yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百九十話 夢とロマンに生きる -【島根篇】実業家 足立全康-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百九十話夢とロマンに生きる

島根県安来市出身の、世界にその名をとどろかせる日本庭園をつくった、実業家がいます。
足立全康(あだち・ぜんこう)。
昨年末、あるニュースが世界中に配信されました。
「島根県安来市の足立美術館が、アメリカの専門誌による日本庭園ランキングで、なんと20年連続の1位に選ばれる!」
『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』でも三ツ星と掲載された、この庭園をつくったのが、足立全康です。
およそ17万平方メートル、5万坪の敷地に植えられた、赤松、黒松、サツキやモミジたち。
そして、枯山水や苔の庭、全康が敬愛してやまない横山大観の絵をモチーフにした、白砂青松の庭など、四季折々の景色は、連日、多くの観光客の五感を刺激し、その目を楽しませています。
「庭園もまた一幅の絵画である」と唱えた全康の思いが、草木一本まで沁みわたっているのです。
庭園もさることながら、展示された日本画や、北大路魯山人(きたおおじ・ろさんじん)のコレクションも、圧巻です。
これだけの美術館をつくった男は、生まれながらの大富豪だったのでしょうか?
全康は、安来の農家出身。
子どもの頃は劣等生だったと言います。
夢とロマンを持ち続けて、彼が『足立美術館』に着手したのは、1968年、69歳のときでした。
開館は、2年後の1970年。
およそ10年あまり、入館者は伸び悩み、閑散とした館内をひとり歩く全康の姿がありました。
それでも、365日、1日たりとも庭園の手入れを怠らず、大好きなふるさと・安来にどうやったらひとが来てくれるかを考え続けたのです。
全康は、人間には3つのタイプがあると言っていました。
用心深く、なかなか腰をあげないタイプ、行動しながら考えようとする現実主義タイプ。
そして、やってみないことにはわからない、まずは動いてみて、あとから善後策を講じるタイプ。
彼は3番目の、いきなり走り出すタイプでした。
だからこそ、挫折も経験する、でも、それゆえ足腰が強くなる。
彼は、いかにして日本一の庭園をつくることができたのでしょうか?
明治・大正・昭和を生き抜いたレジェンド。足立全康が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

『足立美術館』の創設者・足立全康は、1899年2月8日、現在の島根県安来市に生まれた。
家は、小作農。
尋常小学校には、あぜ道を素足にわらじで通った。
きょうだいは、みんな勉強ができるのに、落ちこぼれ。
学校に行くのが嫌だった。
毎朝、学校に行きなさい!という親に尻をたたかれ、仕方なく登校。
性格はおとなしく、同級生から馬鹿にされても、言い返せない。
劣等感に苛まれる日々が続いた。
ただ、絵を画くことだけは、好きだった。
ときどき、先生にほめられ、教室に貼りだされる。
うれしかった。
夢中で絵を画くときだけが、ダメな自分を忘れることができた。
ある時、どうしても欲しい、絵の手本書を見つけた。
買いたい、買ってほしい。
でも、きっと父親は反対するに違いない。
同居する祖父の財布から、そっと15銭、抜き取ってしまった。
祖父が、ワラ仕事をして自分の酒代のために貯めていたものだった。
祖父は、「誰か、知らんか? わしのお金」と言った。
全康と目が合う。
一瞬で、祖父は悟った。
でも、何も言わなかった。
絵の手本書を見るたび、心が痛む。
もう二度と、内緒でお金を抜き取ったりしないと誓った。
それは、小学6年生のときだった。
家から歩いて2時間ほどの橋のたもとにある、雲樹寺という古刹に入った。
裏山に枯山水の庭があった。
見た瞬間、「いい庭だなあ」と思う。
思えば父は植木いじりが好きで、狭い庭に山からとってきた、松やカエデを植えていた。
その日を境に全康は、自宅の庭に興味を持つようになった。
夢やロマンの大木は、多くの場合、幼い頃に芽吹いている。

