yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第三百七十八話 一人だまって、仕事を積んで行く -【秋田篇】画家 岸田劉生-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第三百七十八話一人だまって、仕事を積んで行く

現在、秋田県立美術館で展覧会が開催されている、日本近代洋画の巨匠がいます。
岸田劉生(きしだ・りゅうせい)。
彼の作品では、愛する娘を描いた『麗子像』が特に有名ですが、この企画展は、水彩画、油絵、本の装丁画など、ときに奔放に、ときに先進的に、その画風を変え続けた画家の軌跡を丁寧に展示しています。
10代は、流行だった水彩画にはまり、20代にはゴッホやセザンヌという後期印象派の影響を受け、その後、北欧のルネサンス絵画に傾倒。
晩年は、中国の古典画や浮世絵に対するオマージュも垣間見られます。
38年の短い生涯で、迷い、苦悩しながら、彼が追い求めたものは何だったのでしょうか?
武者小路実篤や志賀直哉とも親交が深かった劉生は、文人としての才能も持ち合わせていました。
それを表すのが、岩波文庫に収められている『劉生日記』です。
繊細に、仔細に綴られた日常の風景。
何時に起きたか、餅を何個食べたか、誰が客として訪れ、何を話し、どう思ったか。
日記の中には、こんな一節があります。
「画家は自己の中の文学者によって、より深い美を見る機縁を造り、文学者は自己の内なる画家によって、より美しい世界とその力を見る機縁を造る」
より深い美を見る、ということは、彼にとって、物事の真実を解き明かす、ということでした。
人物を描けば、その人物の内面にいかに辿り着けるかに心を砕き、たった一本の道を描く際にも、その道に人生の深淵を見出そうとしたのです。
そのためであれば、流派や画風が一貫している必要はない。
時に昨日までの自分を否定してもかまわない。
そんな生き方が周囲に理解されるのは、難しいことでした。
でも、たったひとりで前に進む。
ひとつひとつの仕事を積む重い荷車を引きながら、彼は黙々と歩き続けたのです。
日本近代画壇に一石を投じたレジェンド・岸田劉生が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

大正から昭和初期に活躍した洋画家・岸田劉生は、1891年6月23日、東京・銀座に生まれた。
父は偉大な実業家・岸田吟香(きしだ・ぎんこう)。
新聞記者から身を起こし、薬の世界で成功、日本で最初の点眼薬を販売したと言われている。
家は、裕福。
劉生は、何不自由ない生活をおくる。
文明開化の象徴ともいえる銀座の町並みには、洋風な赤レンガの店や油絵の看板が立ち並び、劉生はそれを眺めるのが好きだった。
天真爛漫で、いたずらっ子。
「しんこ」と呼ばれる米の粉を練ったもので、血まみれの小指を作り、道の真ん中に置いた。
通りを歩くひとは、本物だと思い、大騒ぎ。
警察まで出動する事態になった。
父は、そんな我が子を叱らなかった。
それどころか、完璧な出来栄えを褒めた。
「劉生は、立派な指を作った。それでいい。
いいか、何事も中途半端はいかん。やるならとことんやりなさい。とことん突き詰めて突き詰めて、ようやく、ひとはそれを『仕事』と呼んでくださるんだ」
父は大きな手で、劉生の頭をなでてくれた。

孤高の洋画家・岸田劉生が、14歳のとき、幸福だった人生が一変する。
父と母が、相次いで他界。
家業は傾き、通っていた中学校も中退。失意のどん底に落ちた。
生前、父が「教会に通いなさい」と言っていたことを思い出し、数寄屋橋教会の扉を開けた。
高い天井にステンドグラス。
幼い頃から憧れていた欧米の匂いがした。
牧師の話が心に沁みわたる。
15歳で洗礼を受けた。
将来は、牧師になろうと決意。
教会で手伝いをしながら、独学で水彩画を学ぶ。
絵を画いていると、すっと心が鎮まる。
まるで天国に召された父と会話しているような気持ちになった。
『水彩画之栞』という本をボロボロになるまで読み、『みづゑ』という雑誌をひたすら模写した。
光の移ろいと影。
夢中になったが、物足りない。
黒田清輝(くろだ・せいき)が主宰する洋画研究所に入る。
そこで、油絵に出会い、人生が変わった。
彼自身、「第二の誕生」と呼ぶ、ある画家との出会いが待っていた。

