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2022.07.16

「野村道場」を通して子供たちに伝えたいこと

今週の「SPORTS BEAT」は、アジア人初、オリンピックで3大会連続となる金メダルを獲得した、柔道家の野村忠宏さんをゲストにお迎えしました。
野村忠宏さんは、奈良県出身の47歳。
1996年のアトランタオリンピックを皮切りに、シドニーオリンピック、アテネオリンピックと、3大会連続で金メダルを獲得。
オリンピック3連覇は、柔道史上初。
また、全競技を通じて、アジア人初の偉業となりました。
輝かしい功績を収められ、2015年40歳で現役を引退。
現在は、国内外にて柔道の普及活動をされています。



──「野村道場」という柔道イベントを開催されているんですよね。

そうです。引退してからスーツを着る機会が多くなったというか、オリンピックのキャスターとかスポーツキャスターとか講演活動とかそういう場が多くなって、柔道着を着る機会がなくなってきたんですよ。でもやっぱり、自分自身の軸というのは柔道にある。その中で、どういう形なら柔道に貢献、恩返しできるのかなと考えた時に、「柔道の未来の宝である子供たちに何か伝えたい」というのがありまして、2019年から「野村道場」というものを、自分でスポンサーを集めて開催しています。

──どのように生徒たちを集めるんですか?

インターネットを使って、一般の応募で集めます。第1回が2019年の9月にあったんですが、その時は200人の子供達に集まってもらって、阿部一二三選手と阿部詩選手をゲストに迎えて開催しました。

──みんな「野村さんに教えてほしい」と応募が殺到すると思いますが、誰でも参加できるんですか?

今は小学3年生、4年生から6年生までの子供限定で募集しています。
ありがたいのは、今はYouTubeとかいろんなものがあって、過去の映像が見れるじゃないですか。だから、子供たちも、20年前の私の映像とかを見てくれているんですよね。一昔前だと「30歳40歳上のおっさんの試合なんか見たことねーよ」って(笑)、「すごい人だったんだけど、どんな人か知らない」って言っていたのが、今はそれを映像として見ることができる。

──リアルタイムで、直で感じることができる。

だから、もちろん生で私の試合を見たことはないけれど、「あの背負い投げのすごい人だ」とか、そういう感じで見てくれるから、すごくありがたいです。
ただやっぱり、子供たちにとって一番嬉しいことは現役のチャンピオンと会うことなので、「野村道場」では現役のチャンピオンに来てもらって、子供たちと接する時間をしっかり取ってもらっています。

──そして、柔道でちょっとびっくりするニュースが。小学生の全国大会が廃止になったそうですね。

全ての大会ではなくて、全日本柔道連盟が主催する全国大会が廃止になったということです。
これはいろいろ問題がありまして、まず、2004年のアテネオリンピックから去年2021年までの17年間で、小学生の柔道人口、競技人口が、約46%減少しているんですよ。

──リオや東京のオリンピックでの活躍を考えると、柔道を始める子供が増えそうな気もしますが。

そうですね。東京オリンピックでの選手たちの活躍というのがあって、16年ぶりに登録人口は増えたんです。ただ、小学生、低年齢層に関しては、減少し続けてるんですよね。
今回、全日本柔道連盟主催の全国大会が廃止になったことについて、自分は廃止になることがポジティブとは思っていないです。ただ、“大会のあり方”というものを考える、良い意味での提言にはなっているのかなと。
ニュースでもいろいろ報道されましたし、“試合で負ける悔しさを知る”とか、“試合で勝つ喜びを知る”とか、“緊張する場面で子供なりに自分の力を出し切る”とか、そういう場というのは、やっぱり練習じゃなくて試合なんですよね。その“試合の場を提供する”ということは本当に意味のあることだと思うんですけど、今言った通り、“試合のあり方”ですよね。
例えば、小学校5年生の場合だと、45キロ以下級か、45キロ以上級の2階級しかないんです。そうしたら、50キロの子だと、5キロ減量して45キロ以下に出る方が有利なんですよね。

