今回の授業は、生徒のみなさんに出していた、小論文の宿題『ミュージシャンの衣装で大切な事は何ですか？』こちらの添削をしていきます！ 先週に引き続き、サカナクションのスタイリストであり、「アイデンティティ」などのサカナクションのミュージック・ビデオを手掛けるクリエイティブ・ディレクター、北澤"momo"寿志先生をゲスト講師に迎えます。
　

北澤「こんばんは。分からない人は、置いて行きますよ！」
　
山口「怖い！(笑) よろしくお願いします。」
　
北澤「よろしくお願いします。」
　
山口「今回は、momo先生が採点してくれます。厳しくお願いしますよ！」
　
北澤「採点しますよ〜。ビシビシ行っちゃうわよ！」
　
山口「あはは(笑) そのオカマキャラ！」
　
北澤「(笑) やめようか？」
　
山口「声が枯れているので、余計にそう聞こえる (笑) 」
　
北澤「そうなのよね〜 (笑) 」
　

　
それでは、始めます。
　

---

PVの話になりますが、僕は「アイデンティティ」のPVが大好きです！皆さんの衣装がバラバラでいて、どこか統一感のあるところが好きな理由のひとつです。きっと、パッと見た時の気持ちよさというか、かっこよさを決めている大きな要素を決めているのが衣装ってものなんじゃないかな〜と思います。そこで演奏する曲や、ミュージシャンの色が表現されている事が大切だと僕は思います。っていうか、やっぱり「アイデンティティ」のPVは、何度見てもカッチョエーです☆
　

---

北澤「素晴らしい！大変良くできました！！」
　

　
山口「甘っ！！(笑) いきなり！」
　
北澤「だって〜、嬉しいじゃ〜ん。」
　
山口「「アイデンティティ」のミュージック・ビデオは、北澤"momo"寿志先生が監督しているんですよね。スタイリストもやり、監督もやったミュージック・ビデオですよね。」
　
北澤「そうなんです。」
　
山口「"どこか統一感があるところが、好きな理由のひとつです。" って言ってますよ。」
　
北澤「だって、統一したも〜ん！ これ、鋭いですよね、15歳。」
　

山口「実際そうですか？」
　
北澤「人間は、視覚からの情報がほとんどだったりするので、そういう意味では、ビジュアル……見た目は意外と重要なんだよな〜っていうことは、基本にありますね。」
　
山口「「アイデンティティ」のミュージック・ビデオの衣装は、グレーでしたよね。」
　
北澤「グレーですね。」
　
山口「あれ、良かったですね。」
　
北澤「嬉しいですね〜。"無機質な感じ" にしたかったんです。すごくエモーショナルな曲でしょ、「アイデンティティ」って。それと逆に行きたかったんですよね。だから、なるべく無機質に見えるように。でも、草刈さんのワンピースの柄はアニマルプリントっぽいものにして、そこはちょっとエモーショナルにも感じるっていうか……。そういうのを意識しましたね。」
　
山口「なるほど〜。」
　

　
　
　
続いての、小論文は……
　

---

僕が思うミュージシャンの衣装で大切な事は、ミュージシャンのイメージとのバランスです。衣装のかもし出す雰囲気と、ミュージシャンのイメージと合っていないと違和感があったり、格好悪かったりすると思います。サカナクション先生で例えると、僕はサカナクションの曲からは「夜」「雨」などの事をイメージすることが多いです。そして、それらのワードからイメージする色は、寒色系が主だと思うんですよね。だから、サカナクション先生のスタイリングを担当しているmomoさんは、黒とか藍色などの落ち着いた色を衣装にチョイスされるのではないかと推測しています。もちろん、演奏される曲によっても変わるかもしれませんが……。
　

---

北澤「お〜、いろいろと伏線、張ってるね(笑)。こっち行っても行けるように。なかなか、アレよのぅ……1点に絞っていないところが、"もっと頑張りましょう" かな。」
　

　
山口「ほぉ〜。"もっと頑張りましょう" 出ました。」
　
北澤「でも、いいことを言ってますけどね。」
　
山口「バンドだったり、ソロだったりとあると思うんですけど、歌詞のイメージから作っていく事が多いんですか？」
　
北澤「実は、歌詞って割と無視するというか、でも完全には無視しないですよ。特に、ミュージック・ビデオの何かを考えたりするときの作り方を話すと、最初は曲全体の印象ですね。そして何回か聞いて、なんとなく印象がついた頃に、初めて歌詞カードを見るんです。そうやって歌詞をはめていくんです。」
　
山口「ほおー」
　