20歳になった岸田劉生は、文芸同人誌『白樺』を愛読。
武者小路実篤と親交を結んだ。
それは、白樺派のひとり、柳宗悦(やなぎ・むねよし)の自宅を訪れたときのことだった。
柳が、後期印象派の画家たちの複製画を見せてくれた。
ひとりの画家の絵に、目を奪われる。
フィンセント・ファン・ゴッホだった。
彼が描く人物画や麦畑を見ると、両目から涙がポタポタ落ちる。
感動して泣いたのは、初めてだった。
「このひとはね、牧師になりたかったんだ」
柳がそう言ったとき、自分と重なった。
絵は、そこにあるものを忠実に再現するためのものじゃない。
そこにないものを描くから、絵画なんだ。
このひとは、神様と会話しようとしている…。
それから、岸田劉生の絵が変わる。
全てが、ゴッホ風。
絵具を分厚く重ね、タッチは荒くなっていく。
周りのひとは、「ゴッホの真似だ」と陰口をたたいた。
それでも、かまわない。言いたい奴には言わせておけばいい。
今、自分が画きたいものを、画きたいように画く。
ふと、父の言葉が浮かぶ。

「いいか、劉生、何事も中途半端はいかん。やるならとことんやりなさい。とことん突き詰めて突き詰めて、ようやく、ひとはそれを『仕事』と呼んでくださるんだ」

友人、知人を、片っ端からゴッホ風に描く。
皆が「劉生の首狩り、千人切り」と恐れるほどだった。
やがて、デューラーに感動し、写実的な作風に移っていくが、そのときも、周囲の揶揄を気にすることはなかった。
岸田劉生は、のちにこう書いた。

「より深い美、より深い美と、一人だまって、仕事を積んで行く事、これが、まあ私の『生』への肯定、『死』への諦めの唯一の道である」

【ON AIR LIST】
明日の誓い / 佐野元春 & THE COYOTE BAND
朝の歌 / エルガー(作曲)、五嶋みどり(ヴァイオリン)
PORTRAIT OF SIDNEY BECHET / Duke Ellington
I WALK ALONE / Los Lobos

★今回の撮影は、「秋田県立美術館」様にご協力いただきました。ありがとうございました。
「特別展 画家 岸田劉生の軌跡展-油彩画・装丁画・水彩画などを中心に-」の開催期間は、2023年1月22日(日)までとなります。

開催中の企画展・特別展、休館日など、詳しくは公式HPでご確認ください。
秋田県立美術館 HP
 

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今週のRECIPE

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バクテー風きのこスープ

今回は、肌寒い時期にぴったりの、こちらの料理をご紹介します。

バクテー風きのこスープ
カロリー
782kcal (1人分)
調理時間
60分
使用したきのこ
一番採り 生どんこ、霜降りひらたけ
材料
【2人分】
  • 一番採り 生どんこ
  • L4個
  • 霜降りひらたけ
  • 1パック
  • 豚スペアリブ
    (豚バラ肉でも可)
  • 4本(400g)
  • 【A】水
  • 1L
  • 【A】にんにく
  • 2片
  • 【A】しょうが(スライス)
  • 30g
  • 【A】シナモン
  • 3g
  • 【A】八角
  • 1個
  • 【A】干し海老
  • 10g
  • 【A】松の実
  • 10g
  • 【A】クコの実
  • 10g
  • 【A】塩
  • 少々
  • パクチー
  • 適量
作り方
  • 1.
  • 豚スペアリブと水(分量外)を鍋に入れて沸かし、弱火にしてアクを取りながら5分ほど煮る。
  • 2.
  • 生どんこは半分に切り、霜降りひらたけは大きめにほぐす。
  • 3.
  • 鍋に(1)(2)【A】を入れて、50分ほどじっくり煮る。仕上げにパクチーを加え、器に盛りつける。
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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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