アナログとデジタル(2)(w/ レコーディング・エンジニア:浦本雅史)

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■ 気になって睡眠不足
一郎先生 こんばんは 幕張でのライブすごく楽しかったです! 音楽の知識足らずの質問なんですが 今度リリースするINORI EP とは 具体的になんなのでしょうか? レコードでしょうか?それともCD? どうか教えてください!
お茄子/女/18/福島県




山口「お茄子、『INORI EP』とは、レコードです。でも、レコードという存在がよく分からない10代がいるっていうことも、先生はよく分かります。」

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ということで、今回もアナログとデジタルの授業をお届けします。先週に引き続き、ゲスト講師として、サカナクションのレコーディング・エンジニア、浦本雅史さんに来ていただき、一緒に授業をしていきます。前回は「デジタルとアナログの違い」「レコードとCDの違い」について、お話しいただきました。復習すると、レコード=アナログ盤は、レコーディングしたそのままの音が収められていて、CDなどのデジタルの場合は、収録する際に、人間の聞こえない音域を削って容量を軽くする処理などが行なわれています。

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アナログレコードを聴くには、専用プレイヤーや機材が必要ですが、山口先生もアナログ盤を家で聴いたりしているそうです。

山口「アナログの方が本来僕たちがレコーディングしたものに近いんだっていうところの説明は先週できたわけですが、一郎先生もレコードを買うんですよ。」

浦本「おっ。」

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山口「でも、先生の買い方は、CDも配信で買ったものを買い直す感じ。レコード屋さんに行って、「あ、このCD持ってる!だからこのレコード買おう!」みたいな。クラフトワーク(Kraftwerk)とか、CDでしか持っていなかったけど、レコード屋で見つけると買っちゃいますね。それで聴き比べたりして、ははーん、みたいな。」

浦本「そうだね。自分の好きな音楽を見つけるよね。好きな音はどれなのかっていうのもあると思うんだけど。」

山口「浦本さんがこの間買って来てくれた、フランスのバンドのフェニックス(Phoenix)も!」

浦本「ビックリしたよね、あれね。」

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山口「うん。『Alphabetical』っていうアルバムがあって、僕らはずっと好きで、『シンシロ』を作っているころから、こういう音質のものが作りたい、って聴いていたけど、ずっとCDを聴いていたんですよね。」

浦本「そう。ずっとCDを聴いていて、この間レコードを見つけて、買って、一郎君の家で聴いたら、なんとも……。」

山口「全然ちがった!キック(バスドラム)のドン、ドン、っていう低い部分から、アコースティックギターの鳴りとかも全然違いましたよね。」

浦本「違ったねぇ〜。」

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山口「つまり、僕らがデジタルで聴いて、これがこの人たちが狙って作った音だと思っていた音と、元々の音は、実は全然違ったっていうね。そういう差異みたいなものも、レコードとCDの違いを楽しめる、ひとつの魅力なんじゃないかなと思うわけです。」



『Alphabetical』


山口「では今回、sakanactionの『INORI EP』をリリースするためにやった作業っていうのは、実際にどういったものだったんですか?」

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浦本「今回は、アナログ(レコード)で出すっていうこともあって、CDを作る時とちょっと違うんです。CDだと、大きな音にできるんですよ。」

山口「ん?どういうこと?」

浦本「アナログだと、音を入れすぎると、針が飛んじゃったりするの。」

山口「え〜、どういうことだろう。デジタルだといくらでも音を入れこめるってこと?」

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浦本「そうそう。」

山口「例えると、お風呂のバスタブが超デカい!みたいな?(笑)」

浦本「そうそう(笑)。いくら入れてもいっぱいにならないし、いっぱいでも、ずっと入れ続けられるっていうよくわからない状況なんです。」

山口「なるほど〜。つまり、宇宙ってことですね(笑)。」

浦本「そう。デジタルは宇宙(笑)。」

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山口「アナログっていうのは、キャパシティが決まっているんですね。」

