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今、私が最も気になる歌人・木下龍也さんをお迎えしてお送りしていきます。
今日のコードは「“All around you”~歌をつくるふたり~ 歌人・木下龍也さんを迎えて」です。

■今週のChordは““All around you”~歌をつくるふたり~ 歌人・木下龍也さんを迎えて”

ユーミン:今日のゲストをご紹介しましょう。現代短歌の未来をひらく歌人、木下龍也さんです!

木下:木下龍也です。引き続きよろしくお願いします。

ユーミン:今日のコードは、「“All around you”~歌をつくるふたり~」。
いま、私が最も気になる歌人・木下龍也さんをお迎えしてお送りしていきますが、このコードは、増刷され続けている、ナナロク社から発売中の木下さんの短歌集、『オール・アラウンド・ユー』に入っている1首から、拝借しました。
よければぜひ、ご紹介していただけますか?

木下:「詩の神に 所在を問えば ねむそうに All around you」。

ユーミン:先週ね、AIについて話をしているときに、“みんな歌をつくる背景も求めている”というような話が出たんですけれど、どういう状況でこの歌は思い付いたんですか?

木下:この歌をつくっている時期に、谷川俊太郎さんとお会いしたんです。詩や創作の話とか生活の話とか、ほかに他愛もない話をしているなかで、僕のなかでは谷川俊太郎さんは“詩の神”なんですけれども、谷川さんって、本当に身の回りのことをたくさん詩で書いていらっしゃる方なんです。
だからこそ、その詩を読んだときに共感したり納得させられたり、“こういう風には見ていなかった”という新しい視点をもらえると思うんです。多分、谷川さんにはいろんなものが詩に見えるんだろうなと思って。

ユーミン:上の句に「詩の神」と出てきます。

木下:“僕が書くとしたら、詩ってどこにあるんだろう”と考えたときに、谷川さんに聞いたら「あなたの周りにあるじゃない」と言われるだろうな、と思いながら書いてみた短歌です。

ユーミン:詩の神様は微笑むというか降りてくるというか、スルスルと31文字できちゃう、ということとかも多々あるんですか?

木下:それが・・・「ある」と言いたいんですけれど、ないんです。短歌を始めた当初はその感覚があったのも確かなんです。“思いつくものが最初から31文字になっている”みたいな時期もあったんです。
初期衝動みたいなものが尽きるとそれがなくなってきて、今は言葉は自分から迎えに行かないと来ないんです。昔は向こうから来てくれたのにな・・・と思いながら、今は迎えに行っている。

ユーミン:深く頷いています。「書くな」というようなことも書いていらっしゃるじゃないですか。文字にしちゃうとそこに閉じ込められるから、自由に自分の中で遊ばせておけって。

木下:そうですね。短歌のつくり方はいろいろあるんですけれど、短歌の核となるようなアイディアが思い浮かんだときにメモをしておくのもひとつの手なんですが、僕はあまりメモをしないようにしています。
僕は、映像とか静止画を頭のなかに思い浮かべながら、それを言葉にしていくという作業をすることが多いんです。メモで言葉にしてしまうと、固まってしまうので。

ユーミン:わかる、わかる。

木下:自由度が落ちちゃうので、“今日絶対に終わらせる”というときじゃないと書き始めないというか。ずっと考えているんですけど、それまでは言葉にするのがちょっと怖いというのがあります。

ユーミン:私も、“あ~、書かなきゃ良かった”ということはありますよ。

木下:固まっちゃう、という。

ユーミン:そうすると、ゼロの状態でスタートするよりも、修正する方が何十倍もエネルギーが必要だったりするから。そこの、何か出ているものを人は察知するんじゃないかなと思うんですよね。結果じゃなくて。

木下:「この人、苦しんだ」というものですか。

ユーミン:苦しそうな詩ということじゃなくて、ここに至るまでにものすごく歩き回ったんじゃないかなって。それはね、受け手は察知するような気がするんですよね。

木下:裏にあるものを。

ユーミン:それでは、木下さんに私の曲を選んでいただこうと思うんですけれど、何にしましょう?

木下:好きな曲はたくさんあるんですけれど、「やさしさに包まれたなら」という歌を選びました。

やさしさに包まれたなら / 荒井 由実

ユーミン:木下さんはどうしてこの曲を選んでくださったんですか?

木下:有名な曲過ぎると思うんですけれども、歌詞のなかに「目にうつる全てのことは メッセージ」という部分があって。本当に恐れ多いんですけど、最初に紹介させていただいた「All around you」というところに、何か自分も似たようなことを書いたなと思って。
ここが繋がっているところだなぁと思ったんですけれど、「目にうつる全てのことは メッセージ」の前が「カーテンを開いて 静かな木漏れ陽の やさしさに包まれたなら きっと」という(歌詞で)、幸福感みたいなものに包まれたときに、全てのものがメッセージに見えてくる、という意味だと受け取ったんです。
自分は逆のタイプだなと思って。自分は悲しいときやしんどいときに短歌をつくりやすいんですね。いつも見ているものが、悲しいときはその背景にストーリーが見えたりとか。

ユーミン:それは、補おうとする、ということですか?

