yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

第二百八十六話 未来を担う子どもたちのために -【福井篇】絵本画家 いわさきちひろ-

yesとは?

  • 語り:長塚圭史
  • 脚本:北阪 昌人

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

―放送時間―
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29

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第二百八十六話未来を担う子どもたちのために

福井県武生、現在の越前市に生まれた、日本を代表する絵本画家がいます。
いわさきちひろ。
その優しく淡い水彩画が織り成す子どもの絵は、誰の心にも、すっと溶け込み、我が子のように愛おしく、日本のみならず、世界中のひとに愛され続けています。
武生は、かつて北陸の玄関口として古来より栄え、政治経済、そして文化の中心地でした。
「ちひろの生まれた家」記念館は、彼女の生家を復元。
大正期のたたずまいを、そのまま残しています。
高等女学校の教師だった母の部屋や、東京にあったちひろのアトリエも再現され、当時の様子がしのばれます。
記念館を一歩出れば、職人町の路地裏の風情が感じられ、タイムスリップしたような感覚を覚えます。
作品の淡いタッチとは対照的に、ちひろの人生は平坦なものではありませんでした。
望まぬ結婚、最初の夫の死、そして戦争。
幾多の試練を越え、彼女がデビューしたのは、27歳のときです。
55歳で亡くなるまで、彼女の生涯のテーマは「子どもの幸せと平和」でした。
ちひろの息子、松本猛(まつもと・たけし)が書いた評伝『いわさきちひろ 子どもへの愛に生きて』は、繊細で映像的な記憶力と豊かな筆致で、ちひろの人生を描いています。
ちひろの表現は、我が息子を画くことで開花していきました。
かつて、猛と離れて暮らし、一か月に一度しか会えない日々を送ったとき、彼女は息子の絵を画くことで淋しさをしのぎ、愛情を伝えたのです。
最後に仕上げた絵本になったのは、『戦火のなかの子どもたち』。
ベトナムの戦地の子どもたちを描きました。
心を閉ざした子どもたちの表情から戦争の悲惨さが伝わってきます。
子どもたちが幸せではない世の中に、未来はない。
病魔と闘いながら、最後まで絵に向き合い続けた絵本画家・いわさきちひろが人生でつかんだ明日へのyes!とは?

絵本画家・いわさきちひろは、1918年、大正7年12月15日、福井県武生、現在の越前市に生まれた。
その日は雪が降り、1センチほど積もった。
父はシベリアに出征。
母は武生で教師をしていて、学校の近くの離れを借り、ちひろを生んだ。
翌年、父が戻り、東京・渋谷で親子三人の暮らしが始まった。
ちひろが生まれた年に、童話と童謡を収めた児童雑誌『赤い鳥』が創刊。
その4年後に登場した絵本雑誌『コドモノクニ』が、ちひろの愛読書になった。
隣に住んでいた子どもが、垣根越しに、一冊の絵本を渡してくれた。
見たことのない絵。
触ったことのない厚手の本。
ページをめくるだけで、幸せな気持ちになった。
ちひろは、活発な少女で、夕飯の時間になっても帰ってこない。
でも、母は心配しなかった。
家の前の道にロウセキで画かれた絵があり、それを辿っていけば、しゃがんで必死に絵を描くちひろに、必ず会えたから。
とにかく絵を画くのが、大好きだった。
東京から長野の松本に向かう列車の中。
曇った窓ガラスに、指で絵を画く。
自分の窓がいっぱいになると、隣に移る。
そのうち、乗客から「おじょうちゃん、こっちの窓はまだ画けるよ」と言われ、気がつくと ひと車両全部の窓が、ちひろの絵で埋め尽くされていた。

日本を代表する絵本画家・いわさきちひろは、絵を画くのが得意な子どもだった。
小学校では成績も優秀。
見事、母が教師として勤めていた、難関の東京府立第六高等女学校に入学した。
母もホッと一息ついたが、一学期の成績は惨憺たるものだった。
絵にかまけて、勉学をサボった。
しかし、神の助けがやってくる。
校長の丸山は、通信簿の撤廃を決めた。
もともと自由な校風だったが、丸山は、通信簿は生徒に無用な劣等感を覚えさせたり、必要以上の競争意識を持たせたりして、いいことがないと主張。
どうしても成績が知りたいひとは聞きにくればいいと言い放った。
丸山のおかげで、ちひろは絵に没頭できた。
人間として豊かになる。
そのためには誰かに価値基準を委ねるのではなく、自分で決めていかねばならない。
丸山校長のそんな教育方針に守られ、ちひろは、音楽や美術などの文化や、スキーや登山などのスポーツに大いに触れ、独自の価値観を形成していった。
あくまで、優しさや、しなやかさを持ちつつ、一本芯が通っている。
ちひろは後に、妹にこう評された。
「鉄の棒を真綿でくるんだような人」。