──小学生でもう減量をしてしまう子もいる。

そうなんですよ。小学生でも、勝つために、親や指導者が減量をさせたり、試合に負けた子に対して「なんで勝てないんだ」とか「なんであの時にあの技を出せないんだ」とか叱ったり、結果にフォーカスしてしまう。だから、それがどうなのか、という話ですよね。
高校生、中学生以上になったら7階級あるわけなんですよ。でも、身体の軸ができていない小学生が2階級、大雑把な階級でやるというのも1つの問題ですし、柔道には教育的な意味がある。「強くなる」というのも1つの魅力だけれども、柔道というのは、相手に対して感謝を持って敬意を表する。礼に始まり礼に終わる。そういう“柔道の精神”というものを伝えることもすごく大事なんです。
そうじゃなくて、対戦相手の子供にブーイングをしたりとか、捌いてくれている先生に対して批判したりとか、そういうところが小学生の大会でも多く見られたので、“これはちょっと問題だな”というのは、正直、私も以前から感じていました。

──「負けず嫌い」というのは決して悪いことではないでしょうけど、やっぱり小学生の間に目先の勝ち負けにあまりにこだわらせすぎるのも、マイナスの面も大きそうですよね。

結局、「誰のために戦ってるの?」「誰のために柔道をしてるの?」ということになってきますよね。子供たちの中には「親の顔を見ながら」とか「先生に怒られるのが怖いから」とか、柔道をやっている意味をちょっと見失っている部分と、柔道の本当の素晴らしさと魅力を感じられていない子供たちが多いんじゃないかな、と。
そういう部分でも、私自身が子供たちに対して、そして子供たちを通して、後ろにいる親御さんや指導者のみなさんに伝えたいものがある、ということも、私が「野村道場」を始めた1つの大きなきっかけではありますね。
あとは、別に柔道だけをしなくてもいいんですよ。私も小学生時代はいろんなスポーツをやっていたんですよね。水泳は2歳からやってましたし、柔道は3歳から、小学校の時の学校のクラブ活動はサッカー部に入って、地元のスポーツ少年団では野球部に入っていました。

──忙しいですね!

それぐらい、いろんなスポーツやらせてもらったんですね。それで、中学校に入る時に柔道1本に絞ったんです。
元々、私の家は柔道一家で、今から85年ほど前に祖父が豊徳館野村柔道場を創設して、その道場で3歳から(柔道を)スタートして、父親は柔道の名門高校の柔道部の監督をしていましたし、叔父はオリンピックのチャンピオン。そういう本当に「ザ・柔道一家」に生まれて。
でも、うちの親や祖父は、「強くなれ」とか「厳しい練習をしろ」とか「柔道だけしとけばいい」という教えじゃなかったんです。だからいろんなスポーツをやらせてもらって、でも中学校に入る時に、自分がいろんなスポーツに触れた中で柔道が1番楽しかった。だから、“柔道しか選択肢がなかった”じゃなくて、“いろんな選択肢を与えてもらって、柔道が一番好きだと感じた”から、中学校の時に柔道1本に絞って、(柔道を)やっていこうと、自分で決めたんです。

──とても素敵な教育ですね。

だから(親や祖父に)今はすごく感謝してます。
そういう柔道一家に生まれた、3歳から柔道を始めた、最終的にオリンピックを3連覇した…ってなったら、ものすごいエリートだと思われるんですね。でも実は、3歳から始めたくせに、中学校1年生の時の最初の試合では、地区大会で女の子に負けたりしているんです。体重も少なかったし、体も小さくて、勝てなかったんですよ。柔道一家に生まれていることによって周りから笑われたり、努力してもなかなか結果が出ないことに対してやっぱり悔しさもありましたけど、最後はチャンピオンとなった自分がいる。
だから、「子供の時に強いから」とか「子供の時に弱いから」っていうのは、そんなに重要じゃない。自分自身が柔道が好きで、自分自身が選んで、「強くなりたい」とか「この技をもっともっと上手くなりたい」とか、自分から湧き出てくるものがすごくあったんです。その一番の要因というのは、柔道が好きで、柔道を自分で選んだということ。そこの部分というのを、もっともっと子供たち、親御さん、指導者のみなさんに伝えていきたいという気持ちはすごくありますね。
子供が楽しんで、自主性と主体性をもって取り組んでいく。そこで学ぶこと、感じることが一番大事で、全員がチャンピオンになれない世界なんだから、柔道を通して何を学ぶのか。
先ほど言った通り、他のスポーツをやりながらでもいいんですよ。柔道を通して、他のスポーツに役立つ身体の神経の使い方とか、体のさばき方、使い方というのを知るだけでもいいと思うんですよね。
だから、「メインはサッカーです、けど週に1回だけ柔道をしてます」という子でも、柔道少年、柔道少女なんです。「柔道1本に絞ってトップを目指す」という選手もいていいけれど、「スポーツとしての柔道じゃなくて、教育としての柔道、礼儀作法を学ぶ」とか、いろんなアプローチの仕方があると思うので、そういうことをもっともっと伝えていきたいなと思います。

