yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百二十八話 二つの自分を手放さない! -【島根篇】作家 森鴎外-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百二十八話二つの自分を手放さない!

文豪・森鴎外は、島根県の津和野町に生まれました。
かつて津和野藩亀井氏の城下町だった、古き良き日本の風景をとどめるこの盆地は、小京都のひとつとして注目され、今も観光客が頻繁に訪れています。
津和野には、森鴎外が幼少期を過ごした家とともに記念館があり、直筆原稿など貴重な資料が展示されていて、彼の波乱の人生を追体験できます。
森鴎外の肩書は、もちろん小説家。
でも、実は陸軍の軍医であり、官僚、ドイツ留学を生かした翻訳家、評論家でもあるのです。
彼の実家は、津和野藩の医者の家系。藩の医師はそれなりの権威を与えられ、教育の場も守られていました。
嫡男として生まれた鴎外は、幼い頃より論語やオランダ語を学び、英才教育を受けました。
しかも、まわりの大人が驚くほどの学力を持っていたのです。
フツウに人生を歩めば、陸軍の軍医としてお国のために奉公し、尊敬を集め、勲章ももらえたのかもしれません。
でも、鴎外は、あえて文学の道を捨てませんでした。
いや、むしろ、文学の道を我が本流として貫いたのです。
寝る間もおしみ、なぜそこまで自分を忙しくするのか。
そこには、鴎外自身の存在価値への不安があったのかもしれません。
なんのために命を授かり、何をすれば命を全うしたと言えるのか。
ひとは迷い、探し、なかなか答えを見いだせないまま、この世を去っていきます。
だからこそ、彼は捨てなかったのです。
自らの可能性は全て試し、両手でつかむ。
少しでも指にからんだものは、手放さない。
彼の小説にはいつも、うまく生きられず、運命に翻弄される人物が出てきます。
それは彼自身の投影だったのかもしれません。
文豪・森鴎外が、数奇な人生でつかんだ明日へのyes!とは?

作家・森鴎外は、1862年、現在の島根県津和野町に生まれた。
実家は、由緒正しい士族。藩の医学をつかさどる重要な役職だった。
跡継ぎとしての期待を一身に受けた鴎外は、それに応えようとする。
森家の教育係は、母だった。父は甘やかし、母が厳しく監督した。
鴎外は、臆病で引っ込み思案。先生のところに習いに行くとき、いじめっ子に会うのが嫌だった。犬が怖く、吠えられるだけで泣いた。
でも、母は鬼の形相で、鴎外を監視する。
逃げられない。仕方なく、先生のところに出向く。
成績は優秀。必死に予習、復習を欠かさない。
それも、母のスパルタがあったから。
あるとき、先生の家に向かう道すがら、ひらけた土地にスミレやレンゲが咲き誇っていた。
「なんて綺麗なんだ…家に持ち帰って、いつまでも眺めていたい」
そう思った鴎外が花を摘んでいると、近所の子どもに笑われた。
「なんだ、あいつ、女みたいだ!変なの、女みたいだ!」
石を投げられた。意味がわからない。
「綺麗なもの、自然の豊かさにただ感動することを、どうして男がやっちゃいけないんだろう…」
もっと解せなかったのは、家に帰って母に叱られる。
「男のくせに、花なんか摘んでっ!恥ずかしいことをしてはいけません」
恥ずかしい?このときの違和感が、彼を文学にいざなうことになる。
投げられた石を、鴎外はやがて、美しい言葉で返した。

森鴎外は、10歳のとき、故郷・島根の津和野を出て、父とともに東京に向かった。
亀井氏の口利きで、向島に居を構える。
もしかしたら、鴎外の父も気の強い妻から逃れたかったのかもしれない。
官立の医学校に入るため、ドイツ語を学ぶ。
父は千住に病院を開いた。
希望通り、医学校に入学するが、鴎外の関心は文学に向かった。
と同時に、「名を知って、物を知らぬのは、阿呆なり」と思うようになった。
本を読めば、知識は増える。でも、そんなものを自慢しても、ちっとも偉くない。
大事なのは、実際に知っているか、感じているかだ。
サフランという香辛料の名を知った。
鴎外は、それでは終わらない。花を見たくなる。東京中の植物園を探す。
自分の目で確認する。五感を使って体験する。
簡単に情報を手にした気持ちになるな!と鴎外は言う。
「情報にはちゃんと、情という字が入っている。感情に結びつかないものは、情報ではない」

森鴎外は、ドイツ留学にこだわった。陸軍の軍医になることより、異国に暮らすこと。
そこには、想像もつかない情報が待っていてくれるだろう。
留学が決まったとき、人生でいちばんともいえる昂揚感を覚える。
最初の1年は、ライプツィヒで過ごす。
もともと、人見知り。怖がりで、世間慣れしていない。
そんな彼を支えてくれたのが、フォーゲル家のひとたちだった。
20代の多感な数年をドイツで過ごすことができたのは、この最初の出会いが、幸せだったからに違いない。
クリスマスの夜、フォーゲル家に招かれた日のことは忘れられない。
大きなもみの木に、星がキラキラと輝いていた。
「僕はおそらく、医者になるだろう。でも、この輝きをとどめたい。この輝きに感動している自分の感情を誰かに伝えたい。それは、軍医をまっとうすることと、全く違う道なんだろう。でも、どちらも僕だ。どちらかを手放したら、僕は僕でなくなる」
ドイツであるドイツ人女性との運命的な出会いをした。
別れても、記憶から消し去ることはできない。
彼はそれを『舞姫』という小説にした。
医学は、現実。揺るぎない世界で闘う。
でも文学には、どうしようもない人間を許す余白がある。
どうにもならない人生を救う、癒しがある。
ひとには、どちらも必要だ。
だから、森鴎外は二つの人生を手放さなかった。

【ON AIR LIST】
Cities & buses / Aberdeen
風の道 / Taeko Onuki & Ryuichi Sakamoto
Rain / 秦基博
Mind Games / ジョン・レノン

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけのマヨわさサラダ

現在の島根県津和野町で生まれた、森鴎外。そんな津和野町の名産でもある、わさびを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけのマヨわさサラダ
カロリー
205kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 100g
  • アボカド
  • 1/2個
  • 生マグロ
  • 50g
  • 【A】わさび
  • 5g(お好みで)
  • 【A】マヨネーズ
  • 大さじ2強
  • 【A】しょうゆ
  • 少々
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。
  • 2.
  • (1)を器に入れラップをし、お湯を張った深めのフライパンに入れて蓋をして中火で3分ほど蒸す。
    ※お湯が入らないよう深めの器を使用
  • 3.
  • アボカドとマグロを食べやすい大きさに切る。
  • 4.
  • 【A】を混ぜ合わせ、(2)(3)を和える。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、「ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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