北澤「ミュージシャンの衣装をやるっていうときには、ミュージシャンは『商品』だと思うので、表に出て行ったときに "どこと被るか" とか、どの商品と被らないかとか、そういう事ばっかり考えちゃいますね。」
　
山口「なるほど〜、分かりやすい。」
　
北澤「棚にわーっとあったとして、同じような物の中から、違うものって思ってもらいたいけど、明らかに違って無視されるのも嫌だし、そこら辺のバランスは、最初にやるとき、ものすごく考えますね。……あ、真面目に言っちゃってごめんなさい。」
　
山口「あ、いえいえ、真面目にお願いします(笑)」
　
　
北澤「……なんだか、幼気な16歳たちを傷つけているんじゃないかって、汗がね……！」
　
山口「大丈夫です、大丈夫です。……あ、じゃあ、点数方式にします？」
　
北澤「あ、それ、いいかも！……うーん、そうだな……じゃあ、今の答えは……50点！」
　

　
山口「50点、甘めですね。僕、結構バキバキ言いすぎて……。」
　
北澤「え、1000点満点で、ですよ？」
　
山口「1000点満点！？あははは(笑) だったら厳しいですね(笑)。ありがとうございます。」
　

　
　

---

複数いる時は、一人だけがういて見えない。それと、普通の人が着ているとまぁまぁだけど、そのミュージシャンが歌っているときに着ていると「おっ！」となるあの感じ。
　

---

北澤「ははは(笑) 良いですね〜！」
　
山口「良い(笑)。その通りって感じですか？」
　
北澤「その通りだけど、"ミュージシャンが着ていることによって「おっ！」となる" ということは、服によってそうなっているのではなく、そのミュージシャンが持つ独特のキャラクターやムードでそうなっているので、そういう意味では、衣装がそこを邪魔していないから正解！っていうことになるでしょう。もうひとつ、グループにいて一人だけが際立つと、どうなの？っていうパターンもあるんですけど、逆に、それが武器になる場合もあるのでね。サカナクションで言うと、岡崎さんをデコラティブにしたり……とかっていうパターン。」
　

山口「そういう戦略会議もありましたよね。」
　
北澤「そう、そうした方が良いって思っていたし。」
　
山口「ヘアメイクもそうですよね。ザッキー (岡崎) はちょっとシュッとさせるっていうか。」
　
北澤「うん。逆もあるんですよ。逆にグッと引いちゃうっていうパターン。サカナだとあんまり使わないけど、他の場面では時々使いますね。例えば、RIP SLYMEだと、FUMIYA君とか。彼には何もしないっていう。でもそうすると、彼が基準になるので、他をいろいろやれるっていうか……。他のグループの話ですが。」
　
山口「なるほど〜、分かりやすい。……じゃあ、この、ゆまちゃん、何点でしょう？」
　
北澤「う〜ん……。51点。」
　
山口「うわ、結構厳しい(笑)。さっきの剣道空は50点ですよね。」
　
北澤「あ、じゃあこうしましょう……55点！」
　

　
北澤「胸先三寸で決まる、この感じ(笑)。12歳ですからね……でも、年齢は関係ないですよね？この授業。」
　
山口「全然関係ないです。厳しくいきましょう。」
　
北澤「みんな、僕より年下っていうことは、もう分かったので。」
　

　
　

---

私はバンドもアイドルも好きです。アイドルはいろいろな衣装を着ているところを見てみたいというのがあります。山口先生が、アイドルみたいな衣装を着ているところは見たくないというわけではないのですが(笑) バンドはできるだけ着飾らない格好が嬉しいです！
　

---

山口「おぉ〜、僕、この意見ちょっと分かるんですよ。」
　
北澤「俺も分かる。」
　
山口「普段着っぽいところも残したいなって気持ちはあるんですね。"バンドだし" っていう……。」
　
北澤「分かる。分かるが……、大旨、皆さんそういう考えでしょうね……っていう感じですね。良い側面と悪い側面をよく見かけるなっていう。……業界の方、聞いてますか？」
　
山口「 (笑) 」
　
北澤「いつしか、"アーティスト" って言われるようになったわけですよ、ミュージシャンって。僕はそれがあまり好きじゃないんです。そうなると、アーティストが着たい服が良いんじゃないかっていう事になって、本来考えるべき人が考えなくなっちゃって、衣装を決めるときに、「(本人が)着たいんだから、それで。」って。……良いんですよ、それで。だけど、黒い壁の前で撮るのか、白い壁の前で撮るのか、緑の草原の前で撮るのか、コンクリートだったり、近代的な建物の前なのかっていうので、見た目のバランスは変わるんです。そういった事をコントロールして考えてあげて、着たい服より、着た方が良い服、着るべき服っていうのを選ぶのが、我々の仕事だと、私は思っているんです。そう考えると、自分の着たい服や私服に近い服が全て、良いかと言われると、それが正解であり、正解でなかったり……。良い結果が出る場合が多いと思うんだけどね。」
　
山口「なるほど」
　
北澤「そうじゃないスタイリストに当たっちゃって、うるさく言う人もいるんでしょうけどね。そういうのは、僕に頼んでいただければねぇ〜……。いやらしいな (笑)」
　

