世界で評価!3度目のタッグで完成した「スパイの妻」

黒沢清(映画監督)×蒼井優(女優)

2020

09.25

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大学時代から8ミリ映画を撮り始め、1997年の作品『CURE キュア』で世界的な注目を集めた黒沢監督。その後も『ニンゲン合格』、『カリスマ』、『トウキョウソナタ』や『クリーピー 偽りの隣人』など数々の作品を手掛ける日本を代表するフィルムメーカーです。モダンホラーの鬼才として評価されるだけではなく、揺れ動く人物像を丁寧に描くのが黒沢作品の特徴。そして先日、最新作「スパイの妻」が、ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門において、最優秀監督賞の銀獅子賞を受賞しました。

意外な出会い



黒沢
最初にお会いしたのが、もう10年近く前だと思うんですけど、「贖罪」というWOWOW のテレビドラマの時に、5つのパートに分かれ、5人の主人公の女性がいる、その第1話を蒼井さんにお願いしました。映画やドラマでは、たいてい撮影前にお祓いをするのですが、その席で蒼井さんが急に話しかけてきて、なんでもない雑談をした記憶があって、ごく自然に受け答えをしたと思うんですけど、お祓いが終わってから、はっと思ったのは、少なくても初めて一緒に仕事をする俳優さんにお祓いの席で雑談をしたのは初めてだな。なんで僕もそれに対して何気なく受け答えできたんだろうとすごく不思議だった記憶があるんですけど、覚えていますか?

蒼井
待合室みたいなところでしたかね。なんでわたしもそんなところで監督に話しかけたんだろう。

黒沢
初めてですから、監督の方から気を使って、あるいは監督のキャラクターによってはズケズケと物を言ったり、面白いことを言って和まそうとする監督はいらっしゃると思いますけど、僕そういうのは全くできないタイプなので、カチカチに緊張して、もじもじしていただけだと思うけど、珍しいことに俳優の方から監督に話しかけてきた。

蒼井
わたしも普段やらないです。なんでだろう。緊張しすぎて拠り所がなかったんですかね。

黒沢
あまりに僕が心細そうにしていたからかもしれないですけど、この俳優はいきなり監督の隙を見て突如話しかけて、その懐に飛び込むとかいろいろ思ったんですが、いつもそうしているわけではないんですね。

蒼井
全然(笑)。ご迷惑をおかけしました。わたしは、わー黒沢さんだ!と衣装合わせの時に思って、でも緊張しすぎてるのか、もう古い記憶だからあんまり覚えていなくて、でも撮影中のことをすごく覚えてます。お会いする度にどんどん目の血管が切れていかれて、「大丈夫ですか」って伺ったら「前日に翌日、撮影する分のカメラワークを5パターンぐらい考えて、よく考えすぎて目の血管が撮影中に切れるんです」っておっしゃって、すごいなと思ったのを覚えてます。覚えています?

黒沢
途中から眼帯していた記憶があるんですけど、たまになるんですね。若い頃は、そんなことなかったんですけど年を取ってくるとストレスが目にくると言うんですか。ただ数日で治るんですけど、現場では痛々しいですよね。近年治ったんですけど、あのあたり必ず撮影の途中で目がおかしくなる経験して、見られちゃいましたね。蒼井さんの時だけすごい緊張してたのかしらね。

蒼井
第1話だったから。

黒沢
それも大きかったかもしれませんね。最初だったので、それなりにいつも緊張するんですけどね。あの時は目にきましたよね。


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圧倒的な信頼



10月16日から公開になる映画「スパイの妻」。時代は太平洋戦争前夜。満州で偶然、恐ろしい国家機密を知ってしまった、高橋一生さん演じる優作。彼は、正義のため、事の顛末を世に知らしめようとします。一方、蒼井さん演じる聡子は、反逆者と疑われる夫を信じ、スパイの妻と罵られようとも、愛する夫とともに生きることを心に誓うというストーリーです。

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黒沢
脚本を書いている段階では、この俳優と決めずにいつも書いてるんです。決めると、その人でないとしっくりこなくなったり、たまたまスケジュールが合わないとか、俳優の方で脚本を気に入ってくれるかどうかわからないわけですから、こっちから絶対決めないようにしていつも書いてるんです。出来上がってから、誰にしましょうかとなった時に、やっぱり蒼井さんがまっ先に浮かびました。しかし、スケジュールもありますし、もし受けてくれたら嬉しいなと思い、ソワソワしながら期待していたんですけど、気持ちよく受けていただいたということで、ほっとしました。やっぱり最大の決め手はお芝居に対しても圧倒的に信頼しているということと、経験的にももちろんバリバリの現代をやられつつ、時には古い時代劇といろいろ多才にやっておられて、しかも舞台もやってらっしゃるから、現実のある生々しさと少し違うフィクションの世界を演じることにかけては、かなりの経験も技術を持っていらっしゃるだろうというのは予想できたのでお願い致しました。

蒼井
ありがとうございます。一番、最初にご一緒したのが、ドラマの1時間分の撮影で、次に出させて頂いた「岸辺の旅」は、ワンシーンだけの出演で半日だったので、いつか長い時間、黒沢組にいてみたいなと思っていたので、とても嬉しくて、やりたいとすぐに思ったんですけど、実際にお引き受けして、セリフを読むことになったら、難しいセリフが多くて、ぞっとしましたけど、相手は一生さんだし、黒沢さんだし大丈夫だと思いながらやっていました。

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映画「スパイの妻」は、10 月16日より 新宿ピカデリーほか全国ロードショーになります。


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