「"東京はなんとなく生きていける街"- 大学進学で東京に出てきた生徒の悩み相談。」

SCHOOL OF LOCK!


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聴取期限 2022年6月10日(金)PM 10:00まで




音を学ぶ "音学"の授業、サカナLOCKS!。
今回は、大学進学を期に東京に出てきた生徒と話をしていきます。この生徒は、先日の授業で一郎先生が話していた「東京はなんとなく生きていける街」という言葉に共感したそう。一郎先生がじっくりと話を聞いていきます。


山口「はい、授業を始めますから席についてください。Twitterを開いている生徒はTwitterを閉じなさい。Instagramを開いてる人はサカナLOCKS!のインスタアカウント(@sakanalocks_official)をフォローしなさい。授業が始まりますよ。今夜は、東京に上京してもやもやしている生徒と話をしていきたいと思います。」


なんとなく生きていける街

大学進学を期に東京に出てきて、本当はやりたいことがあったはずなのに、なんとなく生活していることに焦っています。だからこそ、「東京はなんとなく生きてける街」という言葉に共感しました。一郎先生は音楽を始める最初の最初、どんな感じでスタートしたのか気になります。勇気がなく言い訳ばかりしてぼーっとしてるのに、どうにでもなる今の生活が恐ろしいし、このままだとすぐに4年間が終わりそう!!怖い!どうしよう。だけどどう始めればいいのかわからない……。

ぶっこちゃん
女性/18歳/東京都


山口「なるほど。"東京はなんとなく生きていける街"……この言葉は、この前サカナLOCKS!で(2022年5月13日の授業) 僕が話したことですけど、いろんなところでこの感覚を伝えてきました。自分の歌でも「モノクロトウキョー」っていう曲で世界観を伝えているかな。僕も、北海道から東京に出てきていろんな驚きがありましたし、夢を叶えてくれる街ではあるけど、夢を諦めさせない街なんだなって、そういう感覚を持っていました。ぶっこちゃんも最近東京に出てきたのかな。東京で何を始めたらいいのか分からないというところで悩みがあるみたいなので、直接話して心の内を探ってみたいと思います。」

SCHOOL OF LOCK!



山口「こんばんは!サカナクションの山口一郎です。」

ぶっこちゃん(以下、ぶっこ)「こんばんは。ぶっこちゃんです。」

山口「東京に来たのは4月?地元はどこなの?」

ぶっこ「はい、そうです。地元は静岡県です。」

山口「静岡県から東京に出てきたんだ。それは進学?」

ぶっこ「そうです。進学のために。」

山口「今どんな大学に通ってるの?何の勉強してるの?」

ぶっこ「教育大学で、専攻は美術専攻です。」

山口「美術の専攻で教育の勉強してるんだ。進学理由は学校の先生になるためって感じなの?」

ぶっこ「そうですね。学校の先生になるっていうのは、ずっと昔からそうで。」

山口「なるほど。大学は楽しいの?」

ぶっこ「楽しいんですけど……何だろう……受験期にやりたいって思っていたことが、ふわふわしてるんですけどあって。ドキュメンタリーとかノンフィクションの番組がすごい好きだったので、良くないことをちょっとでもいいと思える方向に仕向けた活動をして、それを発信するところまでやるっていう一連のプロジェクトを組みたいって思っていたんです。」

山口「高校時代に?」

ぶっこ「はい。例として、静岡の海岸で活動していた団体があって、海洋プラスチックを集めてアクセサリーにするっていう活動をしていたんですね。海洋プラに絞るわけじゃないんですけど、そういう活動を誰かと一緒にできたらいいなって思っていたんです。でも、始めるのが難しいというか、怖くて……あんなにワクワクしていた時期があったのに、いざその時間がくると、え、どうする……って。それが掲示板に書いた質問の、一郎先生が音楽を始めたときどうしたかっていうことなんですけど。」

山口「なるほどね。」


山口「僕が音楽を始める最初の話をしていくと、僕は音楽からじゃなかったからさ。実は、文学からだったのよ。」

ぶっこ「へー!」

山口「本が大好きで、毎日毎日本ばっかり読んでいたの。小学校の頃から本を読んで、本に感動していて。これはよく話していることなんだけど、ある時、国語の授業で『走れメロス』を朗読するっていう授業があったの。やんちゃな体育会系のクラスでも人気な男子が、その『走れメロス』をつっかかりながら、漢字も読めないでぼそぼそ読んでいたの。俺からすると、何でこんな簡単な文章をそんなにひっかかって読むんだろうとか、こんな漢字も読めないのかって思ってるわけ、ませてるから。もっと先の進んだ授業をやってほしいって僕は思っていたんだけど、休み時間に、その男子が歌を歌い始めたの。あんなに『走れメロス』を読めなかったやつが、歌にすると覚えられるし、歌えるんだって。音楽って何なんだって思ったのよ。」

