yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百九十六話 悔いのない人生を選ぶ -【栃木篇】画家 田中一村-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

閉じる

第二百九十六話悔いのない人生を選ぶ

「日本のゴーギャン」と言われる、栃木県出身の孤高の画家がいます。
田中一村(たなか・いっそん)。
亜熱帯の植物や鳥、ナイーフ派の作風は、アンリ・ルソーにも似て、独自の世界を構築しています。
一村の人気は留まることがなく、今年、京都の美術館「えき」KYOTOにて、「田中一村展 奄美へとつづく道」という展覧会も開催される予定です。
その展覧会で謳われたとおり、彼は失意の中、単身50歳になってから奄美大島に渡りました。
そこで出会う、南国の景色や風、果物や野菜、植物・動物に心惹かれ、絵のモチーフにしたことで、「日本のゴーギャン」と言われるようになりました。
一村は、幼い頃に神童と言われ、絵の才能もずば抜けていましたが、なぜか絵画展には、ことごとく落選しました。
めげずに何度応募しても、また落選。
結局、中央画壇に入ることはできませんでした。
絵も売れず、家を追われ、貧困のどん底に突き落とされても、絵を画くことを続けました。
彼は晩年、かつて居候させてもらった医師に、奄美からこんなハガキを書きました。

「三か年もの間オカネの心配もなく何にも掣肘(せいちゅう)されず、絵の研究ができるなんて、私の生涯に未だ嘗つて(いまだかつて)無かったことです。運命の神のこの大きな恵に感謝して居ます。
これが私の絵の最終かと思われますが、悔いはありません。
旅行して視察写生して画室に帰って描くのに比すれば、材題の中で生活して居ることは実に幸福です」

一村が、奄美で画いた最高傑作のひとつ『不喰芋と蘇鐵』。
世間一般に認められない自分を、クワズイモになぞらえたのでしょうか。
この絵は決して売りたくないと、周囲に話したと言います。
どんな境遇にあっても、悔いのない人生を送りたい。
そう願った伝説の画家・田中一村が、人生でつかんだ明日へのyes!とは?

伝説の画家、ナイーフ派の巨匠、田中一村は、1908年7月22日、栃木県下都賀郡栃木町、現在の栃木市に生まれた。
父は、彫刻家。
一村が5歳の春、一家は栃木から東京麹町に居を移す。
父がさらに己の芸術を極めるべく、あらたな師匠に教えを乞うためだった。
父の傍らで、幼い一村が、当時流行りの南画を見様見真似で画く。
それを見た父は、驚愕した。
見事だった。
輪郭線を書かずに、墨を重ねる手法。
教えたわけではないのに、体得していた。
一瞬にして、我が子が自分を越える存在になることを確信する。
一村は7歳にして、完成の域に達した。
10歳のときに、扇子に画いた絵が残っている。
水草のそばを、三尾の小さな魚が泳ぐ様を画いた。
扇子の曲線を生かし、魚たちは、実に楽し気にゆらゆらと泳いでいる。
配置、筆使い、ともに老成の感があった。
18歳で、東京美術学校、現在の東京芸術大学日本画科に入学。
同期に、東山魁夷がいた。
南画の天才。
誰にも負けないという自負があった。
しかし、大学に入るとすでに、南画の時代は終わろうとしていた。
さらに、父が病に倒れ、学費もままならない。
わずか2か月で、退学。
行き場を失い、ただ家族を養うためだけに、手慣れた南画を書き続けた。
虚しかった。
自分がどこへ行こうとしているのか、わからなかった。

『アダン』というタイトルで、その生涯が映画化された異端の画家・田中一村は、気づいていた。
いつかは、南画に決別しなくてはならない。
美術学校の同級生たちは、西洋絵画を学び、独自の作風を生み出していた。
ただ食べていくためだけに、南画にすがる自分。
23歳のとき、ついに自らの行くべき道を自覚し、全く新しい世界の扉を開く。
その記念すべき一作は、『水辺にめだかと枯蓮と蕗の薹』。