──そして、この番組ではゲストの方にcheer up songを伺っています。野村忠宏さんの心の支えになっている曲を教えてください。

スキマスイッチさんの「ゴールデンタイムラバー」です。
これは2009年の9月に出された曲なんですが、2008年に北京オリンピックでオリンピック4連覇を目指したんですけれども、結局代表になれず。この時に前十字靭帯断裂という大きな怪我をして、大きな手術もして、もう一度頑張ろう、這い上がろうとしている時期だったんですが、この「ゴールデンタイムラバー」の歌詞が、リアルな勝負の世界を描いてるような、モチベーションを上げるような歌詞で、しんどいトレーニングをする時、しんどい練習をする時、テンションが下がっている時に、これを聴いてガシッとテンションを上げてトレーニングしていましたね。

──そして、先ほどお話を聞かせていただいた、野村さんが主宰するイベント「野村道場」が来月開催されるんですね。

そうですね。8月10日に横浜武道館で、約3年ぶりに、対面で子供たちを集めてやるんです。第1回の「野村道場」は2019年9月だったんですけれども、その時は200人の子供たちを集めてできたんですが、第2回目以降は全てオンラインでの開催だったので。

──コロナ禍になってしまった、ということもありますし。

だから、3年ぶりに子供たち200人を集めてやろうと思っています。
そしてゲストは、オリンピック2連覇を達成した谷本歩実さんや、まだ現役ですけども、(オリンピック)2連覇をしている大野将平選手が来ます。
あと、それこそ今スキマスイッチの曲を紹介させてもらいましたけども、スキマスイッチの常田真太郎。彼もゲストで来ます。

──柔道をされるんですか?

します。常田君は高校時代に柔道少年で、段も黒帯も持ってまして。
だから、音楽イベントだったら彼がメインゲストになるんですけど、「今回に関してはお前はメインじゃないから、“柔道好きのおっさん”として、子供たちと一緒に笑顔で汗を流してくれ」ということで(笑)、常田君が来てくれます。

──画面でコミュニケーションを取るのもいいですけれども、やっぱり、実際に目の前で見て、そして組んでみる。これは子供たちは本当に得るものが大きいと思います。

そうですね。一流の技を目の前で見る。スピード、そして畳で受け身をする音。そういうものは実際に体験もらいたいし、トップの人たちから「頑張れよ」とか「今の技はいいね」って一言声をかけてもらうことも、子供たちにとっては大きな喜びだし、そうやって笑顔溢れる、そして活気溢れるイベントにしたいなと思っています。

──これは会場に直接行くしか見ることはできないんでしょうか?

会場でも、席もあるのでご自由に見ていただけますし、あとは「野村道場」の公式のYouTubeでライブ配信をするので、そちらでも見ていただけます。

──最後に、野村さんから、柔道をしている子供たちに一言お願いできますか?

子供たちのゴールは今じゃないんですよね。だから、今柔道が弱い子でも諦める必要はないし、柔道が強い子もそれに驕ることはしてほしくない。柔道を楽しんで、柔道を好きになってほしい。それだけですね。


今回お話を伺った野村忠宏さんのサイン入り色紙を、抽選で1名の方にプレゼントします。 ご希望の方は、番組公式ツイッターをフォローして指定のツイートをリツイートしてください。当選者には番組スタッフからご連絡を差し上げます。

そして今回お送りしたインタビューのディレクターズカット版を、音声コンテンツアプリ『AuDee』で聴くことができます。
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