yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百九十五話 他人と違う自分を大切にする -【福島篇】作家 横光利一-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百九十五話他人と違う自分を大切にする

志賀直哉と共に「小説の神様」と呼ばれる、福島県生まれの文豪がいます。
横光利一(よこみつ・りいち)。
小説家の辻邦生(つじ・くにお)は、文章修業時代に、名立たる先人の作家の中で、唯一、横光の文体だけを模写して学んだと言います。
戦時中の戦争協力を非難され、一時、文壇から排除される運命にさらされましたが、のちに再評価運動が勃発。
特に『機械』は、新感覚派の小説として、今も多くの文人の心をとらえています。
それにしても、同時代の川端康成や、菊池寛、芥川龍之介に比べ、圧倒的に知名度が低いのは何故なのでしょうか?
そこには、おそらく、横光の「他のひとと違う己を大切にする」という信条があったからかもしれません。
彼は決してひとを信用せず、己の心を見せることもせず、ひたすら孤独の中にいました。
「理解できないやつは、理解しなくていい…」
そんなつぶやきが、彼の創作活動の原点だったのです。
早稲田大学英文科の同窓生、作家の村松友視(むらまつ・ともみ)の祖父、村松梢風(むらまつ・しょうふう)によれば、横光は、いつも和服に黒マント。
授業に出ても、瞑想してノートもとらない。
獅子がたてがみを振るように、長い髪をぶるっとゆさぶり、左右をにらみながら、右手で髪をかきあげたと証言しています。
その姿は、異様。
自分はおまえらと違うんだという自意識に、周囲の学生は扱いに困っていたそうです。
その背景には、横光の幼少期の体験があるのかもしれません。
父は鉄道工事の技術者。
おびただしい転勤に、家族は振り回されます。
横光も、福島を皮きりに、千葉県の佐倉市、東京の赤坂、山梨、三重、広島、滋賀と、各地を転々としたのです。
途中で友だちをつくるのは、諦めました。
どこにいっても、ひとり。
どうせ、ひとり。
だったら、ひとと違う自分を大切にしよう、どうせ、誰も大切にしてくれないのだから。
絶えず貧困にあえぎ、49歳で生涯を終えた孤高の作家・横光利一が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

文豪・横光利一は、1898年3月17日、福島県北会津郡、現在の会津若松市に生まれた。
父は、鉄道工事の設計技師。
利一は、両親が宿泊していた宿で生まれた。
母は、三重県の出身。遠縁に松尾芭蕉がいた。
利一は、のちに父の性格をこう書いた。
「一族の宿命にひそむ旅人の性格」
母と出会ったのも、旅の途中。
とにかく全国を転々とし、各地の鉄道にかかわることが誇りだった。
技師としての腕もよく「鉄道の父」と言われることもあったという。
利一の最初の記憶は、東京・赤坂。
姉と共に踊りを習うなど、最も羽振りが良かった時代。
ただ、どの町にいても、落ち着かない。
滋賀県大津市の小学校に入学してすぐ、日露戦争が始まる。
父は、軍事鉄道建設の要員として、朝鮮半島に派遣されることになった。
利一は、母の実家の三重県伊賀市柘植に移り住む。
ここで4年間という、彼にとっては長い時間を過ごす。
言葉や服装の違いから、いじめられた。
さらに母も病にかかる。
孤独と不安。
最も甘えたいさかりに、頼るものはいなかった。
落ち着かない暮らしの果ての、絶望的な孤立。
作家の自我は、こうして形成されていった。
「結局、人間なんてものは、ひとりきりなんだ」

志賀直哉と並び称される文豪・横光利一は、中学で再び、滋賀県大津市に戻る。
一心不乱に、勉学とスポーツにいそしむ。
それはまるで、自らの存在証明を、自分だけの力で成し遂げるようだった。
庭に柿の木があり、その木にのぼって勉強すれば、誰にも負けないと自己暗示をかける。
木の上で、本もたくさん読んだ。
地面から少しでも高くあがれば、それだけで、自分が特別な人間になったような気がした。
姉が嫁ぎ、父が姫路に転勤になると知らされたとき、利一は、もう転校は嫌だと、初めてわがままを言った。
知り合いの家で、下宿生活をおくる。
もはや独りは哀しくなかった。
野球や柔道で、まわりを圧倒する。
国語ではその文才で教師にも一目おかれた。
自分で自分を高めるしか、この世に生きていける方法はない。
そんな覚悟が努力の背中を押す。
それが行き過ぎて、戦闘意識が強くなり、時に同級生に攻撃的になった。
弁論大会では、まわりをねじ伏せ、柔道でも勝ったあと、雄たけびをあげた。
素行は粗野になり、服装も乱れていく。
常に一番でないと気がすまない。
友だちは、できなかった。
でも、利一は、むしろ孤独ではなかった。
「どうせ、ひとりで生まれてひとりで死んでいくんだ。
友だちなんか、いらない」

作家・横光利一は、親の反対を押し切って、現在の京都大学工学部ではなく、早稲田の英文科に進む。
文学だけが心のよりどころだった。
ドストエフスキーに傾倒。
孤独な自分が共感できる作品を探し回った。
この時期、愛するひとの死や、友だちと思った人の裏切りを体験。
ますます、厭世観をつのらせる。
そんな彼を救ったのは、二人の作家だった。
ひとりは、経済的にも彼を援助し続けた、菊池寛。
もうひとりは、川端康成。
父を亡くして、貧困生活に入っていた横光を、菊池寛は、励まし、支えた。
川端を紹介したのも、菊池だった。
川端康成は、最初に会ったときの横光の眼光の鋭さを覚えている。
「来るならかかってこい!」といわんばかりの気迫。
まわりの作家志望の仲間とは、一線を画していた。
誰も信じないと決めた野犬のような横光も、菊池の包容力と、川端の優しさの前に、頭をたれる。
ただ、自分で自分の存在を守るという覚悟だけは、生涯、変わらなかった。
横光利一が49歳でこの世を去ったとき、川端康成は、弔辞を詠んだ。
「国破れて、このかた ひとしお木枯らしに吹きさらされる僕の骨は、君というあたたかい支えさえ奪われて、寒天に砕けるようである」
文学がつないだ二人の友情は、永遠に消えることはなかった。

【ON AIR LIST】
LONELY BOY / THE BLACK KEYS
ONE / THREE DOG NIGHT
孤独な太陽 / エレファントカシマシ

★今回の撮影は、「会津東山温泉 くつろぎ宿 新滝」様にご協力いただきました。ありがとうございました。
宿泊予約など、詳しくは公式HPにてご確認ください。
会津東山温泉 くつろぎ宿 新滝 HP
 

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけと筍の塩きんぴら

今回は、福島県で盛んに栽培されている食材、さやえんどう(絹さや)を使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけと筍の塩きんぴら
カロリー
61kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 筍(下茹でまたは水煮)
  • 100g
  • 絹さや
  • 10枚
  • ごま油
  • 小さじ1
  • 小さじ2
  • 小さじ2/3
  • 桜えび
  • 大さじ1
  • 白ごま
  • 小さじ1
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。筍は5mm幅に切り、絹さやは筋を取って半分に切る。
  • 2.
  • フライパンにごま油を熱し、霜降りひらたけと筍を炒め、絹さやと酒を加えてフタをし、2分ほど弱火で加熱する。
  • 3.
  • 塩で味を調え、最後に桜えびとごまを加えて混ぜる。
  • recipe LIST

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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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