yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第九十五話 世の中を見る力 -【横浜篇】評論家 草柳大蔵-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第九十五話世の中を見る力

評論家、ジャーナリスト、ノンフィクション作家の草柳大蔵(くさやなぎ・だいぞう)は、神奈川県横浜市に生まれました。
彼の座右の銘と言われているのは、『遍界かつて蔵さず』。禅の言葉です。
遍界とは、宇宙、私たちが生きている世の中のこと。
つまり、もし私たちに何か見えていないことがあるとすれば、それは隠されているからではない。
自分がちゃんと見ていない、あるいは、見方がわからないだけだ、という意味です。
この世の出来事には、全てそうなってしまった理由がある。
自分がしてしまったミスや過ちも、あるいは誰かの行動も、ちゃんと見れば、必ず原因や発端がある。
草柳が、その生涯を通じてやろうとしたことは、もしかしたら、我々がきちんと見ていないものを明らかにすること、あるいは、見方を教えることだったのかもしれません。
野球解説者、野村克也は、言葉の大切さを草柳に教わったと言います。
「指導者が部下に思いを伝えるときには、言葉が重要になる。言葉の持っている力を最大限に使わなくてはいけない」。
野村はそう教えられました。
彼が南海ホークスの監督を解任されたとき、現役を退こうと草柳に相談したところ、こう言われました。
「君はまだ若い。人間は、『生涯一書生』だから、ずっと勉強を続けるべきだよ」。
野村克也はその言葉を聞き、『生涯一捕手』一生を野球のポジションのキャッチャーに捧げる覚悟を持ったのです。
言葉をおろそかにしてはいけない。
もっともっと勉強して、自分の言葉を磨くこと。
そうして野村は名監督としてチームを優勝に導いてきました。
週刊誌の草創期に言葉を武器に闘ったジャーナリスト、草柳大蔵が、その人生でつかんだ明日へのyes!とは?

評論家、ジャーナリストの草柳大蔵は、1924年、横浜市に生まれた。
成績は優秀。神奈川県立横浜第二中学校、現在の横浜翠嵐高校を経て、東京帝国大学に入学、在学中に学徒出陣した。
特攻隊に自ら志願。戦争が終わると、大学に戻った。
政治、経済、法律を学んだが、いつも心に言葉の存在の大きさがあった。
「全ての基本は、言葉で伝えるということだ」。
彼の人生の転機になったのが、ジャーナリストの草分け的な存在、大宅壮一(おおやそういち)との出会いだった。
25歳、勤めていた出版社を解雇されたばかりのときだった。
『大宅壮一マスコミ塾』に学び、やがて彼の助手になった。
世は、週刊誌の創刊ラッシュ。
『週刊新潮』『女性自身』などの創刊にたずさわった。
今、起こっている出来事を丁寧に取材して、深く入り込むということ。
「見えないんじゃない、ちゃんと見ていないんだ」。
そんな焦りにも似た戒めが、常に心にあった。
現実を薄切りにしてペロリと口に入れ、食べた気になっていないか。
おまえは、薄味の人生でいいのか。
こんなに情報が多い世の中だからこそ、ひとつのことに執着すべきではないか。
草柳の自問は、生涯続いた。

草柳大蔵は、ジャーナリズムについて勉強をしているとき、文藝春秋出身のあるひとに、菊池寛(きくちかん)が社員に伝えた「新雑誌の編集方針三か条」というのを教えてもらった。
菊池寛が言った三つのこと。
それは、第一に時機に適していること、第二に簡潔であること。第三にわかりやすいこと、だった。
時機に適する、すなわち、チャンスをつかみ、時代に合ったものであること、というのはわかる。
しかし、第二と第三が、簡潔で、わかりやすいこと?
これからジャーナリズムをもっと深く学ぼうと思っていた気分が、削がれる思いになった。
でも、よく考えてみれば、そこに真理があった。
深く学ぶということは、情報をたくさん身につけ、言葉を飾ることではない。
ものごとが的確に見えていないから、装飾にはしる。
心の目でしっかり対象が見えてさえいれば、至極簡単な言葉で表現できるはずだ。
ジャーナリズムの世界に、どんどんひかれていった。
言葉で、世界をひもとく。言葉で、今を切り取る。
草柳は、やがて評論の道にも足を踏み入れた。
彼の関心は、いまある日本がいかにして形づくられたかに移った。

草柳大蔵は、とにかく本を読んだ。
静岡県熱海市の自宅の書斎は、本で埋め尽くされていた。
78歳で亡くなったあと、その一部、7千冊あまりを、妻は静岡県立中央図書館に寄贈。
図書館に「草柳コーナー」ができた。
常日頃、若者たちに「1日に本を27ページ、読みなさい。専門書、教育書、頭が疲れたときに読む本、3つのジャンルをそれぞれ9ページずつ。そうすれば1年間で、1万ページ近く読める計算になる」と言っていた。
教育論について書きたいテーマがあり、亡くなる直前まで書斎で推敲を重ねた。
スクラップブックに、資料の山。
明日の日本を憂いていた。
「ひとづかい」という言葉がある。
あのひとは、ひとづかいが荒い、などという。
「金づかい」という言葉もある。
お父さんは金づかいが下手だねなどという。
草柳は、もうひとつ、「時づかい」と言った。
みんなもっと時間の使い方を考えてもいいはずだ。
人生は限られているのだから。
同じ日に生まれ、同じ日に亡くなったひとがいたとして、彼らの過ごした時間の蓄積量は同じでも、時間の蓄積値は違うはずだ。

習慣というのは恐ろしい。
1日の中にもうこれ以上、何も入らないと思ってしまう。
そのうちに世の中が見えなくなっていく。
たくさんの情報の中に、真実を見つける目が濁ってしまう。
たった1時間、いつもと違うことをしてみる。
それだけで、見える風景が変わり、時づかいがうまくなる。
草柳大蔵は、自らのたくさんの著作を通して、我々に問う。
「君には、世界がちゃんと見えているか?」

【ON AIR LIST】
この世の限り / 椎名林檎×斎藤ネコ+椎名純平
Loser / Beck
I'm So Lonesome I Could Cry / 畠山美由紀
(Just Like) Starting Over / John Lennon

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけとキャベツのバター炒め

今回は、評論家 草柳大蔵の生まれ故郷、神奈川県横浜市で多く生産されている、キャベツを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけとキャベツのバター炒め
カロリー
103kcal (1人分)
調理時間
10分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • キャベツ
  • 4枚
  • スナップエンドウ
  • 6個
  • ベーコン
  • 2枚
  • バター
  • 小さじ2
  • 小さじ1/4
  • 黒こしょう
  • 少々
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは食べやすくほぐす。スナップエンドウは筋を取る。
  • 2.
  • キャベツは大き目のざく切りに、ベーコンは2cm幅に切る。
  • 3.
  • フライパンにバターを熱して、霜降りひらたけ、キャベツを炒める。少ししんなりしたらベーコン、スナップエンドウを入れてさっと炒め、塩、黒こしょうで味を整える。
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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