yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百六十話 自分の原点を知る -【秋田篇】舞踏家 土方巽-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第二百六十話自分の原点を知る

秋田県南部、県内屈指の豪雪地帯、雄勝郡羽後町田代に、鎌鼬(かまいたち)美術館という一風変わった建物があります。
かやぶき屋根の古民家を改造したこの美術館は、秋田出身のある芸術家の功績をたたえて造られました。
その芸術家とは、暗黒舞踏の創始者、土方巽(ひじかた・たつみ)。
1950年代後半に土方が提唱した暗黒舞踏とは、日本古来の風土や伝統と前衛的なパフォーマンスを融合させたもの。
舞踏の踏の字は、踊るではなく、踏む。
バレエなどとは一線を画したこのダンスは、白塗りに、剃髪、裸体。アングラ芸術の代名詞にもなりましたが、世界的に、アルファベットでButoh、ブトーと賞賛され、日本では、三島由紀夫や澁澤龍彦、埴谷雄高など多くの作家たちを魅了しました。
1965年、まるでカマイタチのように田代地区にやってきた土方は、住民らを驚かし、触れ合い、攪乱し、村を舞台に駆け抜けます。
子どもたちの前で飛んでみせ、田んぼを疾走する。
その様子を写真家がフィルムにおさめたのです。
写真集『鎌鼬(かまいたち)』は、日本のみならず世界に衝撃を与えました。
土着と芸術。
その融合がこれほど見事になされた写真がなかったからです。
田代地区は、土方の父の実家があった場所。
彼にとっての原風景が、画面からあふれています。
同じ東北出身の寺山修司と同時代を生きた土方もまた、自分の出自を見つめ続けたのです。
日本人が日本人である証は、いったい何処にあるのか?
誰かから与えられ押し付けられた美しさだけを、求めていないか?
土方の問いかけは、今の私たちに響いてきます。
戦後を代表する舞踏家・土方巽が人生でつかんだ明日へのyes!とは?

暗黒舞踏の創始者・土方巽は、1928年3月9日、南秋田郡旭川村、現在の秋田県秋田市に生まれた。
繁華街まで歩いて20分ほどだったが、目の前には田んぼが拡がっていた。
11人兄弟の10番目。
幼い頃からやんちゃだったが、彼を決定的に異端に変えたのは、秋田県師範学校 附属小学校に入学したことだった。
県内随一の進学校。
エリート、ブルジョアの子息だけが集まった。
土方の父の実家は確かに豪農だったが、遠く及ばない。
半農で蕎麦屋を営む家から通うのは、土方ただひとり。
どうせ体制側に入れないのであれば、せいぜい異端を突き詰める。
そんな気概を育んだ。
番長といきがる相手は早々に叩きのめし、気がつけば彼に逆らう者は誰一人いない。
天下をとったはずなのに、虚しかった。
国の情勢は戦争に傾いていく。
軍事訓練は、嫌だった。
しかし、ある日、秋田市内でヒトラー・ユーゲントの一糸乱れぬ行進を見たとき、意味の分からぬ高揚感を覚えた。
同じ頃、秋田出身の舞踏家、石井漠(いしい・ばく)のダンスを見る。
石井は、ドイツ・ベルリンで修業を積んでいた。
「すごい…ダンスってすごい、手足がピンと伸びて、カッコいい…」
ダンスの凄さとドイツの凄さが、少年の心に刻まれた。

舞踏家のレジェンド・土方巽は、幼い頃から運動神経がずば抜けていた。
高校はラグビーの名門、秋田工業学校、現在の県立秋田工業高校に入学。
ラグビー部に入り、将来を嘱望されるが、過酷な練習と軍隊式な上下関係が嫌で、あっという間に離脱。
学校も不祥事で留年。
喧嘩にあけくれる中、なんとか卒業すると、秋田製鋼に入社。サラリーマンになる。
もとより異端な性格が消えるわけもなく、何かしたい。
宮仕えだけでない、何か体を使うことをやりたい…。
駅前にダンス教室を見つける。
「増村克子モダンダンス研究所」。
増村はドイツに留学経験を持つ、ノイエ・タンツの流派だった。
土方は、ダンスにのめり込んだ。
身体表現に新しい境地を見た。
ただ…ドイツ流でいいのか?
その疑問が沸く。
「オレは、日本人だ…日本人にしかできないことをやりたい」
土方は増村に同行する形で、上京。
1947年、昭和22年の東京は…まだ一面、焼野原だった。

上京した土方巽は、貧しさと戦いながら生活した。
その日暮らし。
ときに路上で眠り、寺で休んだ。
川沿いの簡易宿泊所での生活は、みじめ、そのものだった。
「毎朝起きると、まず、その日の食べ物の心配をしなければならなかった」
でも、ダンス、踊ることはやめなかった。
貧しい暮らしが、肉体とは、ダンスとは何かを教えてくれる。
ドイツの踊りでは表現できない何か…。
ふるさと秋田と東京を行き来するうちに、思い出した。
幼い頃見た農家のひとたちの生き様、農作業をする動き、家に帰って眠るときの姿勢…。
ピンと手足が張り詰めているのは、ほんとうに綺麗だろうか。
自分が見た農家のひとは、ガニ股だった。
寒さで手足が縮こまり、猫背だった。
そこで気づいた。
「オレは、ほんとうに自分の意志で歩いているか? 誰かに歩かされてはいないか? おのれの肉体に梯子(はしご)をかけ、深く深く降りていっているか?」
一世一代の写真集を撮影する場所に、ふるさと秋田を選んだ。
そこにしか、自分の踊りの原点はない。
ひとは土地によって育まれる。
ひとは、幼い頃みた風景に、幼い頃受けた風に、命の尊さを知る。

【ON AIR LIST】
EVEN AFTER ALL / Finley Quaye
NEUE TANZ / YMO
夜の踊り子 / サカナクション
UP FROM THE SKIES / RICKIE LEE JONES

【協力】
細江英公
 

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと鶏肉、大根の蒸煮スープ

今回は、秋田で古くから栽培されている野菜、大根を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと鶏肉、大根の蒸煮スープ
カロリー
119kcal (1人分)
調理時間
75分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 鶏もも肉
  • 120g
  • 大根
  • 120g
  • 白菜
  • 1枚
  • 【A】干し海老
  • 10g
  • 【A】塩
  • 小さじ1弱
  • 【A】水
  • 400cc
  • 【A】葱油(市販品)
  • 小さじ1
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすい大きさにほぐす。
  • 2.
  • 白菜は一口大にちぎる。大根は皮をむき、食べやすい大きさに切り、白菜とともに湯掻く。
  • 3.
  • 鶏もも肉は一口大に切り、湯通しする。
  • 4.
  • 器に(1)-(3)、【A】を入れ、蒸し器で約1時間蒸し煮する。
  • ※白菜はちぎることにより甘みが出ます。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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