前向きの開き直り

松本千登世(ビューティエディター、ライター)×高尾美穂(産婦人科医)

2023

08.25

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強みを磨こう



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松本さんは、この度、「顔は言葉でできている!」というご本を出版されました。大人の美しさをつくるのは顔立ちより、「顔つき」。よき言葉が”顔”を育てる!と、松本さん。「時間を重ねるごとに、気持ちが顔の形になり、作りになり、目鼻立ちになり、持って生まれた顔が変化していく…。だから逆に意志の力で顔は作ることができる」ということですが、例えば、どんな気持ちを持つことが大切なんでしょうか。

松本
「顔は言葉でできている」という本の一部に書いているんですけれども、私がお仕事をさせていただいている静物のスチール写真のスタイリストの方が、師匠にいろいろアイテムを集めて来てと言われて、例えば「白い器を集めてきて」と言われたときに、テーマに合うものを全部集めてきて、「師匠どうでしょう」と見せたら、「まりちゃん、すごく、よくできました。100点満点!でもつまらない。なんかもっとはみ出してほしい。そしたら、もしかしたら20点かもしれないけど、200点かもしれないでしょう。もっと面白がって」というふうに言われたらしくて、私の中でその言葉を最近よく自分に言うんですね。年齢重ねると、ちょっと正しいこととか、世間の常識から踏み外さないようにと思うのもそうだし、あと髪型とかメイクも新しい自分というよりも、収まりのいい自分というか、変えると、ドキドキするから変えないとか、でもちょっと失敗するかもしれないけど、チャレンジしてみよう、年齢を重ねるほどに、自分で背中を押してみてもいいかなと最近思うんですけど、先生はどう思います?

高尾
まず、日本の教育、特に私たち、昭和世代に育ってきたものは、できないことをできるようにする教育だったんですよ。平均化。飛び出しているところを磨くのではなくて、叩く。これがいわば全体は底上げできたかもしれないけれども、面白い人は確かに減っちゃったよねという感覚はあるんですよね。そんな中で私の髪型を見れば、そうはいない人だよねと皆さん感じると思うんですけども、これも別にすごく何かの反発心から始まったとかでも決してなくて、自分にとってはすごく楽ですよね。整髪料も何もついてないです。洗って、ドライヤーで右側から左側と乾かして、寝て、起きてそのままなので産婦人科医として当直のとき、夜寝て、ボサボサで、次の日も1日過ごすみたいな中でもすごく実用的でもあるんです。しかも楽。早く乾くとかいろいろ考えると、もう多分、私この先の髪型は正直、他は、考えられないなと思っているぐらいです。そのあたりも自分らしさみたいなもの、それを多分ちょっとずつ探していってもいい年代と言ってもいいぐらいの私たちかもしれないですよね。私たちの世代は、多分、すごくみんなまともなんですよ。役割をちゃんと果たす。例えば、お母さんとして、お仕事場においての役割とか、家族の中での役割も娘として、義理の娘としてとか。自分のちょっと飛び抜けている部分は、結構気付けなかったりすると思うんですよ。なぜかと言ったら、自分にとって当たり前のことだから、でもそれが他の人にとっては苦手なことなのかもしれなかったりするんですよね。なんでもなくできちゃうことが、他の人にとってはできなくて、これは、もしかして私の強みと気づいたらいいと思う。しかも、それをどんどん磨いたらいいと思う。他のところができないのであれば、もしかするとそこが得意という人も周りにいると思う。これが、10代と私たちの違いなんですよ。皆さんの周りにきっと自分が得意ではないことが得意な人がいるの。その人に頼むとき、私たちなんていう言葉をかけるかと言ったら、「助かる、感謝している」って言いません。これがいわばジグソーパズルがうまくかみ合うような、凸と凹みたいな、それが、社会の中でうまく循環したら、本当にありがとう、助かったとなると思いません?そうなったらいいと私本当に思っています。もう私たちぐらいの年代になったら、自分のできないことは誰かに頼む。これ前向きの開き直りとよく呼んでいるんです。ですけど、前向きに開き直る部分があっていい。そこはお願いをしておいて、自分が得意なことを好きなことを続けていく。それが人のためになるかもしれない、人の役に立つかもしれないっていう考え方を持ったらいいんじゃないかなって。

松本
本当にそうですね。私は気づいてない人に、言います。もうすごいこれが素晴らしいねっていうふうに気づいてない人があまりに多すぎるので、言っていくようにしていますけど本当にそれがめぐるといいですね。


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素敵な年のとり方



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松本
この本にも書かせてもらったんですけれども、ある美容の先生が、大概、女性たちに、「スキンケア気に入っている?」っていうふうに聞くと、「悪くないです」って答えるんですね。

高尾
わかる。

松本
私もそういうことを言っちゃうかもしれないと思うんですけど、みんな今の状態が今のものがベストと思って、もっといいものがあるんじゃないかと思いながら今を過ごしている。もちろんもっといいものに出会えればいいのかもしれないけど、結局、誰かがいいと言ったから、すごく売れているからということが全部自分にフィットするとは限らなくて、やっぱり自分が気持ちいいとか、先生がおっしゃったちょっとした変化を見逃さないで、ご自分でこんな感じで変わったからちょっといいかもというふうに、それこそプラセボ効果が得られるような、自分がすごく気持ちいいとか、こういうふうに変わるからいいなっていうものを確認しながらスキンケアには出会ってほしいなと思います。

高尾
私たちの生活の中で自分のお気に入りに囲まれているとただそれだけで幸せだと思うんですよ。全てのものがすぐにそうはできないかもしれないけれども、例えばお茶碗だったり、タオルだったり、せっけんだったり、こういった何となく出会えるものの中で、これは私のイチオシですみたいな、そういったものが少しずつ増えていく、これも人生が重なっていく楽しみだと思うんですよね。だから、好きなものに囲まれて過ごす。それもきっと、私たちがご機嫌な時間を過ごすためには大事で、その中の一つがきっと化粧品でもあって、周りの人にも、一押し、ゾッコンみたいなことが言えるものと会うのも人生の醍醐味ですよね。

松本
本当にそうですね。今日皆さんラジオだから見られないのが残念ですけど先生すごく素敵なお洋服を着ていまして、服もそうですよね、自分がすごく好きと思ったり、何か上機嫌でいるためにすごく大事なもの、化粧品もそうですし、そういう自分を囲むいろんなもの、人もそうですね、大好きな人といるとね。

高尾
本当、心地よさという言葉、私好きで、自分が心地よい状態を続けられるように取り組む。前向きに、それがきっと周りの人たちにとっても心地良いだろうし。そんな思いをみんなが持てたら、きっと社会は、心地いいと思うんですよね。

松本
本当にそうですね。小さいかもしれないけど私も頑張ろうと思います。

高尾
あの小さいコミュニティの集まりが、社会ですから。そのコミュニティからしか変えていけないから、私たちの周りから、心地良いコミュニティを増やしていきましょう。

松本
先生のボールを受け取ったので、みんなに伝えていきます。


松本さんの新刊「顔は言葉でできている!」は、講談社より発売中です。


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