浦本「決められた中でやらなきゃいけないので、狙いがハッキリしているんですよ。だから今回は、"良い音で鳴らそう" っていうテーマで作業をしました。」

山口「レコードでも、悪い音のレコードもあるし、良い音のレコードっていうのもあるってことですね。」

浦本「うん。レコードの材質だったり、カッティング(レコードの溝を掘る)技術も人によるからね。」

山口「そう。カッティング職人っていうのがいるんですよね。だから、「あの国いる○○さんっていう人、レコード刻むのめちゃめちゃうまいらしい!あの人にお願いしよう!」みたいなことになる。」

浦本「今回は、そういう流れだったもんね。」

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山口「アルバム『sakanaction』を一緒に作った、AOKI takamasaさんに紹介してもらった、カッティング職人のドイツのラシャードさんっていう人ね(笑)。AOKIさんが「ラシャードいいらしいよ!」って教えてくれて、「じゃあ、お願いします!」って。お願いしてカッティングしてもらったんですよね。ラシャードさんはクラブミュージックを専門でやっている方で、結構有名なんですよ。でも、日本にもカッティングをやっている人はいっぱい居るんですよね?」

浦本「それがね〜、日本はもう、一人……かな?」

山口「一人!?……鴇(トキ)みたいですね!(笑)」

浦本「JVCビクターの、小鐵 徹(こてつ とおる)さんっていう。」

山口「わ!小鐵さんだ!まだ会った事はないけど、知ってる。」

浦本「レイ・ハラカミさんとかもお願いしていたんじゃないかな。」

山口「そうか〜。国によったり、音楽のジャンルによっても全然違ったりするんですよね。」

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山口「今回、サカナクションがアナログ盤を作った理由っていうのは、僕たちが作った音に近いものを表現できるっていうところもあるし、アナログっていうものの存在を、今の若者たちに知ってもらうきっかけを作りたいっていう部分もあったわけです。今回この授業をしているのも、10代のみんなは、生まれた時からずっとデジタルなわけですから、カセットテープとか、みんな知らないでしょ?先生たちの時代は、カセットテープでラジオも録音していましたからね。「LUNA SEAが新曲を出すらしい!ラジオで初オンエアだって!」っていうときにはもう、ラジカセの前に張り付いて、カチャッてセットして……って、知ってるかな〜?」

浦本「赤い録音ボタンと、再生ボタンを一緒に押してね(笑)。」

山口「そう!タイミングを待ってね。それで、その後にMDが出たんですよ。MDが出た時はすごかったですよね!」

浦本「すごかった〜(笑)。」

山口「何この音質の良さ!って。初めてのデジタル録音機器との出会いはMDですよね。」

浦本「そうだね。しかも、編集ができたからねぇ〜。」

山口「できたね!自分が好きな曲をMDにセレクトして、曲タイトルも自分で入れられたんですよね。カチカチって打ち込んで。当時、自分が好きな女の子に、「これ、最近俺が好きなやつ。」ってあげたりして(笑)。でも、MD世代も一瞬でしたよね〜。」

浦本「一瞬だったね〜。短かったよね。」

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山口「それから、CDを作れる時代がすぐ来たんですよね。CDを自分で焼けるっていう。それが今、あなたたちの世代なんですよ。その前には、MD、テープ、レコード……って、音楽には遡る歴史があるんですよ。過去を知る事で、みんなが今聴いている音楽の性質みたいなものが分かってもらえるかなって思います。そもそも、デジタルっていうのはアナログの模倣ですもんね。」

浦本「そうなんだよね。」

山口「アナログが劣化しないように真似して作ったもので、要するに、写真でいうところのデジカメですよ。……薄いカルピスですよ!(笑)。よく、「データが軽い」とか言いますけど、あれはつまり容量が小さいって意味ですよね。」

浦本「そう。CDでいうと、MP3っていうデータ形式は、人間がここは聴かなくてもいいかなっていうところを(CDよりも)更に省いたものだから……、つまりは、味が薄いってことだね。小さい音で軽く聴いている分では全然楽しめるんだけど、大音量で聴いたりすると、あれ……痛い、痛い……みたいな感じはあるね。」