いわさきちひろは、美術学校への進学を両親に反対される。
ゆくゆくは、婿をとり、岩崎家を守る長女。
絵を画くことから遠ざかる日々が続く。
結婚、最初の夫の死、そして戦争。
特に、25歳のときに体験した、5月25日の山の手大空襲は、凄惨な体験として心に刻まれた。
500機近いB29。
死者 3651名。焼けた家屋 16万戸以上。
一面、火の海。
家族とはぐれたちひろは、川のほうに逃げ、空き地で水をかぶった。
泣き叫ぶ子どもの声が、耳から離れない。
再び絵が画けるようになったとき、彼女の思いは ひとつだった。
子どもが幸せではない世界に、未来はない。
復興を遂げ、発展していく日本社会にも警鐘を鳴らした。
彼女は、亡くなる2年前に、こう記した。
「どんどん経済が成長してきた代償に、人間は心の豊かさをだんだん失ってしまうんじゃないかと思います。…そのことに早く気づいて、豊さについて深く考えてほしいと思います。私は私の絵本のなかで、いまの日本から失われた いろいろなやさしさや、美しさを描こうと思っています。それをこどもたちに送るのが私の生きがいです」。
病に伏し、亡くなる直前まで、絵に向き合い、子どもたちの未来を憂えた。
絵本画家、いわさきちひろが描く子どもには、輪郭がない。
先に枠を画いて、そこに色を落とすのではない。
色そのものが無限の輪郭を作り、果てしない可能性を具現化する。
彼女は子どもへの愛に生き、55年の生涯を駆け抜けた。

【ON AIR LIST】
やさしさに包まれたなら / 荒井由実
CHILDREN CHILDREN / WINGS
TEACH YOUR CHILDREN / Crosby,Stills、Nash&Young
死んだ女の子 / 元ちとせ

●ちひろ美術館、松本猛さまにご協力いただきました。
ありがとうございました。
https://chihiro.jp/

●参考文献
松本猛 『いわさきちひろ 子どもへの愛に生きて』(講談社)

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今週のRECIPE

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霜降りひらたけの根菜汁

今回は、福井で多く消費されている食材、油揚げを使った料理をご紹介します。

霜降りひらたけの根菜汁
カロリー
162kcal (1人分)
調理時間
30分
使用したきのこ
霜降りひらたけ
材料
【4人分】
  • 霜降りひらたけ
  • 2パック
  • 長芋
  • 30g
  • にんじん
  • 20g
  • 大根
  • 50g
  • 長ねぎ
  • 1/2本
  • 油揚げ
  • 1枚
  • 味噌
  • 100g
  • 大さじ2
  • 900ml
  • しょう油
  • 少々
作り方
  • 1.
  • 霜降りひらたけは小房にほぐす。長芋、にんじん、大根をいちょう切り、油揚げを細切りにする。
  • 2.
  • 油をひいた鍋に(1)の長芋、にんじん、大根を入れ中火で炒める。水を加えて油揚げを入れ、アクをとり、根菜に火が通るまで煮る。
  • 3.
  • 味噌、しょう油で味を調える。
  • 4.
  • 最後に霜降りひらたけと1cm幅に切った長ねぎを加えひと煮立ちさせる。(お好みで、しょうが・ごま油を加えても良い)
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番組へのメッセージ

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PROFILE

  • 長塚 圭史

    語り:長塚 圭史

    1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。
    また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。

  • 北阪 昌人

    脚本:北阪 昌人

    1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。
    TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。
    『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。
    主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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NEWS

特別版『オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!』
常盤貴子さん長塚圭史さん
風も、雨も、自ら鳴っているのではありません。 何かに当たり、何かにはじかれ、音を奏でているのです。
誰かに出会い、誰かと別れ、私たちは日常という音を、共鳴させあっています。
YESとNOの狭間で。
あなたは、自分に言っていますか?
YES!ささやかに、小文字で、yes!
毎週土曜日、明日(あした)への希望の風に吹かれながら、自分にyes!と言ったひとたちの物語を朗読でお届けしている番組『yes!明日への便り』。 1月8日は、その特別版「オードリー・ヘップバーンが教えてくれる、明日へのyes!」をお送りいたします。
2018年に没後25年を迎える稀代の大女優オードリー・ヘップバーンの波乱万丈な人生―女優になるまでの波乱に満ちた半生、輝かしい女優時代、ユニセフ親善大使として世界中の子どもたちに尽くした晩年までを、 女優の常盤貴子さんが演じます。
長塚圭史は「語り」の部分やオードリーの夫、また彼女の人生に影響を与えた映画監督の役を担当します。女優、オードリー・ヘップバーンが、私たちに教えてくれる、明日へのyes!とは?

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