木村拓哉 Flow supported by Spotify - TOKYO FM 80.0MHz - 木村拓哉

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2025年11月16日Flow 第三百八十一回目「拓哉キャプテン × 倍賞千恵子」Part2

今月のマンスリーゲストは、11月21日に公開される映画「TOKYOタクシー」で共演させていただいた、倍賞千恵子さんです。
今週はどんなトークになるのか? お楽しみに!


木村:怖い情報が載ってるんですけど、映画デビューした1961年。1年に9本(映画を)撮ってるんですよ?

倍賞:13本の時もある。

木村:翌年の1962年が13本です。1年ですよ?

倍賞:そう。ものすごい忙しかった。

木村:1年って12ヶ月ですからね。なのに1年間に13本に出演されて、で、翌年の1963年も、1年で11本。

倍賞:そう。すごかったな〜。
なんかね、台本を3冊ぐらい持って、午前中に春子さんやって、午後に秋子さんやって、夜は冬子さん、みたいな。乱暴な言い方だけど、そういう感じで「いつ寝るの?」って思って、もう車に乗ったら寝る、っていう。それと、お弁当食べる。
朝なんか、母が作ってくれた味噌汁とおにぎり持って車に乗って、それを食べると寝て、気がついたら撮影所にいて。っていう時があったね。

木村:でも、そういう状況に追い込まれた時に、「もうあたし、嫌!」っていうような…。

倍賞:あった。

木村:あったんですか?

倍賞:うん。だって、楽しみなんて何もないし(笑)。初めて映画に入った時も、暗いスタジオの中に入って、「はい、そこに立ってください」って言われて、「はい、ここ見てね。ここ木村くんだからね。木村くんの目だと思ってセリフを言ってください」って言われて。で、セリフを言うと、「今度はこっち向いて」って言われて。最初はそれが嫌で嫌でたまらなかったもん。
3冊ぐらい台本持ってやってる時はそういうふうにもういっぱいになっちゃって、「私は誰なんだろう?」っていう感じで(笑)。

木村:でも、その3冊っていうのは、引き出しを替えて、ちゃんと入れてかれるんですよね。

倍賞:そうね。でも、私は「珍しい役者」って言われて松竹に入ったの。私が入った頃は、岡田茉莉子さんとか、久我美子さんとか、有馬稲子さんとか、大輪の花の女優さんがスターって言われるところに、突然コンクリートの間からぽっと出てきたすみれの花みたいな、ちょこっとしたのが、ぱっと撮影所に行ったから、ものすごく珍しがられて。
山田さんがいつか言ってたんだけど、「君は本当に珍しい形で撮影所に来たんだよ」って言われて(笑)。いろんな監督さんが使いたがってたんですって。私、全然そういうの知らないけどね。
それで、そういうふうに1日中違う役を何人もやっちゃって。1作目は大阪から家出してきた女の子だったんだけど、私は、そういう、何となく庶民とか、「何かこんなところからこういう女の子が出てきてスターになっちゃったよ」って言われるような状態だったみたい。

木村:ザッツ・シンデレラですよ。リアル・シンデレラ。

倍賞:そうそう。そんな感じ。
そんなふうに、全く今までいなかったタイプの子が芝居をしてるっていうんで、それで大体基本はそういう庶民の中にいる、民の中にいる役が多かったわね。

木村:でもだからこそ、きっと客席にいらっしゃる方たちも、どこか自分たちの空気感に一瞬「あれ? こういう人いるかも…」、「どこに行ったら会えるんだろう?」みたいな、そういう感覚だったのかもしれないですよね。だって他の方たちって、もう「あら、ごきげんよう」っていう。
僕が今倍賞さんのお話を伺った上で想像するのは、同じヤカンに入ってた麦茶とかを、一緒になって「美味しい」って飲んでいそうな存在感だったんじゃないかな。

倍賞:だから、そういう感じで珍しがられて入ってきた、っていう感じだったのかな。
それで2年目ぐらいに「下町の太陽」っていう歌を歌って。私が映画に入った頃って、「歌がヒットすると映画化される」っていう時代だったのね。

木村:歌を映画化する。

倍賞:私の歌った「下町の太陽」っていう歌が、レコード大賞の新人賞をいただいて、それがヒットして、松竹で映画化されるっていうことになった時に、山田さんがその脚本と監督をなさって。そこで初めて山田さんとお仕事したんだけど、その中でも、何となくその辺にいるような女の子が、チャキチャキパキパキものを言って、兄弟、おじいちゃんを抱えて、仕事をして働きながら生きてる女の子、みたいな、そういう役が多くて。
それが「下町の太陽」で、私自身も「ああ、俳優になったのかな」っていう気になった作品でもあったし、とても大事な私の作品って言うか、役者として「こういうところで生きてくんだな」っていうのがわかったような作品でもあったし。

木村:でも山田監督って、さっきお話されてた「はい、ここを見て。ここを誰かだと思って、行くよ」ってやってた撮影方法じゃなさそうですもんね。本当にその人をカメラ横でずっとご覧になって。
だから、きっと「私、俳優かもしれない」って思えるきっかけとして、山田監督の作り方も大きそうですね。

