

──野球だけじゃなくて、わりとプライベートなことも話してくれる?

そうですね。例えば映画の話とか。
あと、タクシーでシートベルトがちょうど義務化された時だったと思うんですが、落合さんはタクシーに乗ったらすぐに、必ずシートベルトを締めるんですよね。そういうことをしないアウトローなイメージがあったので、けっこう意外で、「シートベルトをされるんですね」と聞いたら、「俺は決められたことは守る。ただ、決まる前に色々文句を言うだけだ」と言っていて、そういう話とかがすごく面白くて。
そういうところから察すると、“メディア嫌い”ではないんじゃないかなと思います。

──監督として「勝つことが全て」というやり方で8年間戦っていらっしゃったので、“勝つために”という監督像を演じられている部分も大きかったのかなと。

そうですね。僕は最後の方に気付いたんですが、“喋らない”というのも、監督として必要なことだからあえてそうしていたんじゃないかと。喋らない時は本当に全く喋らないので、“タクシーの中であれだけ話していた方がこういう風になるのか”と思う瞬間がやっぱりあるんですね。それは仰るように、「監督・落合」を演じていた部分があったんじゃないかな。

──難しいのは、“ファンサービスとは何なんだろう”というところで。“ただ勝つ”ということが唯一のファンサービスなのかどうか。 あの日本シリーズ(2007年・中日ドラゴンズ対日本ハムファイターズ第5戦)で、山井(大介)投手が8回まで完全試合ペースで投げていたのを、9回に(岩瀬仁紀投手に)交代させた。僕はあの時に“やっぱりそれは良くないんじゃないか”と思ったんです。もちろん、マメ(山井投手の右手指のマメの状態が良くなかった)の話だったり、“裏側があったんだな”ということを本を読んで思ったんですけれども、鈴木さんは、あの交代はどう思われましたか?

僕は番記者だったので、あの試合も記者席から観ていたんですが、8回が終わった時に、僕は“落合さんだし(投手を)変えるんじゃないかな”と思ったんです。周りの記者の方、テレビ局の方、ラジオ局の方も、後から聞くとみんな、そういう思い(投手を交代させるんじゃないかという予感)があったんですって。落合さんとずっと接してきているので、“落合さんならやりかねない”と。
だけど、状況を見ると、(交代させたいと)思ったとしても、それを実際には実行できないだろうと僕は思っていたんですよ。そう思っていたら、実行された。
あの日は本当に、新聞紙面も「これは一体どうすればいいんだ」ということで、色々大変でした。

──観ているファンは夢を見たかったりするじゃないですか。でも、本を読んでいると、(監督からすると)選手たち、スタッフも含めて生活がかかっている。「成績=生活」だと思うと、(采配については)やっぱりファンがゴタゴタ言うことではなくて、成績を上げてみんなを食わせてあげなきゃいけない仕事なんだなとも思いました。 それからだんだん、「落合の野球は勝つけれどもつまらない」という雰囲気が広まっていったじゃないですか。その時、鈴木さんはどういう思いでしたか?

日本シリーズの采配で「非情な人」「勝利至上主義者」というイメージが決定づけられて、色々批判もあったんですよね。だからといって落合さんはそちらに歩み寄っていく人じゃないので、ますます世の中との乖離が広がっていっているのを見て、自分は“それこそが落合さんの面白さなんだ”と。世の中に背を向けてでも、書き手としては面白い。
でも人情として、やっぱり世の中の人が面白くないというのもわかりますし、人として、書き手として、落合さんをどう思うかというのは、本当に(気持ちが)揺れていましたね。

──さあ、この番組ではゲストの方にcheer up songを伺っています。鈴木忠平さんの心の支えになっている曲を教えてください。

竹原ピストルさんの「例えばヒロ、お前がそうだったように」です。

──これはすごいタイトルだなと思いました。

“曲”というよりは、やっぱり“叫び”ですよね。竹原ピストルさんは元々そういう曲風の方なんですけど、これは「世の中に対するアンチテーゼ」というか、“世の中で「これが良い」とされているものは、実は皮一枚ひっぺがすと建前でしかない。でも本当に面白いものというのは、その奥にある、血の中にあるようなものなんだ”、そういう叫びを歌っているんです。
新聞社を辞めてフリーになった時に、何を書けばいいんだろうと迷ってしまって。ちょうどその時ぐらいにこの歌を聴いて、“ああ、そうか”と。“世の中に表層的に出ているものの、その裏側を書けばいいのか”と、そういうヒントを与えてくれて、背中を押してくれるような曲なんですよね。


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そして今回お送りしたインタビュー、ディレクターズカット版は音声コンテンツアプリ『AuDee』で聴くことができます。
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