yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百六十五話 人生に絶望しない -【愛知篇】小説家 二葉亭四迷-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

閉じる

第三百六十五話人生に絶望しない

愛知県名古屋市で幼少期を過ごした、近代小説の先駆者がいます。
二葉亭四迷(ふたばてい・しめい)。
二葉亭四迷は、ペンネーム。
本名は、長谷川辰之助(はせがわ・たつのすけ)。
ペンネームの由来は、自分に対するダメ出し、「くたばってしまえ」だと言われています。
二葉亭は、小説家、翻訳家、政治家、ジャーナリストなど、さまざまな職にトライしますが、己への厳しさと不運が重なり、どのジャンルでも長続きしません。
自身、成功することはなかったと振り返っていますが、小説家として、当時の文壇やのちの作家たちに、多大な影響を与える作品を残しました。
近代小説の幕開きと評される『浮雲』。
この小説は、未完に終わっていますが、それまでの文学と一線を画する文体で書かれています。
すなわち、言文一致体。
たとえば、『浮雲』のこんな一節。

…文三には昨日お勢が「貴君もお出なさるか」ト尋ねた時、行かぬと答えたら、「ヘーそうですか」ト平気で澄まして落着払ッていたのが面白からぬ。
文三の心持では、成ろう事なら、行けと勧めて貰いたかッた。
それでも尚お強情を張ッて行かなければ、「貴君と御一所でなきゃア私も罷しましょう」とか何とか言て貰いたかッた…

言文一致とは、書き言葉ではなく、話し言葉で綴られる文体。
このまま読んでも、日常会話となんら変わらない話法なのです。
明治時代にあっては、小説とは、基本、文語体。
「へーそうですか」などというセリフが書かれることはありませんでした。
文壇には革命だと思われた挑戦も、二葉亭の中では完全なる失敗作。完成を待たず、筆を折ってしまったのです。
その後は、ロシア文学の学者や新聞の記者など、志をもって臨みますが、ことごとくうまくいきません。
ある程度まで突き進むと、飽きてしまったり、壁にぶち当たり、嫌になってしまうのです。
名前通りの、迷いの多い人生。
しかし、彼はどんなふうに転がっても、この不条理極まりない人生をどこかで笑っていたのです。
「まあ、どう生きようが、しょせん、一回きりの人生だ」
絶えず動き続け、もがき続けた明治の文豪・二葉亭四迷が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

『浮雲』で近代小説の扉を開いた小説家・二葉亭四迷は、1864年、江戸市ヶ谷、尾張藩の藩邸で生まれた。
父は尾張藩の下級藩士だったが、殿様にひいきにされ、鷹狩のお供をおおせつかっていた。
江戸に詰めることが多く、江戸の御家人化。
夫婦そろって常磐津に興じる。
二葉亭の幼い記憶に、晩酌の際、母が三味線を奏で、父が浄瑠璃を語る姿が刻まれた。
楽しそうな父と母。
花街の遊びを模した江戸の風情が、生活の中にあった。
酔った父は言う。
「人間の一生なんて、何百年何千年もちっとも変わりはしないのさ。食って寝て、また食って寝る。笑って生きなきゃ損するだけだ」
一家がたまに尾張に帰ると、「あいつらはすっかり江戸風を気取るようになった」と揶揄されたが、父は気にしなかった。
やがて、時代は明治維新を迎える。
江戸に常駐する藩士たちの間では、さまざまな噂が飛び交い、特に幕府に近かった尾張藩は、今後の処され方が吉と出るか凶と出るか、深い霧の中にあった。
平和な日々が一夜にして崩れる動乱の空気を、四迷は感じた。
人生は、決して思うようには生きられない。
四迷は、5歳にして学んだ。

幼い二葉亭四迷は、父が大好きだった。
優しくて、面白い。
父の姿が見えないと、不安になって外に探しにいく。
明治維新の混乱の最中では、夕方になっても帰ってこないと、不安は増した。
家族がとめるのも聞かずに、松林の並木道で待つ。
夕暮れが空を赤く染めていき、哀しみに胸が押しつぶされそうになった。
それでも、通りをやってくる父の姿を待ち続けた。
生きるとは、あの夕暮れの時間と同じ。
寄る辺なく、せつなく、哀しい。
でも、だからこそ、父が帰ってきたときの喜びは、計り知れない。
明治維新後、二葉亭一家は、名古屋、島根の松江と移転する。
5歳から10歳の最も多感な時期を、名古屋で過ごしたことは、四迷にとって、のちの人生に大きな影響を与えた。
東京の緊張感から逃れたことで、四迷の心に明るさが宿る。
友だちと「ちゃんばらごっこ」で遊んだかと思うと、突然、口三味線で浄瑠璃をうなった。
豊かな自然がある一方で、名古屋は、教育に熱心な街でもあった。
名古屋藩学校で、英語、フランス語を学び、漢学、儒教の精神に触れる。
東洋の理念と西洋の哲学。
曖昧さを楽しむ心と、合理性。
相反する教えの調和に苦労する。
「矛盾」。それこそが、彼が人生に感じた最初の印象だった。
近所に、いじめっ子が二人いた。
四迷は臆病だったので、その二人に媚びへつらい、愛想笑いを繰り返す。
その反動で、家族には傍若無人にふるまった。
自分の中に棲む、もうひとりの自分とどう折り合いをつけるか。
四迷の心に、作家の火がともった。

二葉亭四迷は、同時代の作家・森鷗外と比較される。
ドイツ語を駆使し、西洋医学を我が物にした、鷗外。
ロシア語を習得し、ロシア文学の翻訳家としても名を成した、四迷。
しかし、決定的な差は、時には冷酷ともいえる合理性を徹底し、文学者と医者という二刀流を貫徹した鷗外に比べ、ロシア語も小説も中途半端。
いつも「自分なんか、くたばってしまえ」という抑うつから逃れられなかった四迷は、時にぶざまで、時にこっけいに見える。
壁にぶつかって、全て嫌になる四迷の脳裏に浮かぶのは、
幼い日に見た、父と母の常磐津。
夜中まで興じる両親の姿は、四迷にこう語りかけていた。
「人間の一生なんて、何百年何千年もちっとも変わりはしないのさ。食って寝て、また食って寝る。笑って生きなきゃ損するだけだ」
ペテルブルグで病にかかるが、帰国せず、そのまま洋行を続けた二葉亭四迷は、ベンガル湾を行く船の上で、46年の生涯を終えた。
彼は迷った、逃げた、そして思い通りにいかない人生を、笑った。

【ON AIR LIST】
そよ風の誘惑 / オリビア・ニュートン・ジョン
夕暮れほたる / 小坂忠
それが答えだ! / ウルフルズ

音声を聴く

今週のRECIPE

閉じる

霜降りひらたけとキャベツのバター炒め

今回は、愛知の特産でもある野菜、キャベツを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとキャベツのバター炒め
カロリー
138kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • キャベツ
  • 3枚
  • ベーコン
  • 2枚
  • スナップえんどう
  • 4本
  • バター
  • 小さじ2
  • 小さじ1/4
  • こしょう
  • 少々
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。キャベツは大き目のざく切りに、ベーコンは2cm幅に切る。スナップえんどうは筋を取る。
  • 2.
  • フライパンにバターを熱し、霜降りひらたけ、キャベツを炒める。しんなりしてきたらベーコン、スナップえんどうを入れてさっと炒め、塩、こしょうで味を調える。
  • recipe LIST

閉じる

ARCHIVE

閉じる

RECIPE LIST

閉じる

番組へのメッセージ

閉じる

PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

閉じる

NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

閉じる