倍賞:うん。そう。

木村:山田監督は、今でも、当時からもそうなんですよね。きっとカメラ横で、ご自身の目で、本人を見て。

倍賞:そう。前正面にカメラがあると、必ずこっち側かこっち側に山田さんがいて、「男はつらいよ」の最初の頃、(カメラマンの)高羽哲夫さんイコール山田さん、って、こういう感じで、俳優さんから見るとそんなふうな感じで見えた。遠くにいないの。カメラのすぐ傍にいて。

木村:もう、おんぶされてんじゃねえかな、っていうぐらいの距離感で。

倍賞:うん。

木村:そうか。その時からずっとご一緒して、「男はつらいよ」が始まり。
いや、すごいな。(「TOKYOタクシー」で)舞台挨拶とか、何回かやらせていただいたじゃないですか。あと、プロデューサーのお宅にお邪魔して一緒にお食事したりとか。倍賞さんからしたら、ここに山田監督がいる、っていうことは、全然特別な感じはしないですよね。

倍賞:うん。

木村:その、「うん」って言う温度が、多分全ての答えだと思うんですけど(笑)。
ちょっと自分はいまだに、「山田監督がいらっしゃいました」とか、「こちらに山田監督がいらっしゃってます」みたいなことを伺うと、完全にどっちかに体重が乗ってた自分が、一瞬真ん中に戻るっていう感じがあるんですけど。

倍賞:いや、そういうのはあるけど。

木村:あります?

倍賞:そういうのはありますよ。ちょっとは思うけども、でも一緒にいて何かをするっていうのは全然違和感がなくて。山田さんは話をするのに自分たちの方に下がってきてくれるのかな? そして一緒の目線でいろんなものを見て、いろんな話をしてくれるから。

木村:なるほど。
いやでも、今冷静に自分で発言しながらふって思ったんですけど、松竹さんの映画ですけど、僕がクランクインしたのが世田谷の東宝スタジオだったんですよ。

倍賞:あ、そうだ。自宅から入ったもんね。

木村:はい、自宅のシーンで。で、本読みも東宝でやったじゃないですか。それで、「倍賞さんと一緒にタクシーの車内の撮影します」って言って東映に行くんですよ。皆は普通に聞こえると思うんですけど、すごい不思議なんですよ。“松竹さん”っていう車のメーカーさんが、“東宝さん”っていう工場にも行き、“東映さん”っていうところでもパーツを組み、「出来ました!」っていう時は“松竹さん”っていうところから車を出す、みたいな。だから山田監督じゃないと、多分それ成立しないと思うんですよ。

倍賞:そうだね。でも、ずいぶん前からそうだしね。松竹の撮影所がなくなっちゃったから。

木村:そっか…。
今回の「TOKYOタクシー」でも、すみれさんに初めてタクシーの車両に乗っていただいた場所が、柴又の帝釈天だったんですけど。それこそ「男はつらいよ」でもう何十回と通われてると思いますけど、倍賞さんにとって(柴又は)どんな町ですか?

倍賞:1年に一度は帰る、実家かな(笑)。必ず帰る実家。

木村:ホーム。

倍賞:うん。生まれたところであるような気もするし。私も28歳ぐらいの時だったから、その当時の祭りの時にまといを振ってた青年たちが、今、高木屋さんとか大和屋さんの、一家を支える親父さんになってるの。で、「あのさ、あちこち悪くなってさ」って、会うたびにそういう話をして(笑)。だから、同級生がいる、みたいなところもあるし。実家に帰るとそういう同級生に会える、みたいな感じがする。そういう町かな。

木村:あの町はやっぱりすごい不思議ですよね。特に山田組としてお邪魔させていただくと、もう本当に町全体が…、あれは何だろう?

倍賞:皆さん、手を広げて待っててくださってね。もうお昼なんか、いつも「これ絶対食べきれませんよ」って言うんだけども、本当にいろいろ作ってくださって。「まぁまぁまぁまぁ」って言って、ものすごい贅沢なお昼をご馳走になる、実家(笑)。

木村:(笑)。
今、“撮影”っていうカテゴリーで「ロケをしますよ」ってなると、都内って多分相当厳しくなったはずなんですよ。あの柴又・帝釈天っていう町に関しては、「は?」っていう逆の世界観って言うか、「どこの誰が断った? 何言ってんだよ」みたいな。「いいから、上がって草だんご食ってきな」っていう、何かそういう感じがすごいするんですよね。
だから僕も1作だけ監督とご一緒させていただいて、ちらっとお邪魔させていただくと、皆さん、「あら! 寄っていきなさいよ」みたいな(笑)。

倍賞:そうそう(笑)。「上がってきなさいよ」、「お茶飲みなさいよ」、「何、上がらないの?」みたいなね。

木村:だから、すごい不思議な感じで。今回も、皆さん温かく接してくださいましたね。

[OA曲]
なし

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