木下:多分そうですね。心が何か不足を感じているときに詩で埋めたくなるということで、僕は「All around you」みたいな考えに至ったと思うんです。
ユーミンは満ち足りた状態でも詩が生める人なんだと思ったんですよ。

ユーミン:自分で、涙の種を探しに行ってますね。出てきたものはすごく幸せな歌も多いし、悲しい歌だとしても救いがあるようなものが多いんだけれど、なかなか自分で言うと照れますが、発狂のリスクを冒してもそこへ入っていくタイプですよ。だから、自分のなかは滅茶苦茶です。

木下:そうなんですね。

ユーミン:それを普通に見せることに快感を覚えているようなところがあって。わかりやすくない。
尖っていたり、病んでたりするんですけれど・・・木下さんも書いていらっしゃるじゃないですか。「普通であれ」「健康であれ」とか。”
まず、歌よりも自分が大事だ”って。それは同じように思いますよ。
人と接するのでも、エキセントリックに接しても何の得にもならないから、けっこう“良い人”でみんなに接しているんだけど、自分のなかでは滅茶苦茶です。

木下さんは、『天才による凡人のための短歌教室』という書籍を通じて、短歌をつくって歌人になる方法を伝授したり、『すごい短歌部』という書籍では、投稿された短歌の味わい方や、ご自身の短歌を推敲する過程を公開されたりしているんですけれど、短歌をつくりたい人や歌人を目指す人に「これだけは伝えたい」ことを教えてください。

木下:「短歌を好きであるためには、その人の心と体の状態がその人にとっての普通でないといけない」ということも書いてあるんですけれど、それが一番伝えたいことでもあります。創作を中心にしてしまうと生活というものがないがしろになりがちで、僕もそういう時期がありました。
当時関係性があった人とかが離れてしまったり、食事でいうとあまり食べなかったり、運動も全然せず、短歌ばかりやっているという時期がありました。
それは自分の中ではすごく楽しかったんですけれど、そうするとあまり長続きしないというか・・・身体も壊すし、人に嫌われるだろうし(笑)。

ユーミン:(笑)。

木下:そういうことがあったので、まずは生活というものを大事にして、創作優先というよりは生活を優先してそこに創作が付随してくるという方が、多分その人にとっても良いことが多いと思うんです。

ユーミン:そういうことを伺っていると、本当にリアルにそう思えます。あと、後輩たちにね、書籍を勧めたいですね。私はそういうことを言語化していないから。

木下:こういうものがあって、読んだ方は参考にできるところだけかいつまんでください、という気持ちです、今は。

ユーミン:では、最後に、木下さんがこれから挑戦してみたいことはありますか?

木下:「短歌の未来をひらく歌人」と紹介をいただいたんですけれど、短歌の未来をこれから担ってくのは今の子供たちだと思うんです。続けてもらわないと、ジャンルとして続かないので。
今もちょくちょく中学校とか高校に行って、短歌のつくり方をお伝えしたりしているんですが、その活動をもう少し増やしたり、短歌というものが選択肢のひとつにあるような環境作りなどをしていきたいなとずっと思っています。

ユーミン:ではここで、私が木下さんに聴いてほしい曲をお送りします。私も短歌で歌をつくったらどうなるんろう?と思ってつくった曲があるんですよ。聴いていただきたいと思います。

晩夏(ひとりの季節) / 荒井 由実

ユーミン:この曲は1976年リリースのアルバム『14番目の月』に収録されています。

木下:歌人だなと思いました。「春よ、来い」の歌詞が和歌という感じがするんですけれど、「晩夏」の方は現代短歌というか・・・うーん、すごい。
あと、歌人・・・僕なんかは、声の力、メロディーの力は使えないので、七五調になったものにユーミンの声とつくったメロディーが乗っているというのが、更に胸の深くまで沁み込みます。

ユーミン:あとね、演奏がキャラメルママなんですが、1音出ただけで、夏の温度とか匂いとかがサウンドでするんですよね。それが音楽の魔力かなと思ったりもします。

木下:何の曲でもそうですけど、ユーミンの発声の1音目からつかまれるんですよね。「ユーミンの領域が展開されました」みたいになるんですよね。

ユーミン:(笑)。それ、使わせてもらいます。「私の領域が展開されました」。

木下:本当に素晴らしい声だなと思います。

ユーミン:ありがとうございます。
それでは最後に、木下さんの今後の具体的な活動予定を教えてください。

木下:NHKのEテレ「NHK短歌」の選者になりまして、4月から放送が始まりますのでご覧いただければと思います。詳しい情報はこれからSNS等で発信していきますので、ぜひチェックしてください。

ユーミン:お互い日々精進ですよね、これからも。

木下:私こそ、もっと精進いたします(笑)。

ユーミン:(笑)。お会いしたかったので、楽しかったです。

木下:ありがとうございます。楽しかったです。

ユーミン:ゲストは歌人の木下龍也さんでした。どうもありがとうございました。

木下:ありがとうございました。

今日は、「“All around you”~歌をつくるふたり~」と、いうことで、現代短歌の未来をきりひらく、木下龍也さんをお迎えしてお話を伺いました。

ふだん、なかなかお会いできない「歌人」。
しかも、かつて、教科書に載っていた人たちと違って、同時代を生きる現代歌人・木下さん。
作品と実像がすごくすんなり溶け合って、より歌集が素晴らしいなと思いました。

短歌とポップスは、親戚のような関係かもしれません。それに後輩たちにいろいろ話を聞いても・・・自分自身もそうなんですけど、メロディーより、むしろ歌詞にすごくみんな苦労していている。日本語と格闘している者同士のシンパシーみたいなものも、とっても感じました。

そして私は、毎日バナナを食べるたびに、木下さんにつくってもらった短歌を、胸のなかで口ずさみます。
これは先週いただいたものですが、私のために書いてくださった直筆の短歌です。もう一度、読みます。

「1日を 駆け抜けるため 私から 私へ渡す 黄色いバトン」

木下さん、「あなたのための短歌集」パートⅡをつくる際は、ご連絡ください!掲載、許可させていただきます!

そのほか、私の最新情報や近況は、私の公式ホームページツイッター改め「X」Facebookインスタグラムなどでお知らせしています。
ぜひ、チェックしてみてくださいね。

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やさしさに包まれたなら

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