目の前にある自然、それをスケッチし、見たままのものを、キャンバスに留めようとした。
自信をもって、自分を支援してくれるひとたちに見せる。
反応は、さんざんだった。誰一人として認めてくれない。
失意と落胆の中、周囲のもの全員と絶縁した。
「わかってくれないならいい。でも、僕は自分の信じた道を行く」
アルバイトをしながら、なんとか食いつなぐ。
もう南画は画かない。
誰かのためではなく、自分のために絵を画く。
そう決めた。
千葉に移り住み、スケッチする。
牛をひく農夫や、季節の移ろい、植物や鳥を画く。
スケッチすることで、自然と対話し、客観的に描くことを心がけた。
東山魁夷に遅れること20年近く、39歳にしてようやく、ある絵画展に入選するが、そこから落選の日々が始まった。

独自の画風を貫いた画家・田中一村は、35歳のとき、絵だけではどうしても食べて行けず、板金工になる。
慣れない仕事。
体を壊し、喀血。
それでも、売れる絵を画こうとはせず、自分が画きたい絵だけを画いた。
相変わらず、中央画壇からは認められない。
孤独と貧窮。
痩せ細り、体力が落ちても、心は澄んでいた。
スケッチは、まるで写経のように増えていく。
南画で培った主観的な画風を変えたい。
自然を客観的に、ありのままに描けてこそ、自分の世界に辿り着ける、そう信じた。
50歳で、奄美に渡る。
パリを捨てタヒチに向かったゴーギャンのように、一村は、全てを捨て、南国の島を終の棲家とした。
日本画にはそぐわないとされた極彩色の風景。
心が躍る。
「これだ! これが画きたい!
赤はどこまでも赤で、黄色は誰にも負けないくらい黄色。
これでいいんだ。
全ての主張が強くても、ちゃんと調和を保っている。
自然は、すごい。
みんな悔いのない人生をおくっているように思える…」
田中一村は、何度落選しても画くことをやめなかった。
画くことで稼ぐこともせず、弱い体に鞭打って肉体労働で生活した。
悔いのない人生。
絵に憑りつかれた男は、絵を画くことでしか、幸福を得ることはできない。

【ON AIR LIST】
ワダツミの木 / 元ちとせ
SONG OF NO REGRETS / Sergio Mendes & Brasil '66
ELRABABA / Omar Sosa
花 / 中孝介

音声を聴く

今週のRECIPE

閉じる

霜降りひらたけと厚揚げの蒸し物 香港醤油ソース

栃木で多く生産されている、里芋を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと厚揚げの蒸し物 香港醤油ソース
カロリー
325kcal (1人分)
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 厚揚げ
  • 1/2枚
  • 里芋
  • 1個
  • 万能ねぎ
  • 1/5束
  • サラダ油
  • 大さじ4
  • 【A】水
  • 大さじ2
  • 【A】ナンプラー
  • 大さじ1/2
  • 【A】オイスターソース
  • 小さじ1/2
  • 【A】しょう油
  • 大さじ1/2
  • 【A】砂糖
  • 小さじ1/2
  • 【A】鶏ガラスープの素
  • 小さじ1
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。厚揚げは8等分に切り、さっと湯掻く。
  • 2.
  • 里芋は皮をむき輪切りにする。
  • 3.
  • 蒸し器で(1)は5分ほど、(2)は10分ほど蒸す。
  • 4.
  • 蒸しあがった(3)を皿に盛り付け、中央に小口切りにした万能ねぎを乗せ、熱したサラダ油をかける。仕上げに、混ぜ合わせた【A】を回しかける。
  • recipe LIST

閉じる

ARCHIVE

閉じる

RECIPE LIST

閉じる

番組へのメッセージ

閉じる

PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、「ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

閉じる

NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

閉じる