ボーダーや既成概念にとらわれない”ものづくり”

諏訪 敦彦さん(映画監督)×世武裕子/sébuhirokoさん(映画音楽作曲家、シンガー・ソングライター)

2018

02.04

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フランス人スタッフとキャストを起用し、フランスで撮影した作品を発表している諏訪監督。そして、パリで映画音楽を学んで帰国された世武さん。おふたりは、「フランス」という国を、どのように捉えているのでしょうか。

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諏訪
フランスでやることと日本でやることはずいぶん違いますか?

世武
自分の問題でもあるんですけど、フランス人と話している時と日本人と話している時との遠慮具体が違うんですよ。

諏訪
それは違いますね。

世武
相手がフランス人なら何を言ってもOKではないけど、喧嘩したところで翌朝にはけろっとしている。

諏訪
むしろ同調することを避けたいというか、日本だとまず同調しないと次がないというのはあるけど、フランスの場合は簡単に同意したらダメだよね。

世武
そういう傾向もありますね。はじめの入りが日本と真逆ですよね。とりあえず同じようなところにいながら、そこはそう思いませんと言っていくのが日本だけど、フランスはわたしはこういうアイディアがありますと、そのおもしろさで食いついてもらったりもあるので。

諏訪
おもしろかったのが、『ユキとニナ』という映画を撮った時に8歳の女の子、ユキちゃんはハーフでバイリンガルなんだけど、フランス語でしゃべっている時は、本当によく話すフランス人、でも、日本のロケで日本語で話す時は急におしとやかになって、身のこのなしまで日本人になってしまって、言葉は、その人を作るんだなぁと思いました。僕はフランス語がしゃべれないのでその分単純になる。日本語だとニュアンスを相手に読み取ってもらうみたいなコミュニケーションになってしまうけど、とりあえず自分の考えていることをできるだけ単純化してしゃべれないといけないので、むしろ楽というのもありますよね。

世武
監督と以前、どこにも属さないのが似ているみたいなことを話したことがあって、結果的に属せないというか、どこにいるのかわからない、そういう立ち位置にあるという話を思い出しました。それは商業的な近道としては遠いかもしれないけど、作品を残していくものとしては、肯定したいです。

諏訪
世武さんの音楽も”こういう音楽ね”とか簡単に所属が言えない、ジャンルや名前をつけないと人は理解できないというか、それがあれば、安心するみたいなところもあるけど、どういう映画をやりたいというよりも、単純に映画をやりたいだけで、それをはっきりさせないと人は安心しないみたいなところがありますよね。どこにいっても部外者で扱われて、それは比較的心地いい、と言うか、それでいて、自分は常にどこかの中心にいてホームがないというか、それは作ることにおいていいことなんじゃないかなと思います。世武さんも苦労されていることもあるんじゃないかなと思うんですけど。

世武
去年くらいからですね、これ居心地いいなと思ったのは。どこにも属さないからある意味自由がきいて、わたしがこれをやりたいからというのをみんなが、「それは世武がやりたいのだからいいんじゃない」と言ってくれるようになって、そこにいくまでわたしは時間がかかったというのがあって、監督は最初からあまり気にしていませんでした?

諏訪
どこかの業界に属しているのが嫌だったのは確かですね。そこに属すると外側と切れてしまう、なんで日本で撮れないのかは物理的な問題もあるんですけど

世武
仮に日本で撮ったらと言われたら日本で撮りたいものはあるんですか? 

諏訪
いや。どこでもいいんですよ。映画を撮っている人はある条件が整って、例えば、モスクワで撮らない?と言われたら撮るでしよ。

世武
それは音楽と違う。音楽は、そこの場所に行って、インスピレーションされることも多少影響してくるものの、どこでも出来て、どこでもある程度は一緒。

諏訪
映画は、チームプレイなのでサッカーと同じで所属チームがないとプレイできない。最近、フランスは自分のホームになっているなという気がします。


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子どもたちから学ぶこと


現在公開中の諏訪監督、最新作『ライオンは今夜死ぬ』は、ワークショップを通じて選ばれたフランスの子どもたちが、名優ジャン=ピエール・レオーと共演。一緒に映画を作りながら、心を通わせていく物語になっています。近年、諏訪監督は、映画の中と同じように子供と映画に関わる「こども映画教室」の講師を務め、力を注いでいらっしゃいます。

世武
「こども映画教室」は、参加するきっかけはあったんですか?

諏訪
きっかけは頼まれたら(笑)。子どもの映画がおもしろいんですよと言われて見たんだけど、その時は、そんなおもしろいかな?と思ったんですよ。結局、子どもが作った映画は普通の映画のように見ていてもわからないんですよ、何がおもしろいのか。普通の映画はどう作られたとか関係なく、作品だけぽんと放り出して、誰が観てもわかるようにおもしろさが作られているんだけど、子どものは、どう作られたとか子どもたちが何をしたかとか、制作のドキュメントの部分を知らないとおもしろさは見えてこないんですね。やってみるとかなりおもしろいんですよ。別に彼らのためにとか、映画界をよくしようとかいう気持ちはなくて、自分のためにやってると言ってもいいですけど。子どもたちが映画を発見していくプロセスがおもしろいというか、それによって自分が気づくことがあるからやっているんだけど、ただ思うのは、今の子どもたちは正解がないことに、取り組むことがほとんどないんですよね。何やってもいいだよみたいなことを経験していないんですよね。映画にできることとしては彼らがそこで何かを自由に表現することが経験できれば何か彼らにとってプラスになるかなという気持ちでやっていますけどね。世武さんは音楽を教えるとかには関心ないんですか?

世武
それが今年、美学校で映画音楽の作曲を教えるんですが、わたし教えることダメだから。

諏訪
ダメと思っている人がやったほうがいいですよ。

世武
じゃ、やったほうがいいんです。「なんで出来ないの?」と言ってしまうタイプなんですよ。

諏訪
わからないことがわからないというね。

世武
不安だったんですが、今、勇気付けられました。

諏訪
教育は何かを教えていくという感覚は僕もないのね、ただ学生の特権は、いろんなものにとらわれないで、自分の追求ができる時だから、そこに一緒に付き合っている、自分も探求者だし、あなたも探求者、という関係でいいのではないかと。それが許されているのが学校だから。学校はむしろ、そのことをやらないといけないと思うんですよね。こんな映画、普通作らないですね、というのを作るべきだし、こんな音楽やっていいのかなというのを、「もちろんやっていいです」と言えるのが良さではないかなと思うんですけどね。


諏訪敦彦監督最新作『ライオンは今夜死ぬ』は、1月20日より、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次公開。

世武裕子さんが音楽を手掛けた映画『リバーズ・エッジ』は、
2月16日よりTOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー。

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