今の職業は天職か?!

芦田多恵(ファッションデザイナー)×柄本弾(バレエダンサー)

2021

06.11

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ファッションデザイナーとバレエダンサー。それぞれ、表現者としてどのようにご自身の仕事と向き合っているのでしょうか。

100%で踊らない



柄本
服作りでは、どういうタイミングでインスピレーションが湧くのですか?ダンサーは過去の作品を伝承していくことはあるのですが、昔のデザインを同じまま出すわけにもいかないと思うので、常に新しいことを模索されていると思うんですけど、こういう時にパッと新作のイメージが出てくるとかありますか?

芦田
私もわかんないんですよ(笑)。どういう時なのか本当わからなくて、ただ洋服は、生活や時代の中で着ていくものなので、いろんな要素が盛り込まれて、新しいものが生まれてくるような気がしているんですね。例えば、ファッションの中の価値観は、本当に変わってくるので、そこが重要で、デザインよりもファッションの中でのバリューは今、何だろうと常に模索しているかもしれないですね。だから、そういうことを考えている中で、それがデザインとなって表現している感じなのかな。でも自分でもよく分からなくて、自分のことが一番よくわかってない。

柄本
例えば、料理を作っている時にいきなり、これいいな、ちょっとスケッチしようとかあるんですか?

芦田
私は、形にする、デザインにする行為は机の上でやるので、普段、いろんなことを考えていて、点みたいなものが一つの線になるみたいな。だけど絡まった紐が解けるひらめきみたいなことは、階段を登っている途中にハッと閃いたりはありますね。

柄本
でもその閃いた時に書き留めるものがなかったりしたら、ちょっと焦ったりしないのですか?

芦田
絶対に忘れないと思って、メモらずにいて、少し経ってから、忘れてしまい、描いておけばよかったというのはありますけど、その閃きは具体的なデザインというよりは考え方であったり、ざっくりしたアイデアだったりするんです。でもバレエダンサーは踊っている時の集中力が、凄いじゃないですか、その一糸乱れぬ完璧さを目指すには、何が一番重要ですか?

柄本
もちろん集中力は、すごく大事ですし、本番までに反復練習を何回もやるのも大事だと思うんですけど、いかに本番に緊張しすぎないかが、すごく大事にしていると言うか、

芦田
緊張してないの?

柄本
本番が始まる前はものすごい緊張して、プルプル震えるぐらい緊張しいなんですけど、始まると開き直れて、自分の中で冷静な自分がいると言うか、周りのダンサーのことがよく見えたりします。100%で踊ると逆に何か細かいことがあった時に、機転がきかなくて、崩れていくパターンが今まであったりもしたので、語弊があるかもしれないけど100%では踊らないと言うか、それぐらいの方がいいパフォーマンスが出せますね。


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本気になったタイミング



芦田多恵さんのお父様といえば、上皇后美智子さまの専属デザイナーも務めた芦田淳さん。日本を代表するファッションデザイナーの元に生まれた多恵さんにとって、ファッションとはどんな存在だったのでしょうか?

柄本
多恵さんは、お父さんがデザイナーで、生まれた時からファッションが身近にあったと思うんですけど、ファッション以外の道を考えられたことはありました?

芦田
私、本当に特殊な家庭に生まれていまして、父も母もファッションデザイナーだったんですけど、実は母に洗脳されてまして(笑)。当時、私がまだ小さい時は、ファッションがものすごく新しい文化という時代だったと思うので、両親、特に母はとても忙しかったらしくて、必ず、枕元で「早く大きくなってファッションデザイナーになりなさい」とずっと呟かれていたんですよ。そういうこともあって、物心がついた頃からファッションデザイナーになると思っていたけれど、大学2年の時にちょっと写真を撮り始めたんですね。アメリカの美術大学で、1年に4週間だけ自分の専門外の勉強する時に、とある巨匠のフォトグラファーの先生にたまたまお会いする機会があって、作品を見せたら、「ものすごい才能があるから、絶対にこの道に進んだ方がいい」と太鼓判を押していただいたのですよ。それでちょっと有頂天になって、目指していたのはファッションデザイナーだったけれども、実は私はフォトグラファーに向いているのかと思ったんです。本気で専攻を変えようかなと思っていたら、先生が「もう一つ作品を作って見せてくれ」と言ってくださって、すぐお送りしたんですね。そしたらその先生が一言「前の作品の方がよかった」。それで有頂天になっていたものが一瞬にして、やっぱり私はファッションデザイナーを目指さないといけないんだと思ったことは一度だけあります。弾さんはバレエダンサーを目指したのは何歳の時でした?

柄本
僕自身はバレエを始めたのは5歳の時からですけど、水泳や野球とかいろんなスポーツをやらせてもらっていたんです。バレエ以外の道に進みたいって思ったことは一度もないのですが、バレエに本気になったタイミングが高校2年生になる直前ぐらいのタイミングで遅かったんです。同年代の男の子たちがすごい上手なことにその時に気づいて、これだとプロになれないと思ったので、そこからもバレエ一筋。もうちょっと早ければと今更になって思うんですけど、小さい時から学んで、プロになったダンサーが多いので、自分の中でそういうところで自信がないのもまだまだありますし、未だにダンサーとして自分が天職なのかと問われると。ちょっとどうなのかな・・・。

芦田
完全に天職です!


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柄本さんが所属する東京バレエ団では、全国ツアー HOPE JAPAN 2021 -東日本大震災10年 コロナ禍復興プロジェクトを開催。東京公演は、7月3日(土)と7月4日(日)に上野にある東京文化会館で行われます。

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