川上弘美の今とこれから
翌1996年に「蛇を踏む」で第115回芥川龍之介賞を受賞した。
「たくさんの方が芥川賞を取ると読んでくださるんですよ。桁違いに2桁か、3桁ぐらい違う方々が、蛇を踏むを読んでくださって。でも、その時に、あの編集者の方に言われたのは、今これは芥川賞だから売れるけれども、この先ずっとやっていくためには何て言うか、地道に一作一作、全身全霊を込めて書かないとだめだよって言われて、これは一時のことなので続けることが難しいんだよっていう風に言われました」
そして、2007年の第137回 芥川賞選考会から、
川上弘美は選考委員として参加している。
「選ぶ方が何かあのよくわかってるっていう風なもしかしたら印象を皆さん持ってらっしゃるかもしれないんですけど。選ぶ方は何にも全然偉くないんだなっていうのは、実感ですね。別に謙遜してるわけじゃなくて、読むと私これ書けないわってはっきり思います。どの作品も。よくみんな、こんなちゃんとしたものかくあって感心するばっかりです。嫌な謙遜に聞こえるかもしれないんですけど、はっきり言って書けませんね。だって自分と違う才能 自分と違う文体。自分と違う内容。それもたくさんの候補作読んできて、ですから、ちょっとなんて言うのかな?自分もとにかく同等です、そこは。自分と選ぶ方と選ばれる方は、もうみんなプロですから。本当は同等なんですよ」
そんな川上弘美が今、力を入れているのが
50代を超えてから始めた大人バレエ。
「ずっと隠していたんですけど恥ずかしくて。でも最近はもう言いまくっていて。あの 私、バレエ漫画を読んで育った。あらゆるバレエ漫画が大好きで素敵で、バレエを見るのも好きですし。でも自分がやろうとは夢にも思いませんでしたね」
そのきっかけとは?
「50代になったぐらいのある時、歩いてたら何にもないとこでつまづいたんです。これこのまま行くとどうするんだろう? なんか、運動しなきゃと思ったんですけど。それから何年もジムとか行きたくないしって思ってたら、ある日家にチラシが入って。で早速行って、そしたら若い方もいらっしゃれば、もっと年上の方もいらっしゃる。最初はゆっくりバレエっていう。バレエっていうよりも ストレッチから始まる。そうやってだんだんだんだんはまっていって、もう大変ですよ本当に」
体を動かすということは、書くことにおいても影響しているのか?
「体を動かすようになって初めて、筋肉っていうものについて書きました。バレエを始めるとジムにも行ったりするので、筋肉がつくと嬉しいっていう気持ちが初めてわかったんですけど、お話の中に筋肉の美しい男っていうのが出てきて、自分ながら嬉しいと。こんな人は書いたことがなかったと思いましたね」
小説家デビューから30年。
ここまで走ってこられた理由とは?
「やっぱり、あの全然先のことを考えずに、その時やってることだけ1個クリアして、何とかクリアするってことだけ考えてきた気がしますね」
川上弘美は10年先、どんな自分でありたいのか?
「正直言うと全然わからないし、あんまりありたいってことを考えないでいたいなっていう気もするんですよ。でも、やっぱり考えるとしたら、自分の個人的な思いを伝えるためではなくて、書いている小説自身の持つ想いを表現するために言葉を使い続けていられたらなっていうふうには思います。なんか、私ではなくて。なんか世界と一緒になるみたいな、そんなちょっと年いってそんな風な境地を目指したいなっていう風には感じるようになってきました」