ちょっとした意識で変えられる

松本千登世(ビューティエディター、ライター)×高尾美穂(産婦人科医)

2023

08.18

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良い状態を維持することは、周りにもいい影響を与える



「美容」と聞くと、女性たちのもの!というイメージがありますが最近では、その状況も変化してきているようです。

松本
最近よく聞くんですけれども、コロナでリモートが増えて男性の方たちが、しかも40〜50代の方たちが、自分が初めてどう見えているのかを画面で見て、こんなに不機嫌そうな顔をしているんだとか、こんなに疲れた顔をしているんだということに気づかれたらしくて、それをきっかけに美容を始めたという人が多いんです。若い男性たちがメイクやスキンケアをするのはもちろん聞いていましたし、それはもう大歓迎と思っていましたけれども、そういう意味では、同世代の男性たちも初めて社会の中で人との関係の中で自分がどう見えてどう気持ちに作用しているのかを知るというか、とても美容における平等というか、こういうことだなとすごく気づかされました。

高尾
本当に大事ですよね。よく思うんですけど、社会の中で自分が良い状態でいることは、自分のためだけじゃないんですよね。女性であればすごくわかりやすくて、例えば、お母さんがご機嫌な状態は、お子さんにとったらすごくハッピーだし、奥さんっていう呼び方もちょっとあれかもしれないんですけれども、前向きな毎日であればご主人もきっと幸せですよね。一緒に働く方がご機嫌であれば、周りもすごく幸せで、自分が良い状態を維持することは自分のためだけじゃないと思っていただけるといいなと女性に対して私本当よく思っていたんですけど、男性も本当におっしゃる通りですね。例えば男性だったら、それこそちょっと自分の汗をかいた臭いが気になるとか、そういう方もいらっしゃるでしょうし、お顔も髭剃り後が気になるとか、きっとそんなことに初めて気がついたのかもしれないですよね。

松本
そうかもしれないですよね。こんなに不機嫌そうな顔をしていたら、そりゃ怖がられるみたいな。

高尾
声を掛けにくいよねとか。

松本
もうちょっと元気そうだったら、もっと声をかけやすいと思ったのだとしたら、すごく素敵な美容の効果だな。

高尾
おっしゃる通りだと思います。自分が周りにどう見えているか、それは確かにあんまり気づく機会がないので女性は鏡を見て、ご自身の状態を確認する。例えば生理中だったら確かに私が見ると、土色っていう表現が合うお顔の色だったりするんですよね。そういったことにご自身で気付ける方もいらっしゃれば、あんまり気付けてない方もいるけれども、男性はもっともっと気づく機会がきっとないですもんね。なんとなく、さっと鏡見て。

松本
寝癖を直すみたいな。そういう意味では私たち女性も、例えばアンチエイジングって今はちょっとそういう言葉もあまり言わなくなりましたけれども、利用の目的が若々しく見せたいとか、何かそっちに寄り過ぎるのも私はちょっと健康的ではないのかなとも思ったりしていて、もう少し男性たちが言った不機嫌そうに見えるから疲れてないような顔にしたいとかそういうことに私たちも立ち戻ってもいいかな。ちょっと教えられた気にもなりました。

高尾
年齢相応というのは本当に素敵な言葉だと私は思っていて、やっぱり年齢を重ねなくては経験できなかったこととか学べなかったことは、間違いなくあって、だから20代の私ではなく、今の私が言えることがあるんだよねと私は思うタイプですけども、でも比例して老けて見えるという表現を特に女性は嫌うじゃないですか。でもこの老けて見えるというのが、例えばお肌の課題だけではなくて、よく思うのが、姿勢ですよ。

松本
ほんとですね。

高尾
本当に、老けて見える、まず1番目が多分、背骨のカーブですよね。背中が丸くなっている状態が、いかに目線が落ちて、自信がなく見えて、さらには呼吸をする時にも背中が丸まっていれば肺が膨らみにくいわけですよ。浅い呼吸は、換気量が少ないですから。何回も呼吸をしなきゃいけない状態。この呼吸の回数は、1分間に少ない方で12回ぐらい、多い方だと20回ぐらいと言われているんですけども、この1分間の呼吸の回数を6回ぐらいに減らすだけで、実は自律神経活動が副交感神経優位になるとわかっていて、つまり、呼吸の回数を少なくするだけで、リラックスできちゃうんですよね。背中が丸いと自然と呼吸が浅いから、呼吸の回数が増えて、リラックスしにくい状態をいわば自分で作っている。ただ老けて見えるというだけではなくて。