足立全康は、小学校を卒業すると、農作業を手伝った。
1日中、腰をかがめての仕事はきつかったが、学校の勉強よりいいなと思う。
父は真面目で几帳面。
他の田畑に比べると、圧倒的に効率が悪い。
朝早くから夜遅くまで働き詰め。
収穫はそれに比例しなかった。
全康は、子ども心に工夫をこらし、能率第一で動く。
「おまえのやりかたは、おおざっぱでいかん!」と父に言われて、喧嘩になった。
全康は、思う。
「農作業だけをやっていては、この貧乏から逃れることはできない」
14歳のとき、農閑期に、大八車を引いて木炭を売り歩く商売を始めた。
木炭小屋から海辺の小売店まで、1日10キロ以上のデコボコ道を5時間かけて運ぶ。
12月の風は冷たく、あかぎれとしもやけ。
つらい。苦しい。それでも、日当の30銭は有難かった。
仲のいい友だちの家は裕福で、馬を使っていた。
売り上げは倍以上。悔しかった。
マメがつぶれて血だらけになったわらじを見て、涙がこぼれた。
「このままでは…終われない」

足立全康は、小売りを思い付く。
木炭を運びながら、自分で仕入れた炭を近在の家々に売り歩けば、売り上げが稼げるのではないか。
「若いのに感心だ! 働き者だ」とほめられて、うれしかった。
ほめられると、頑張れる。
小学生のとき、絵をほめてくれた先生の顔を思い出した。
炭を売る商売から、多くを学ぶ。
ひとに信頼してもらう大切さ。
もうけばかりを優先すると、先細るという怖さ。
効率と奉仕の精神。
誰かを幸せにしたいと願う心こそ、全ての基本だと思った。
一方で、「人間は、命をかけて物事に取り組めば、どんなことでもやれる」という自信もついた。
商いで成功すると、大好きだった絵と庭への思いがあふれる。
幼い頃から、さんざん苦労して育ったふるさとに、恩返しがしたい。
未来を担う若いひとたちに、生きた絵を、素晴らしい庭をプレゼントしたい。
そんな夢とロマンが、彼を突き動かす。
もしかしたら、足立全康は、幼い日の自分に見せたかったのかもしれない。
あかぎれだらけの手に、ふーふーと息をふきかける泥だらけの自分に、「大丈夫、夢を見ることを忘れなければ、キミはきっと願いをかなえるよ」と伝えるために。

【ON AIR LIST】
SEND ONE YOUR LOVE / STEVIE WONDER
睡蓮 / GONTITI
ART MUSEUM / 辛島文雄(ピアノ)
NEVER CRY BUTTERFLY / 竹内まりや

★今回の撮影は、「足立美術館」様にご協力いただきました。ありがとうございました。
営業時間、アクセスなど、詳しくは公式HPにてご確認ください。
足立美術館 HP

《近日公開予定の特別展》 ※2023年2月現在
「名画の感触 絵を見て感じる手ざわり」
会期:2022年12月1日~2023年2月28日
詳しくはこちら

「メモリアル 節目を迎えた日本画家たち」
会期:2023年3月1日~5月31日
詳しくはこちら
 

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとアスパラガスのソイリゾット

今回は、島根県安来市で盛んに栽培されている食材、アスパラガスを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとアスパラガスのソイリゾット
カロリー
323kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • アスパラガス
  • 1束(120g)
  • 玉ねぎ
  • 1/4個
  • バター
  • 10g
  • 豆乳
  • 200ml
  • ごはん
  • 200g
  • ピザ用チーズ
  • 20g
  • 小さじ1/2
  • 黒こしょう
  • 適宜
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。アスパラガスは斜め切りにし、玉ねぎはみじん切りにする。
  • 2.
  • フライパンにバターを入れ、玉ねぎを炒め、しんなりとしたら霜降りひらたけとアスパラガスを加えて炒める。
  • 3.
  • (2)に豆乳を入れ、煮立ってきたらごはんを加える。
  • 4.
  • (3)の水分が少なくなったら、チーズと塩を加え、軽く混ぜて火を止め、器に盛り、黒こしょうを振る。
  • recipe LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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