ぶっこ「確かに。へー……!」

山口「僕は、美しい言葉をちゃんと人に覚えてもらいたいって思っていたから、じゃあ音楽っていうものをやってみようかなって思ったのが最初なんだよね。そこからは変わらない。自分が作った言葉を、自分が美しいと思ったメロディーに乗せて人に聴いてもらったら、みんなどう思うかなっていう好奇心だけ。それがバンドになって、自分たちが考えたアイディアと言葉を、たくさんの人が聴いたらどう思うかな。シーンの中でどういうものが求められているのかなって、より具体的に、かつ大きくなっていっただけで、根本的なところは変わらない。でも、大人になってくると、自分がいる業界の中で一体どんなことができるのかなとか……コロナの時に、コロナの中で音楽業界が疲弊していく中で、どんなことをすればいいんだろうとか、自分が中にいる人だからさ。大人になってくると、組織とか、そういうことを考え始めたりするよね。それはどんな仕事もそうだと思うけど。」


山口「ただ、一個見失わないでおきたいなと思っていたのは、ちゃんと大義を持つことだっていうのは、ずっと無意識にでもある。例えば、ぶっこちゃんが海洋プラでアクセサリーを作る人たちがいることを知って、自分もそういうことを大学に行ったらやりたいなって思ってたって言っていたけど、なんでそれをやりたいんだろうとか、何で自分はそう思ったんだろうっていうことってすごい大事じゃん。それってすごく危ういことだからさ。偽善だって思われる可能性もあるでしょ。」

ぶっこ「そうなんですよ。なんでやりたいんだろうって思った時に、偽善でもいいからってなっちゃう。それがなんか違うなって思いました。」

山口「多分ぶっこちゃんは、自分で企画して、計画して、実行するっていう、自分のプロジェクトをやりたいって思っている気持ちが強いんじゃないの?」

ぶっこ「あー……そうだと思います。」

山口「別に世の中のためになるとか、環境のためとかじゃなくて、自分がどこまで自分の考えを実行できるかっていうチャレンジをしたいっていうことだと思うんだよね。それだったら、めちゃくちゃいろんなものがあるじゃん。ボランティアっていうことだけじゃなくて、美術っていう側面もあったり、いろんなことがある。どんなことをやるかっていうのがセンスじゃん。そのセンスを磨くには、インプットしなきゃいけない。何も知らないところからは何か出てこないから。コンテクスト(文脈・背景)がないと。自分はこういうものを見てきて、こういう考え方があるっていうのを知ったと。その中で自分はこういう考え方でこういうことをやるんだって。その枝葉があるわけじゃん。系譜が。自分はどの系譜に感動しているのかっていう……それを知らないと、目の前のテーブルにあるこのプリンが美味しい、メロンが美味しい、カレーが美味しいって言っているだけだからさ。カレーって一体どういう風に生まれたのか、なんで今、日本のこのテーブルの上にあるのかとか、プリンってなんで美味しいって感じるんだろう。歴史はどうなっているのかなとか。あ、これは卵を使っているんだ、カラメルってこうやって作ってるんだ……って、いろいろ分かってくるわけじゃん。じゃあ、自分がどんなことをやるかって考える時間を作ろうとすると、いろんなところにいっていろんなところで感動しないと。自分が感動するものをいっぱい見つける上では、東京っていう街は抜群だぜ。」

ぶっこ「わー……はい。」


山口「18歳のぶっこちゃんは、今、いろんなことで苦しんだり悩んだり、映画を見て感動して涙を流したり、恋愛して夜もやもやして眠れなかったり、メール1通送ってドキドキしたり、いろんな経験をしていると思うけど……それ、20代中盤までだぞ。今の、10代から20代前半にかけてびんびんにきている感情のアンテナは、どんどん歳をとるにつれて、擦れて感動しなくなってくるから。だから、今その多感な時、もやもやして不安な時に、いっぱいいろんな感動をした方がいい。それを探すこと。手軽なものでもいいよ。アルバイトしてNetflixに入っていろんな映画を片っ端から見るでもいいし、入ったことがないレコードショップに行って、聴いたことない音楽を1枚買ってとにかく集中して聴いてみるとかでもいいし。行ったことない場所に行って、何か感動するまでずっと座っていたりするのでもいいよ。そういうことができる場所だから、東京っていうのは。」

ぶっこ「確かに……」

山口「それをすることで、私ってこういうことをやりたかったんだとか、こんな人がいるなら、この人たちのために何かできることはないかなとか、いろんなことが分かってくるよ。それが分かったぶっこちゃんは、良い教育者に慣れると僕は思う。」

ぶっこ「はい。」

山口「だから、今もやもやしていることっていうのは不安になる必要はなくて、誰もがそこを通るから。だから心配しなくていいと思うよ。」

ぶっこ「はい。」


山口「せっかくだから、聞きたいことがあれば答えるよ。」

ぶっこ「聞きたいこと……1回アルバイトを申し込んで友達と新宿の方まで行ったんですよ。怖すぎて帰ってきたんですけど、そういうもんですか?」

山口「何が怖かった?」

ぶっこ「え……なんか……ビルが高ぇーって思って。」

山口「ははは(笑)。僕も(北海道に住んでいた頃)東京でライブをやった時に、新宿のカプセルホテルに泊まったの。カプセルホテルって北海道にはその時なかったと思うから、泊まったこともなかったし初めてだったんだけど、システムが分からないところに行くのって怖いよね。」

