yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第百三十六話 ひとつの道を突き進む -【東京篇①神楽坂】作曲家・箏曲家 宮城道雄-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第百三十六話ひとつの道を突き進む

人生は、理不尽。ほとんどの場合、思い通りにはいかない。
あなたは、失望や絶望の淵に立たされたとき、どうしますか?
ここに、幼くして、視力を失ったひとがいます。
彼はわずか8歳のときに、失明の宣告を受けたのです。
「世界中のどんな名医でも、キミの目を治せるひとは、いません」。
彼は、お筝(こと)の道に進みますが、それは自ら望んだというより、仕方なく、他に道がなく、と言ったほうが近いかもしれません。
それでも彼は、筝で世界的な演奏者になりました。
正月に流れる曲の定番『春の海』は、彼が作曲しました。
そのひとの名は、宮城道雄。
今日4月7日は、彼の誕生日です。
宮城の記念館が、東京・神楽坂にあります。
入り組んだ裏路地の坂道をのぼっていくと、やがて、彼が生涯の多くの時間を過ごした新宿区中町に辿り着きます。
そこにある宮城道雄記念館。
館内には、宮城の業績を知る貴重な資料や、彼が発明した筝、十七絃、八十絃、大胡弓などが展示されています。
この記念館では、演奏会や講演会が定期的に開催されていて、日本古来の箏曲(そうきょく)の伝統を今に語り継いでいるのです。
宮城は、昔からあるものをただ残しただけではありません。
西欧の音楽を学び、取り入れ、ときには非難をあびても、自分が目指す新しい音楽のために闘い抜きました。
そんな偉業を成し遂げられたのは、彼が人一倍強かったからでしょうか?
天才芸術家だったからでしょうか?

列車から落ちて非業の死を遂げた、62年間の壮絶な生涯。
箏曲家・宮城道雄が、波乱の人生でつかんだ明日へのyes!とは?

筝と尺八で演奏される『春の海』の作曲家にして筝の稀代の演奏家、宮城道雄は、1894年4月7日、兵庫県神戸市に生まれた。
生後200日で、目の病気が発覚。
一時は回復したが、6歳で再び視力は落ちた。
小学校への入学も1年遅らせる。
視力は、どんどん失われていった。
「ねえ、来年になれば、ボク、学校に行ける?」道雄は母にたずねる。
「そうねえ、きっとよくなるわ、そうに違いない」母は、答えた。
祖母に手を引かれ、道雄は小学校の門に行った。
校舎から聴こえてくる、子どもたちの笑い声、はしゃぐ声。
親戚や近所の友達は、みんなあそこにいる。
どうして自分だけ、この門の向こう側に行けないのか…。
哀しかった。悔しかった。門にしがみついて、泣いた。
「ねえ、ボクが悪い子だから?悪い子だから、学校にいけないの?」
大人は、返す言葉がなかった。

道雄は、負けん気が強い子どもだった。
石盤に目をくっつけるようにして、カタカナやひらがな、漢字を覚えた。
視力を完全に失う前、書いた文字がいきなりたちあがり、ぴょんぴょんと跳ねるのを見たという。

8歳のとき、東京から名医が来たので、最後の望みをいだいて看てもらったが、医者は言った。
「世界中のどんな名医でも、キミの目を治せるひとは、いません。将来を考えて、なにかを身につけなさい」

『春の海』の作曲で知られる筝の大家・宮城道雄は、幼くして失明した。
彼は、箏曲、いわゆる筝の道を進むことになった。
奈良時代に雅楽の楽器として日本に伝承された筝。
江戸時代、八橋検校(やつはし・けんぎょう)という盲人音楽家が確立したことで、盲人男性音楽家により守られてきた歴史があった。
8歳で二代目中島検校(なかじま・けんぎょう)に弟子入りした道雄は、祖母と暮らした。
父に他に女性ができて、母はそれに激怒し、子を残して実家に帰ってしまったからだ。
道雄は思った。
「目も見えない。親にも捨てられた。ボクは、僕自身で生きていくしかない」。
弟子の誰よりも熱心に稽古に励んだ。指にマメができ、つぶれ、血が出ても、やめなかった。
「ボクには、これしかないから」。
師匠は驚いた。
「この子は、すごい。同じ境遇の子とも、違う」。

道雄にとって、6歳まで見えていた世界が全てだった。
春の生き生きとした緑、色あざやかな花たち、川面で踊る陽の光。
お父さんの顔、お母さんの顔、おばあちゃんの笑顔。
見えていた世界を音にのせた。それがせめてもの、抵抗だった。復讐だった。
「負けるもんか、負けるもんか」
でも、音楽はもっと深いところで、自分を包んでくれた。
邪心は、音に出る。慢心は、音を乱す。
誰もうらまない。何も憎まない。ただ、ひたすらに、筝に向き合う。
そうして道雄は、芸術家になっていった。

筝の演奏家、宮城道雄は、随想にこう書いた。
「眼が見えなくなってから、私の生きる道は音の世界に限られてしまった。子供の頃は、それがどんなに悲しかったか知れない。しかし、筝を習い始めてから、だんだん心持ちが落着いてきて、眼の見えないことをそう苦にしなくなった。今では、もう悲しいどころか、むしろ幸だったと感謝している。ただ、この道を往くよりほかはない。迷ったりする余地はない。ただまっしぐらにこの道を進んで往こう。その一念が私を今日あらしめてくれたとも云えるのである」。

道雄は、毎年正月にやってくる小鳥の声を覚えている。
筝を弾く演奏者の心の揺れに気づき、「今日は、なにか心配ごとでもありますか?」と言い当て、驚かれた。
たったひとつのことしか、やっていない。
でも、たったひとつのことをやり続けたからこそ、見える風景がある。
宮城道雄は、常に進化しようとした。
西欧音楽を取り入れ、楽器まで開発し、今までにない楽曲を創造した。
諦めない心が、ひとびとの心を動かした。
宮城道雄は、言う。
「私は、筝のおかげで、目が見えるひとが知らない世界を見ることが、できた。」

【ON AIR LIST】
サクラ色 / アンジェラ・アキ
STAY GOLD / STEVIE WONDER
For No One / The Beatles
ハミングバード / 斉藤和義

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと春キャベツの蒸し煮

『春の海』の作曲家にして筝の演奏家、宮城道雄の故郷は、兵庫県神戸市。今回は、その神戸で多く栽培されている野菜、キャベツを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと春キャベツの蒸し煮
カロリー
調理時間
15分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • キャベツ
  • 200g
  • ベーコン
  • 2枚
  • 玉ねぎ
  • 1/4個
  • にんじん
  • 1/5本
  • アスパラガス
  • 2本
  • 3/4カップ
  • 小さじ1/2
  • こしょう
  • 少々
  • バター
  • 10g
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。キャベツは一口大に、ベーコンは2cm幅に切る。玉ねぎは薄切りに、にんじんは短冊切りにする。アスパラガスは薄い斜め切りにする。
  • 2.
  • フライパンに水と(1)を入れて蓋をし、火にかける。
  • 3.
  • ひと煮立ちして、具材に火が通ったら塩、こしょうで味を調え、バターを落とす。
  • ※霜降りひらたけは裂かずにほぐすだけ。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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