松本
見た目だけではないんですね。

高尾
しかも、これ男の人にも当てはまるんですけど、胸をしっかりと相手に見せている状態は、血液中のテストステロン、男性ホルモンの値が上がることもわかっているんですよ。自分がちゃんと相手に見られていい状態のことですよね。

松本
自信が巡る。

高尾
そういうイメージ。テストステロンは、男性にとっては、やる気のホルモンとも言いますし、ちょっと戦闘態勢に入れる、さらには生活習慣病にならないように守ってくれるとか、それから、脳においては認知機能も司っています。だから、こういったことを考えると、ご自身のちょっとした意識で変えられる部分があるかもしれないですね。

松本
思えば、小学校のときに黒板の右側に書いてあったようなお風呂にはちゃんと入ってくださいとか、背筋はちゃんと伸ばしなさいみたいなのが一番正しかった。

高尾
笑顔とかね、挨拶とかね。


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“言葉”との付き合い方



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松本さんは、美容に関する知識だけではなく、その審美眼や哲学を通して語られるエッセイに定評があり、読者に新たな発見をもたらしてくれます。そんな松本さんは、ご自分が発する「言葉」についてどのように考えているのでしょうか。

松本
私は元々すごくネガティブな思考型だと思っていて、大人になるほどに、私が最初に思ったネガティブなところを逆から見たらどうだろうと思って言葉にするように訓練した感じがありますね。こういうちょっと黒い感情が出てしまった、このまま出すとこうだな、では、これを逆からみたらどうだろう、向こうから見るとちょっと光が当たっているな。くるくるとひっくり返しているうちにそれが癖になって、だんだん明るい方を見られるようになりました。

高尾
陰と陽ですね。私は、小さい頃から結構明るくて、天真爛漫と言われていたタイプなので、小学校のとき、本当に尊敬している先生に「いい面ばかりすぎて嫌われることがきっとある」と言われたんですよ。当時は何となく言葉しか入ってきてなかったですけども、そういったことが何となくわかるようになってきたんですよね。物事の見方、考え方、捉え方は、自由ですよね。キャンプファイヤーを暖かい、綺麗とか思う人もいれば、熱すぎる、ゴーゴーと言っていて怖いと思う人もいるわけですよ。同じことを経験しても、人それぞれ受け止め方は違う。しかもその受け止め方は、自分で決められる。そこに気がつくと、その光が当たっている側から今の自分が見られているのか、もしくは、もしかすると今、光が当たってない側から自分を見ているのか。その自分の立ち位置をちょっと俯瞰するだけで、すごく落ち着きますよね。

松本
どっちも間違いではないなと思えるというか、

高尾
捉え方や考え方は、これが合っていて、これが間違っているという考え方はしなくていいと思っていて、でも、どちらの立ち位置にも立てるとは思っておいた方がいいんだと思うんです。

松本
同じ出来事が起こってもそうですもんね。感じ方は違うんですもんね。

高尾
きっとそこで生まれる言葉が違うんだと思うんです。だからそこを千登世さんは、自分はこっちから見る癖があるから、あえてこっちから見てみようっていうトレーニング。すごいですよ。

松本
本当ですか。

高尾
そこにたどり着けてない人がきっといっぱいいるから。お月さまで考えるといいですよね。太陽が当たっているときには満月で、それがだんだんだんだん回っていくから、ちょっとずつ黒い部分も見えているときもありますよね。そういうイメージもちょっと多分、今自分がどのあたりからこの物事を眺めているのかなみたいな、そんなときに生まれる言葉は、どっち寄りなのかなみたいな。そこで生まれた言葉は自分の言葉ですから、否定しなくていいんですよ。自然な気持ちだからね。でもそれを誰かに伝えるかどうかは別ってこと。自分のものであれば、それは自分にしか影響を及ぼさない。もちろんこれがいい言葉であると私は思っています。でもなかなか毎日毎日が、そうとはいかないときもきっとあると思う。でも自分を離れたら、周りの人に影響が出るわけですよね。例えば、口から出たらとか、何かに書いてアップロードしたらとか、ここで初めて自分の言葉が周りの人たちに及ぼす影響を考えてみてくれたらってこともいつも思います。それが、良い影響を及ぼすのか、もしくはそうではないのか、それを考えてみたときに、毎日毎日がベストであるとは思わないけれども、でもいいものであったらいい。人にとってもいいものであったらいい。社会にとっても周りにいる大事な人にとっても、それが多分やっぱり私たち自分自身が良い状態は、周りの人にとっても、それって良い状態と言えると思うんですよね。


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