ぶっこ「それは本当に思います。」

山口「でも、誰もが最初そうなんだよ。仕組みが分からないものなんだよ。車の運転だって、免許取りに行く時に、これがハンドルだよ、これがブレーキだよって教習所で教えてもらうけどさ。実際に曲がる感覚とか、アクセルを踏んだらどのくらいスピードが出るかとか、ブレーキを踏んだらどれくらいで止まるかとか、自分の感覚でしか分からないじゃん。それと一緒で、仕組みが分かれば上手く運転できたりするんだよ。だだ、やっぱり最初は怖いよな。」

ぶっこ「とりあえず行ってみて、やってみて……って感じですよね?」

山口「うん。ただ1個気になるのは、バイトの面接行くのに新宿行ったけど、面接に行かなかったってこと?」

ぶっこ「いえ。行って、行った場所もちょっと怖そうなところで……危険を感じたのでやめました。」

山口「あー。行くには行ったんだ。」

ぶっこ「行くには行って、その会社がちょっと……」

山口「ちなみに、どんなバイトだったの?」

ぶっこ「ティッシュ配りです。」

山口「それは別に怖くないと思うぞ(笑)。」

ぶっこ「えー!でも、友達とちょっと危ないねって言ってやめました。」

山口「あー。そういう危険を察知するっていうのも……まだ雛鳥だから、ぶっこちゃんは。ここで餌をもらってたら他の鳥に襲われるとか……ふふ(笑)。そういうのを感じていくっていうのも大事だし、その危機管理能力みたいなものも東京には必要かもしれないな。」

ぶっこ「はい。」

山口「でも、そういうところが怖いって思うのは健全だよ。でも、新宿でアルバイトする必要もないんじゃないの?」

ぶっこ「そうなんです(笑)。」

山口「いろいろ経験してみたらいいと思うけどね。」

ぶっこ「はい。行きたいなって思っていた場所にとりあえず行ってみることは必要だなって思いました。」

山口「そうだね。」


山口「じゃあ、僕が1個ぶっこちゃんにここ行けっていうミッションを出してあげようか。」

ぶっこ「はい!」

山口「浅草の浅草演芸ホールに行ってきなさい。落語を聞いてきたら?落語って聞いたことある?」

ぶっこ「ないです。『笑点』しか見たことないです。」

山口「『笑点』でも落語あるね。落語って日本の古典芸能なのよ。漫才とか手品みたいなものって、落語の前にやる"色物"って言われているんだよね。手品とか漫才をやっている人たちの看板の文字が赤かったから色物って言われるんだって。だから、日本の最も古いエンターテイメントなわけじゃん。」

ぶっこ「あー。」

山口「ぶっこちゃんは美術の先生になりたいって思っているんだよね?エンターテイメントと芸術の境目って結構曖昧じゃん。」

ぶっこ「確かに。」

山口「日本における古典芸能っていうものの空気みたいなものを、東京で体験してみるっていうのもいいんじゃないの?浅草の雰囲気を味わうのもいいと思う。浅草寺に行ってみたりとか。そうやっていろいろしてみるのは面白いと思うけど。……これ、僕に言われなかったら行かなかったでしょ?」

ぶっこ「行かなかったです。」

山口「じゃあ、想像通りの自分じゃなくなるチャンスだね。ふふふ(笑)。」

ぶっこ「ふふふ(笑)。」

山口「自分じゃコントロールできないところに行けるチャンス。行ってみたらどうかな?」

ぶっこ「行ってみます。」

山口「行ってみて。面白いよ。チケットもそんなに高くないと思うよ。アルバイトもいろいろやってみな。」

ぶっこ「はい。」

山口「ただ、アルバイトの面接に行って決まったけど、3日行って何も連絡せずにやめるみたいな……そういう失礼なのはやめような。そんな人じゃないっていうのは分かってるけど。」

ぶっこ「はい。それは大丈夫です。」

山口「いろいろ苦しいこともあると思うけど、自分だけじゃないからね。思い詰めちゃうこともあると思うけど、それも青春だから。ふふふ(笑)。」

ぶっこ「はい(笑)。」

山口「また何かあったら掲示板に書き込んでよ。」

ぶっこ「分かりました。」

山口「頑張れよ!」

ぶっこ「はい、がんばります!」

山口「それじゃあ、またね。」

ぶっこ「はい。ありがとうございました。」


そろそろ今回の授業も終了の時間になりました。

山口「東京っていう街に来るっていうのは、やっぱりちょっと緊張感もあるしね。ワクワクもあるだろうけど。でも、いろんなものを手に入れられるし、いろんなものを失う……それはどんな街でもそうだと思う。ただ東京はちょっと特殊なだけだよね。ぶっこちゃんには頑張ってもらいたいなって思うし、東京じゃなくても、新しく大学に行ったり高校に行ったり、クラスが変わったり就職したり……自分の環境が変わった生徒もいっぱいいると思う。苦しい時もあるけど、一緒に乗り越えましょう。音楽がそんなみんなの支えになるといいよね。」

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