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山口「お腹に響かないってところ、ありますよね。みんながどんな環境で音楽を聴いているかは分かりませんが、あんまり大きな音で聴く機会はないだろうからね。iTunesでダウンロードしている生徒もたくさんいると思うけど、あれも、CDより音は良くない、味が薄い状態ですよ。写真で言うと、画素が低いもの。被写体はよくわかるけど、その後ろの細かい葉っぱ一枚はよく分からないようなやつね。だから、みんなが普段聴いている音楽のデータ形式が何なのかとか、調べてみるきっかけになったりすると、また、音楽の面白さを味わってもらえるんじゃないかと思いますし、音楽って言うものを知ってもらえるんじゃないかと思いました。」

ということで、そろそろ授業終了の時間です。
先週と今週でアナログレコードの話をしてきましたが、山口先生も言っていたように、生徒の皆さんがアナログ盤というものの存在を知るキッカケになっていれば嬉しいです。

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山口「さて、僕らはツアーが終わって、早速、曲を作り始めているので、浦本先生とは、また長い付き合いになりますね。」

浦本「よろしくお願いします。」

山口「でも、今回のサカナクションのアルバム『sakanaction』……大変でしたね。」

浦本「まぁ〜、大変だった!(笑)」

山口「俺ね、今回のレコーディングで初めて見ましたもん。ソファーでガチ寝してる浦本さん!」

浦本「スタジオでね〜(笑)」

山口「でも、本当にみんな疲れていましたからね。そんな風に、ひとつひとつのアルバムに思い出が詰まって、みんなの元に届くわけですから。これからもサカナクションと音楽を、よろしくお願い致します。」

浦本「よろしくお願いします。」

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それでは最後に山口先生から、先週と今週を振り返ってのお話しがあります。

山口「今回は、僕らサカナクションのエンジニア、浦本雅史さんと授業をお届けしたわけですが、こうやって、僕らは音楽と密接に繋がって仕事をしているし、尋常じゃないくらい音楽ばかり聴いて生活しているので、音について、音楽について、いろいろと考えているわけです。
でも、生徒諸君は、学校があったり、未来の事があったり、将来の事とかで、音楽ばっかりっていう環境ではないと思います。だから、浦本先生や僕みたいな、普段から音楽の事ばかり考えている音楽好きな兄ちゃんが、生徒諸君に何か伝えられる事があればいいなと思って、こんな風に話をしています。今回は、デジタルとアナログの違いと、アナログとは何かっていうことをお話ししましたが、明日学校に行って、「アナログって何か知ってる?」って友達に話をできたりすると良いかなと思います。」



『INORI EP』


さて、現在、出ている宿題は2つあります。
1つ目は『売れそうなバンド名を考えよ!』

2つ目は『「ストラクチャー」の「ラララ」の部分に歌詞をつけて歌っている音源を提出しなさい』です!


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山口「歌の音源の提出率、本当に低いですね(笑)。ちょっと、ハードルが高いかな〜……。デジタルとアナログを取り上げた授業をしていますけど、スマートフォンのボイスメモでとって送れっていう完全にデジタルに頼った宿題になっていますけどね(笑)。実は、「ストラクチャー」の前半のギターの音は、先生がiPhoneで録音した音ですからね。iPhoneで録音した音を自分のパソコンにメールで送って、それを貼付けただけですから。つまり、生徒諸君たちがiPhoneで歌をとるっていうことは、そのギターの音と同じ音質になるっていうことです。そんなに恥ずかしい事ではないですよ。
それに、ちょっとピッチ(歌の速度)がズレている方が、人臭くて良いぞ!リズムが合っていないのも、愛嬌。恥ずかしがらずに送って下さい。自分で音楽を作っているやつは、自分で加工しても良いよ(笑)。そういう工夫をしている生徒がいたりすると、先生はすごく嬉しいです。音源はメールに添付してサカナLOCKS! のメールアドレス( →コチラ)まで送って下さい。」

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