山口「(笑) でも、momoさんメッチャ忙しいでしょ？」
　
北澤「いやいや、暇ですよ (笑)」
　
山口「僕、momoさんとお仕事をするようになって感じるようになった事があるんですけど、ライブ衣装や雑誌に出る時や、アーティスト写真は "衣装" じゃないですか。そういうふうに表に出る時は衣装。でも、ドキュメンタリー映像みたいなのをDVDやBlu-rayに入れたりするじゃないですか。その時って、みんな衣装じゃなくて "私服" なんですよ。それ、良いなって思って。なんでかっていうと、衣装を着て外に出て行っているっていう側面と「私服でいるんだ」っていう側面の両方が見える方が、よりそのミュージシャンのことを深く理解できている気がするんですね。つまり、音楽を作っている時っていうのは、私服を着ている "素の自分" なんですよ。それが、衣装を着て、戦略を立てて、外に向けて発信するときが、表に向かって音楽を作ったり、リスナーを意識しているっていうことの表現になるような気がして。僕はその二面が見えるのは良いなって思いましたね。」
　
北澤「なるほどね、面白いかも。」
　
山口「じゃあ、この黄色いキリンさん、何点？」
　
北澤「あ、はいはい。言ってる事が分かるのでね……50点！」
　

　
山口「結構厳しめで……！ありがとうございます。」
　
北澤「何て言うんだろう、ミュージシャンの衣装ですごく重要であるっていうことより、"こうあってほしい" っていう、気持ちの方で受け取ったので……あの、すいません……50点で、ごめんね。」
　
山口「今日の最高点数は、55点、という事で(笑)。」
　
　
そろそろ授業も終了の時間です。
　
北澤「早いですね〜。」
　
山口「どうですか？10代が、衣装について考えるって。」
　
北澤「ビックリですね！本来、全員90点以上の気持ちなんですけどね。……目の前にいる山口一郎が、とにかく「厳しくしろ、厳しくしろ！」って言うので、嫌々ながら50点台で収めてしまいました。本当に、それだけは僕は言っておきたいんだ〜(笑)。」
　
山口「あはは (爆笑) ズルい、momoさん！」
　

北澤「でも本当に、皆さん鋭いなって思いました。」
　
山口「音楽だけじゃなくて、みんなそういうところにも目を付けてくれるっていうのはいい事ですね。僕もすごく嬉しいと思いました。」
　
北澤「でも、サカナクションってすごいなって思いますよ。アルバムを買うじゃないですか、そうすると、ミュージック・ビデオのクレジット・タイトル(作品に関わった出演者やスタッフの名前)が細かく載っているんですよ。ああいう事をやる人はなかなかいないですからね。」
　
山口「そう、いないんですよ。」
　
北澤「あれはね、僕は、非常に正しいと思います。」
　
山口「最近のバンドで僕がすごく嫌なのは、バンドしか表に出て来ないっていうか……、メンバーしか見えないことなんですよ。ミュージック・ビデオを作るにしても、レコーディングするにしても、ライブをするにしても、関わっている人みんながいて、このバンドなんだって。その感覚が、ある年代から欠如されている気がして……。今はもっと、何をするにもいろんな人が関わっていて、そのバンドが目指している所にみんなで到達するんだっていう感覚が知れるようになっていていいはずなのにね。」
　
北澤「ねぇ〜。」
　
山口「だから、このサカナLOCKS!では、関わっている人の、プロフェッショナルという部分を、ことあるごとに紹介していけたらと思うんです。」
　
　
山口「ということで、2週に渡ってのゲスト講師は、北澤"momo"寿志先生でした。」
　
北澤「ありがとうございました。」
　
山口「また、臨時講師として来て下さい。」
　
北澤「もう、いつでも、言っていただければ！よろしくお願いします。」
　
北澤"momo"寿志先生、ありがとうございました！
ぜひまた授業してください！